1話:天からの刺客
新作です! 今回もまたSFに挑戦してみました。
更新率は上がると思いますので、みなさんよろしくお願います。
始まりと終わりは唐突、って何かの本で読んだことがある気がする。
はっきりと覚えているわけでもないので、誰かが言った言葉だったのかもしれない。
その文字を見た────いや、聞いたとき確か俺は共感していたはずだ。
始まり、いつも唐突で待ってはくれない。抗うことも出来ずただただ、迫りくるもの。
終わり、こちらもまた唐突で待ってはくれない。逃げることもかなわない。
対の存在のはずなのに、すごく似ている。意味を入れ替えても通じるような気がする。
と、言うよりなんで俺がこんな話をしているのかというと、純粋に暇だからだ。
今は昼休み。 しかしながら俺の周りには人一人いない。
誰もが遠巻きに眺めているか、離れているかだ。………どちらも同じか。
その理由は十分自分で理解している。
目つき、雰囲気、愛想………etc. 確かに俺は人付き合いがそんなに上手くはない。むしろ下手だ。
目つきも良くはない。三白眼がどうだとか目が鋭いだとかは知らん。
そんなことで、ヤンキーだとか不良だとか言われたりする………いや、しない。
しないけど、周りに人がいないことは確かだった。
先に否定しておくが、不良ではない。煙草も酒も薬もしない。
ここばかりははっきりと言っておかなければならない。
そんな俺にも声をかけてくる物好きな奴がいる。物好き……とは違う?
「どうしたのっ、朝浦くん。 そんな怖い顔して」
ほら来た。昼休み終了十分前に自分の席に座り、かつ俺に話し掛けてくるこの女。
歌音 美里。姓も名も下の名前みたいな奴だ。
そして俺の前の席でもある。
「怖い顔はいつもだ」
いつも通りの切り返し。ここから昼休み残り時間は会話に使われる。
「あはははっ、そうだったね。そういえばさー」
と、まぁこんな具合である。
滝原高校生、2年C組、朝浦陽助。
そんな俺の生活は面白すぎることもなく、退屈すぎることもなく平凡な生活を送っていた。
面白いことは望んではいなかった。
だけど、退屈も望んではいなかった。
なんか今日は対比ばっかりだな。
そう思ったころにはもう昼休み終了5分前だった。
「でさ、………聞いてる? 今他のこと考えてたでしょ」
「ああ、……今日は対比ばかりだなって」
「? どうしたの急に。何か悩み事?」
ちょこん、と高めに結んでツインテールにした髪を揺らしながら首をかしげる。
きゅるん、と目が心配そうな光を見せる。
歌音は女子でも可愛い方の部類に入ると俺は思う。だからと言ってこれはどうなんだろうか。
素でやっているのだとしたら恐ろしい。
「や、……なんでもねぇよ」
「そう? 無理には聞かないけど、困ったときはお互い様だからね?」
上手いな、歌音は。
自分から突っ込むことをしない。相手が頼ってきたら、本気でそれに応える。
なかなか出来た人間だよ。何で俺なんかに構うのかねぇ………。
あ、俺が一人だからか。
「さ、次は英語だよ~♪」
何が楽しいのか、鼻歌交じりに教科書を準備する歌音。
そこは紛れもなく平和だった。
深夜、がたがたと風によって鳴り響く窓の震える音で目が覚めた。
朝はあんなにも天気が良かったのにこれはなんだろう。
眠れなくなってしまたので仕方なくベットから起き上がる。リビングの電気をつけ、テレビをつける。
≪謎の低気圧が日本列島に接近中で………雨風が強いです! あぁぁー≫
情けない声を出しながら風にされるがままになるレポーター。大変だな。
ソファーに腰掛け、ぽちぽち……とチャンネルを変えてテレビを流し見する。
リビングに反響するのはテレビの音のみ。それはそうだろう、俺は一人暮らしなのだから。
両親に無理を言ってマンションの一室を買ってもらってここに住んでいる。誰もが憧れるであろう夢の一人暮らしというわけだった。もちろん親には感謝している。
俺は不良ではないのだから、高校をしっかりと卒業した後に就職して親孝行するつもりだ。
と、そんな話はいいとして目が覚めてしまった。チラリと時計を見やると午前3時。
なんて時間に起きてしまったんだ。
ガガガガガ、と風がさらに強まる。窓が振るえ、今にも割れそうな勢いである。
たぶん、というかまず眠れないと思う。俺はうるさいのは嫌いだった。
暇つぶしにすることもないのでソファーで横になる。こうすれば多少は眠気が襲ってくるであろうという考えだ。
コォーン、コォーン、と遠くで音がする。看板でも吹き飛ばされたのだろうか?
