42話:二度三度
こちらも同じく、学校が始まってしまったので更新率を下げたいと思います。
おそらく、一週間に一回かそれ以下となると思います。
ご了承お願いします(-Д-川)
明後日は始業式。そう、夏休みは残すところ今日を合わせて2日となってしまった。
この一週間はなんだか色々なことが起きて、大変だった覚えがあったのだが無事に俺は課題と言うものを終わらせることが出来たのだ。
が、俺と同じペースで問題集を開いていたスイはまだプリントと睨み合いを続けていた。
そう、奈倉先生による愛のプリントである。
見ればそのプリントにはスイによる文字は一切書かれていなく、ただ問題文がずらりと並べられているだけだった。
俺はその惨劇を見ないようにしつつ、朝食の準備を始めた。
冷蔵庫の中身は食材であふれかえっていた。この間切夜さんと小さなイザコザがあった後に寄ったスーパーで、買い物かごをスイに任せてしまったばかりに、こんな状態になってしまったのである。
気付いた時にはもうレジの順番が来ていて、人も多かったし流石に引き返せる状態ではなかったのだ。
しかし、買い物に行った日から3日たったにも関わらずこの食材の多さは異常だった。
そしてチルドルームにチーズが隠されているのを見つけてしまった。
「ミユの奴………」
いちいち怒るのも面倒だったので、それも見なかったことにする。
あいつのチーズ好きは好きを通り越してもはや愛しているレベルだと思う。
何においてもチーズ。チーズ。
この間もピザを出前で頼んだ時に、チーズピザを頼んだのにもかかわらずその上からさらにチーズをかけていた。
胃もたれするぞ、と忠告はしたのだがミユは全く聞く耳を持たず。それでいて体調は万全なのだから腹立たしい。
ボンッ、と後ろから音が聞こえた。おそらく、スイの頭が爆発したのだろう。
珍しく早起きしたスイはプリントと戦闘中。本当に、無駄なところで真面目なのだ。
自身は傍若無人な悪魔だとか豪語しているが、意味は分かっているのだろうか。
俺が思うに、分かっていないと思う。実際にキャラが成り立っていないから絶対そうだ。
冷蔵庫からハムを取り出し、台所に並べる。なんて分厚いハムなんだ。
テレビでやってたやつだ! とスイが購入したものだ。もちろん金は俺が払った。
贅沢にこれを使って、朝食を作ろうと思う。フライパンに油を引き、強火。フライパンが温まるまでしばらく待つ。温まってきたらハムを並べる。ジュゥ、と良い音と匂いが辺りに振りまかれる。
次いで卵を用意し、並べたハムの上に割る。ハムエッグだ。何とも贅沢な分厚いハムを使ってのハムエッグ。匂いに誘われて涎が出てきた。身体が反射的に反応している。これは美味いものだと。
同じく匂いに誘われたであろうミユが部屋から出てきた。キッチリと私服に着替え、家の中でも弛んだ様子を見せないいつものミユ。
少し茶に寄った色をした髪は肩にかからない程度で切りそろえられており、すらりと伸びた手足が一層彼女の美しさを際立たせる。もちろん、顔も可愛い。
ただし口は、言葉遣いは許容できないレベルなのだが。
「おはようございます陽助様。今日も朝から顔面が絶好調ですね」
「……それは否定的な意味で言ってるよな?」
「よくわかりましたね。流石自負していることだけはありますね。ミスター顔面狂気ですものね」
「顔面狂気!? 狂気じゃなくて凶器だろ! っていうかどっちにしても悪い意味じゃねぇか!」
「……元気ですね」
「なんで引くんだよ! 明らかに突っ込み待ちだったろ!」
「朝から絶好調ですね。その他も」
「その他って何だ、その他って」
少し長めの朝の挨拶をかわし、俺は調理に戻る。いい感じに焼けていた。
確かスイは卵を半熟に留めておかないと怒り出すはずだった。先にスイの分だけ盛りつけておく。
冷蔵庫の隅に何故か転がっていた賞味期限不明なトマトを輪切りにして隣に添えておく。
ご飯もちょうど炊きあがったようなので、盛りつけてお盆に乗せてリビングまで運んでいく。
「スイ、とりあえず飯食ってからプリントやれよ。朝飯食べる方が頭が活性化するらしいぞ」
「うー、分かった。卵半熟?」
「ばっちり半熟」
お盆から皿を下ろし、俺は台所に戻る。その間に会話が聞こえた。
「スイ、まだプリントを終えて無かったんですか?」
「そうなんだよミユちゃん。助けてよぉ~」
「それはできません。先生からの愛のプリントなのでしょう? 愛は渡された本人が受け取るべきですよ?」
「何ちょっと上手いこと言ってるのミユちゃん! あっ、このハム美味い!」
「スイは全然上手いこと言えてませんね」
それにしても、と俺は思う。
ミユとスイは性格が正反対であるのにどうしてこうも仲がいいのだろうか。
前にも言ったかもしれないが、天使と悪魔が仲が良いというこの風景に異常を感じるのは俺がそちらの世界を良く知らずに独断と偏見でものを言っているせいなのだろう。
しかし、翼を消して二人の特別な事情を消してただの女の子と見ると、心温まる風景に見える。
ほっこりとした気分で二人のやり取りを見ていると、なんだか心が洗われるような気がした。
