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3話:回り回って

こうして天崎美由ことミユと黒崎優美ことスイが何故かふたりそろってこのクラスに転校してきた。

転校生が同じクラスにってありえないだろ………。これもあの神様とかいう奴の仕業か。

なんでもアリだなもう、しかし俺は学校ではそんなに目立つタイプではない……のであんまりあいつらとは関わりたくないとは思っていた。

学校では、せめて学校では静かに暮したかった。

「下等………いえ、朝浦さん……いえゴミムシ。私たちは今日転校してきたので学校内の案内をしてくださいませんか?」

さっそく関わってきやがったぁぁぁっ!

なんなんだ、何故俺なんだ。他にもいるだろ、歌音とか!

「そ、そうだぜ! 案内しやがれこのやろー!」

優美……いやスイがいかにもって感じで迫ってくる。いやだから怖くないから、表情歪んでるし。

「ほらほら朝浦君、折角美少女転校生が迫ってきてるんだよ? 仲良くなるチャンスだよ!」

歌音もなんだか面白そうにはやし立ててくる。駄目だこれは、避けられない。

だからといっておとなしく従う俺ではない、学校では静かに暮したいって言ってるだろう!

「じゃあ歌音、俺の代わりに案内してやってくれ。俺が行くとまた変なうわさが立つだろ……転校初日から浮いてたんじゃあこいつら先が思いやられるだろ」

俺は頭を机に伏せたままそう言った。

そう、こいつらのことを考えて言っているのだ。そこのところ歌音なら理解してくれるだろうし、こいつら二人も理解できるだろう。

「何を言っているのですか? あなたの噂なんてとっくに取り返しのつかないことになっていますよ? このクラスでさえこんなに風潮されているのですから……悲しいですね」

「だよなぁ! アタシもさっき色んな子から聞かされたし」

グサッ

何かが深く突き刺さった。

俺……いや、分かってたけどさ、何この気持ち。しかも俺が心配してやっているのにだよ。

何こいつら………。

「え、え……え~? 朝浦君が言ってることそういう意味じゃないと、思うんだけどなー?」

歌音が困り顔をしながらもフォローしてくれる。それがまたつらかった。

俺はこのとき確信していた。学校も安静の場ではなくなったと。

最悪だ……神よ、俺を見捨てたのか……? いや神はあのおっさんだったか。もう終わったな俺、神の加護とか受けるとか受けないとかいう問題じゃねぇな。直々に見捨てられているよ。

「どうなんですか、ゴミムシ。 案内してくれるんですか、どうなんですか?」

「最早訂正もなしかよ……いいよ、いってやる。その代わり何言われるかしらねぇぞ」

「や、やった……じゃなかった。やっと分かりやがったかぁ!」

早くも仮面が外れそうになっているスイはシカトしておいて俺は席を立つ。それだけで少し教室の雰囲気がざわっとした気がする。

心が折れそうだ。

「私も一緒に行っていいかな、朝浦君」

きゅるんと可愛く輝く瞳を最大限に利用して歌音はそう頼みこんでくる。これが素でやっているから恐ろしい。っていうか、今の流れだとついてきて当然じゃないのか? いちいち礼儀正しい奴だな。

「構わないよな。美由、優美」

「きゃー、いきなりしたのなまえでよばれたわー」

「なんつう棒読み! しっかしイライラするなお前は!」

「お、おまえっ。アタシのこと名前で呼ぶなよな!」

「え、えーっと……とりあえず行こうね?」


唯一まともだったのがやはり歌音美里だった。





「んで、ここが食堂。俺は大抵ここで食べるかさっき行った購買でパンを買って昼は済ませてる」

「かわいそうに、いつも一人で……お友達いないんですよね。流石ダンゴムシレベルですね……。あ、いえダンゴムシ様に失礼ですね。この階級ピラミッドの最下層が!」

「え、え、……美由さん?」

「空耳でしょうか?」

「まぎれもなくお前の言った言葉だろうが!」

歌音が動揺し、ミユがスルーし、俺が突っ込む。

食堂に溜っていた下級生が驚き早足で逃げ出していく。ああっ、そんなつもりじゃ!

「流石は魔王の生まれ変わりとしか言い表せない眼をもった朝浦さんですね。ああしまった。朝浦さんと呼んでしまった……屈辱ですね」

止まることなく吐きだされる毒に対して俺はなす術がなかった。

俺は解毒薬なんて持ってきていない。このまま毒に犯されて死ぬのか俺。

もう歩く力も残ってないかもしれない。

歌音と言えばこちらの会話に気付かずスイと話をしている。スイは取り繕うのに必死で冷や汗をかいている。どうしてもアレ、取り繕う必要があるのか。

「あれ、屑さん? ゴミクズさーん。次の場所へは行かないのですか?」

こちらはこちらで毒しか吐かないし、どう考えたっておかしいわ!