めきめき、と嫌な音。マンションが軋んでいるのかもしれない。どれほど風が強いんだ。
ゴゴゴゴ、と地鳴りの音。地震………か?
その揺れは激しさを増し、縦揺れへと変化する。
「ま、マジかよ……ありえんだろ!?」
身体を起こして辺りを見渡すと、そこはもう俺の知っているマンションではなかった。
空気が澄んでいて、明るい。先ほどの天候とは打って変わって晴天だった。
「へ……?」
混乱して座り込んで状況を整理しようと試みるが、それも上手くいかない。
夢か、これは夢でいいのか? それにしては五感がやけに反応している………というか夢にしてはリアルだ。
すっ、とそこで俺の頭上から影が降ってきた。
「ほっほっほ………やぁ」
「だ、誰ですか」
こちらを見下げていたのは白髭のおっさんだった。どこか仙人を思わせる風貌をしていた。
杖だってついてるし、髭が地面すれすれまで伸びてるし。
「ワシは大天使、いや神様である!」
「こんななれなれしい神がいるかよ……」
「嘘じゃない! 本当じゃもーん」
そう言って神様(仮)は頬を膨らませたりしている。もちろん可愛くないし。
加えてヤバい、むかつく。夢の中のはずなのにすっげぇ腹が立つ。
初対面の人間にここまでイラッとしたのは初めてかもしれない。
「まぁ、そんなことはどうでもいいのじゃ。明日からお前のところに天使と悪魔を一匹ずつ送るからのー世話してやってくれ」
「まったくもって意味が分からないんですけど。唐突にもほどがあるでしょう!」
「下界に修業のために仮住まいが必要でのー。普通………いや、とりあえず頼んだからの」
「適当すぎんだろ!」
「はいさようならー」
神様(仮)がそう言うと周りの景色が液晶のごとく大破していく。崩れ落ちた風景の隙間からは真っ黒の空間が現れ、俺はそれに吞まれていった。
「夢であって欲しかった………」
朝目が覚めると、黒い羽を生やした小さな女の子と白い羽を生やした少女がじゃれあっていた。
というか、一方的に白い羽の少女が黒い羽の女の子に向かって何事かを話していた。
「「はっ!?」」
両方は俺に気づくと立ち上がり、深々とお辞儀をした。
「私たちは天界からやってきました。単刀直入に言いますと、私達はこれからあなたのお世話になります。じ………神様からお告げを頂いていると思いますが?」
白い羽を生やした少女────おそらく天使であろう子がそう言った。
ああ、確かに聞いているとも。夢の中で、な………。
使いが2人ほど修行で人間界に行くからよろしく頼む、と。とりあえず送っとくからがんばってねー、みたいなノリで。
「……聞いてる」
「ひゃははははっ、そうか。じゃあ、わ………アタシ達はここに住むことになっから、よろ……よろしくぅ!」
黒い羽を生やした女の子────おそらく悪魔であろう子がそう言った。
それも聞いた。そして、この非日常が俺は何で受け入れられるか、なんだけども。こういうこと昔にもあった気がして……今は記憶にないんだけど確かにあったんだよ、昔。
だから驚かないって言うか、驚いても何もいいことがないって言うか………。
起きてしまっていることはどうにもならないような気がして、受け入れるしかないと思うから。
「あの………どうかされましたか、ゴ………陽助様?」
天使が顔を覗き込んでくる。あまりにも整った顔に思わず見蕩れてしまう。
「って! なんでもない。………2人、名前は?」
「私の名前はミユと呼んでください。下等………いえ、陽助様」
どうぞよろしくお願いします、と礼儀正しく頭を下げる天使、ミユ。
「アタシの名前はスイです、っだ! よろしくぅ!」
一瞬頭を下げようとするが、一度びくりと体が跳ね上がると、こっちにガンを飛ばしてきた。怖くない。
むしろ、小さな女の子が『怒ってるぞっ』って言ったときの顔にしか見えない。
ミユより頭一個分低いスイは、身長と顔のせいもあってかかなり幼く見える。
と、話がずれたな。
「で、俺は具体的に何をすればいいんだ? 修行って言っても俺が教えられることなんかないぞ」
「いえ、大丈夫です。学校に通い、人間と触れ合うことが今回の目的だそうです。なので、下等生物……いや陽助様にはそのサポートをしていただきたいと思っています」
………何かおかしな点は見当たらないだろうか?