と、ミユがこちらを振り向いて。
「何をしているのですか下僕さん。早く料理を下僕よろしく運んで下さい下僕」
心は洗われることはなかった。
「へいへい………」
げんなりとした気持ちを引きずりつつ、台所に戻った俺の目に、異常が飛び込んできた。
『ふむ、この料理……なかなか美味しいではないか』
真っ白で雪のように白い髪に、神に愛されたような綺麗に整った顔。自身の髪にも負けないほどの白く透き通った肌。服装はいつも通り、着せられた感が出ていた。
そう、もう会うことはないと言ったはずの主天使、ランだった。
「おい、勝手に人の家に上がり込んで何してんだ」
『あぁ、人間。少々試食させてもらったぞ、中々に美味だった』
「料理の感想を聞いているわけじゃなくてだな、お前もう会うことはないとか言ってなかったか!?」
『このハム、そうか。あの優男がCMをしているアレか』
言いながらも手を休めずに俺の皿に盛り付けられているハムエッグを口に運んでいる。
もはや試食とかいうレベルに収まっていない。完全に食べている。
「お前何気にテレビ見てるんだな……じゃなくて!」
『人間、ミユはここに存在しているか』
「……俺の話は一方的に無視されてるのか?」
『早急に答えよ』
「いや、いるけどさ。 とりあえずお前靴脱げよ……」
『なるほど、人間。貴様は靴に興味があるのか。残念ながら新品同様のこの靴は我の匂いなど染み付いてはいないぞ』
「どうしてお前ら天使はそう俺を変態的性癖の持ち主に仕立て上げようとするんだよ!」
『靴はくれてやる。リビングにミユはいるのだな』
ぽい、と放られた靴を受け止め唖然としている俺の横を通り過ぎてランは台所を出て行った。
その靴には汚れが全くついていなく、靴の底も磨り減ってはいなかった。
何か天使の術的なものがかかっているのだろうか、新品同様のその靴は少し輝いていた気がした。
俺はそれを玄関に揃えて置き、台所へ寄ってミユの分のハムエッグを持ってリビングに戻った。
リビングには無意味な威嚇を続けるスイと、椅子に座ったままシカトを決め込むミユがいた。ランは立ったままミユの事を見降ろしていた。
俺が玄関まで往復している間に一体何が……。
『ミユ、今日の午後は暇か』
「ええ、それなりに暇ですが?」
『では我に付き合ってはもらえないだろうか。天界の3億4738万0945番地にて待っている』
突っ込まない。俺は突っ込まないぞ。
「3億4738万0945番地ですか、いいでしょう。では人間界時間の1時にそこに着くようにします」
『ああ、では頼んだ。それと人間、料理は大変に美味だった』
この間と同じように空間に亀裂を生じさせ、それを無理矢理に開く。その亀裂の向こうは毒々しい色をした空間だった。
「いや、だから朝浦陽助だってば」
『ふん、もう会うことはない。我は無駄なことを覚えない性質なのでな』
「それこの間も言ってたじゃん……」
俺の最後の呟きは見事に無視され、ランは亀裂の向こうへと進んでいった。
手に持っていたハムエッグはもう冷めてしまっていた。
場所は天界3億4738万0945番地。ここは広大な土地が広がり、周りには障害物が一切ない見晴らしの良い草原だった。幾億もある天界の島々の中で、ここ以上に相応しい場は無かった。
そう、確かめるには手っ取り早い方法があるのだ。何も訊きだすことなどない。記憶という情報はすでに我が手にあったし、神の何かを隠そうとする態度からも情報は読みとれた。
だから、戦ってしまえばいいのだ。
あれほどの強大な記憶。酷く醜い記憶の持ち主であれば、それが嫌でも分かる。
あの記憶が本物だとすれば、あの力も本物である。
だから、戦ってみれば分かる。
「……わざわざこんなところにデートのお誘いをするということは、多少荒っぽいデートなのでしょうね」
『ミユ、来たか。流石のお前も名の知らぬ放置された番地の名を訊けば理解は出来たようだな』
ランはミユを視界に入れず、そう言った。一方ミユはランを視界から外さない。
『前に貴様から抜きだした記憶の中に、この世界の終わりを彷彿とさせる記憶があった。あれは何だ』
ランの真剣味を帯びた声に、ミユは多少困惑した。
真剣味を帯びていたからこそ、と言うべきだろうか。ランが何を言っているのかがわからなかった。
「なんの話をしているのですか」
『嘘を吐いているわけではなさそうだ。だが、知の欲求というものは抑えられなくてな。我がために剣を交えて真相を教えてもらおう。神が何を隠しているのか、そして世界を滅ぼすかもしれないその可能性を摘んでおくために!』
ランが叫んだ瞬間、その両手には左右違った特徴のある槍が握られていた。
右手には長く、余計な装飾は一切ついていない先端部分が青い槍。
左手には煌びやかな黄金を纏ったような、普通の槍よりも太さが特徴な槍。
どちらも嫌な予感がするもので、一撃貰えば何かがその身に襲いかかるだろう。
冷汗を流しつつ、珍しくミユは臨戦態勢をとった。
とはいっても、彼女は戦闘においては全く力の無い者なのだが。