「とりあえず時間がないからここまで、次の休み時間に他のところ回るからそれでいいだろ?」

「そうですか、何かイラッと……いえ、癇に障るのは何故でしょう」

「さぁ、なんで……でしょうか、ねぇ」

心は脆く崩れ去った。




ミユとスイは口を開かなければ美少女である。ミユは肩までのショートな茶かかった髪をいつも綺麗にセットしている。背丈も女子生徒の平均より上でスレンダーな体系をしている。そのくせ出るとことは出ているというなかなか魅力的な身体なのだ。スイの方は、ミユより頭一つ分背の低い身長で、普通にしていれば愛らしいという表現がぴったりと当てはまる。髪は黒髪ロングで腰辺りまで伸ばしており、つややかな光沢をもっている。身体の方は言わずもがな、特定の人が喜びそうな感じだった。

二人とも美少女ということは俺だって認めてもいいと思う。現に授業中の今、ミユとスイは男子諸君の視線を集めている。ミユの方は気にする様子もなかったが、どうやらスイはそうもいかないらしい。妙にソワソワしているし、頭を掻いたりしている。あいつの性格からして恥ずかしがっているのだと俺は思う。

他に分かったことと言えば、ミユが頭がいいということ。転校初日で初授業だというのに当てられても動じることなく淡々と答えを出していく。英語の時間ではテキストの発音も完璧だった。

そしてこれもお決まりというように、スイは勉強ができない。当てられこそしていないが、先ほどから冷汗をタラタラ流しつつノートを取っているところを見ると、多分できない。

っていうか、悪魔らしく振舞うのであれば勉強なんてしなくていいと思う。

変なところで真面目な奴だった。

「さて、この問題は……歌音。解いてみなさい」

ちなみに今は数学の授業中だ。スイは勉強を放棄したらしく、机に突っ伏している。ミユは授業が始まってから一切動いていないかのようにピッシリと背筋を伸ばして椅子に座っていた。

「はい、ここは………」

歌音も真面目な奴だった。俺はというとまぁ、普通に授業を受けている。普通ってのがどんなものかは想像に任せるが、決して不真面目ではないということを心に留めておいてほしいと思う。

「できました!」

「よし、正解だ。流石歌音だな」

「えへへ……」

歌音美里。本当に不思議な奴だと俺は思っている。クラス内や先生からの評判も良く、元気で可愛気のある女の子。短いツインテールと光り輝く瞳が特徴である。成績も結構いい方。

そんな子が俺なんかとつるんでいる。いや、言い方がヤンキーっぽいな、俺は一般人。えーと、仲良くしてくれているのだ。真面目な女の子は普通俺のような根暗なのかヤンキーなのかどっちつかずのような奴に接してくれるものなのだろうか。それとも彼女なりの平等なクラスメイトとしての接し方なのか。そう言えば彼女はいつもクラス内の全員と一言以上は話を交わしている。彼女なりのスキンシップなのだ、と俺は考えるだとすると全く不自然ではない。会話数が多いのも席が近いというだけの話。ただ、俺のような奴と話していると変な目で見られるようになるってことは覚えておいてほしいね。



放課後、 俺は部活に入っていないため颯爽と帰るのだが………だが。

いつもは学校の喧噪から逃れるために早々と帰宅する。しかし、しかしこいつら・・・・が俺の家に住み着くとなれば話は別だ。落ち着いていられない。

さて、どうしたものか………。

「あれ、朝浦君?」

学校指定の体育服に着替えた歌音がそこに居た。

確かこいつは陸上部だったな……。それにしても……いや、なんでもない。

「どうしたの? いつもならすぐ帰っちゃうのに。あ、ひょっとして新しく部活始めたの?」

「違うけどさ……なんと言うか、帰ってもうるさいかなって」

「うるさい? 朝浦君って確か一人暮らしだったよね?」

「え、あ、まぁ……ってかなんで俺が一人暮らしって知ってんの?」

「何言ってるのー? 前に話してくれたじゃない、マンションに住んでるって」

「そうだったかな……」

覚えていない。他愛もない会話は記憶から抜け落ちていくものなのだろうか。

俺に限ってそんなことは……あるかもしれない。

「………」

無言で俺の前の席に座る歌音。春だからといってその薄着はどうなのだろうか、せめて学校指定ジャージを上に羽織るとか………。

「走ってたのか」

「そうだよー。でもなかなかタイム上がらなくってさぁ」

「ふうん………」

他愛もない会話。

多分これも。明日辺りには抜け落ちているだろう。

「わりいな、やっぱ帰るわ」

「あ、そう? じゃあ私も部活に戻ろうかな」

「じゃ、また明日」

「うん、また明日ね朝浦君」


俺は歌音に背を向けて教室を出た。










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