「じゃあ、スイもおんなじってことでいいのか?」
「ひぅっ! ああ? ………あぁ! オッケーだ!」
………何かおかしな点は見当たらないだろうか? 気のせいでは……ないだろ!
「ちょ、ちょっと待て。俺は何か大事なことを見落としている、というか見て見ぬふりをしているような気がするんだが……」
「いきなり饒舌になりましたね」
こいつだ。
「おい………ミユ。お前相当性格悪いだろ?」
「何を根拠に言っておられるのですか。 あなたのような下等生物………いや間違えました、陽助様にそんな洞察力は備わっていないかと私は考えます」
「肯定ってことでいいか!? それに間違える要素がどこにあるんだよ! 最後の方も誤魔化してるつもりかもしれないけど結構貶してるからな!?」
「いきなり饒舌になりましたね(笑)」
「(笑)じゃねーよ!」
「あわわわ、喧嘩はよくないよぉー。ミユちゃんも陽助さんも…………はっ!」
俺とスイだけが、この部屋の中で凍りついた。
「あ、えと、喧嘩なんかしてんじゃねぇよカスどもがぁ!」
「すべてにおいて遅いわ! てめえもキャラ作ってやがったな!」
「んなわけないだろうがぁ!」
「だから遅いっつうの!」
「急に饒舌に─────」
「それはいいっての!」
なんやかんやで騒々しい朝だった。折角の休みの日の一日の始まりがコレだった。
「で、平日はどうするんだよお前ら」
朝食を3人(?)で取り終えた後、テーブルを囲んでこれからについて話し合う事にしていた。
天使や悪魔も食物を取るんだなぁ、と無駄に知ってから5分後の話である。
「もちろん学校に行きます。すでに許可は出ています。ジ………神様は何でも出来ますので」
さらりと言ってみせるミユからは、冗談を言っている様子はない。
それにしても、取り繕ってる感がビシバシ伝わってくる。
なんか早くもうんざりしてきた………。
「わっ……アタシも行くことになるからなっ! 覚えておけよ!」
こっちはこっちで、無理にがんばってる感がすごく出ている。
それが可愛らしく見えているのも一つの問題だとは俺は思う。どう考えても悪魔って言う感じじゃない。
「どうせそんなことだろうとは思っていたけど……羽はどーすんだ?」
「ステルス機能が使えますのでご安心を。ゾウリムシ………いえ、陽助様が気にかけることはおそらくないかと」
「わざとだろ。切れて良いのか?」
「そんな怖い目で睨まないでください。震えてしまって立てません」
嘘だ。超余裕、見たいな顔してんじゃねぇか。
「ここここ……怖いよぉ」
涙目でカーテンに包まっている奴一名。言わずとも解るだろう。
「………まぁいい。それよりお前らここに─────」
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。正確に言えば、エントランスからの通信だが。
「んあ? 誰だろ」
モニターで確認すると、ニコニコと笑う青年がダンボールを抱えていた。
「きたようですね」
「そだねー………はっ! そだなっ!」
二人して同じような反応を見せる。どうやら宅急便のようだ。
ダンボールを受け取り、部屋へと戻ってくる。
これ、なんだ?
「早速開けましょう」
出てきたのは、制服・カバン・体育服………etc.
コレは一つの可能性を表していた。生活用品が多い………。
「お、おい。まさかお前ら………ここに住むわけじゃ、ないよな?」
そんなときだけ二人はシンクロしたように声を重ねて言う。
「「あたりまえでしょう?」」
いかがでしたでしょうか。
見た目ヤンキーな陽助に加えて性格破綻天使ミユ、超ビビり悪魔スイが主な登場キャラクターとなっています。
この三人が繰り出す日常とその他の出来事を楽しみにしていてください!
これからもどうぞよろしくお願いします!