やる気スイッチ
やる気スイッチONの松太朗くんは、真っ赤になって俯き後ずさる織りちゃんを逃しはしませんでした。
「織り・・・。やはり、弁当は一緒にうちで食おうではないか?」
織りちゃんが後ずさる分、松太朗くんは織りちゃんに近づきます。
「じょ…冗談じゃありませんわ。今日は数学のテストがあるのです!受けなければ補習になってしまいますのよ」
真っ赤な織りちゃんは、妖艶な松太朗くんにタジタジしながらも、潤んだ瞳をきゅっと旦那さまに向けます。女子高生の必死の抵抗です。ブンブン腕を振る織りちゃんのそれを、松太朗くんは抑えてしまいました。
「ひっ!?」
織りちゃんの顔が真っ赤なまま引きつります。
最近の松太朗くんは、ちょっと積極的です。織りちゃんもそんな彼を嬉しく思う反面、戸惑いが大いにありました。もちろん夫婦なのですから、積極的にイチャイチャするのは問題ありませんが、なにぶんまだお互いまだ学生です。学生らしいお付き合いというものがあるような気がします。夫婦ですが、そんな気がしてなりません。否、学生夫婦だからこそ、節度ある付き合いが必要だと思うのです。
そんな考えで頭がパニックになっていると、松太朗くんは織りちゃんの頭を抱えました。そして、そのままゆっくり近づいてきます。
「しょ…松太朗さま、お待ちになって!」
「無理であろう」
「そん」
そんな、というより前に、織りちゃんの唇がふさがれてしまいました。今はやりの壁ドンではないのですが、松太朗くんがしっかりと織りやんの頭を支えているので逃げられません。お弁当を持っていた方の手もいつの間にやら開いてしまって、そのままむき出しの織りちゃんの脚をゆっくりと撫で上げていました。
ピンチでした。
完全に本気スイッチが入ってしまった松太朗くんの、「男の色気」はハンパありません。数学のテストなんて、どうでもいいわ…。そんな考えで頭を痺れさせてしまうほどの麻薬なのです。
離れようと、頭を左右にふる素振りを見せてもそれは敵いません。むしろ、織りやんが抵抗しようとすればするほど、松太朗くんは積極的に彼女を求めます。そして、逃げようと考えが及ばないくらい、痺れさせてしまうのです。なんという悪い旦那さまなのでしょう。
「も…だめ…です…。あぅ…」
なんだか、織りちゃんの声もあまぁくなっていきます。潤んだ瞳に蒸気した頬、濡れた唇に、アンバランスな制服。松太朗くんの手にかかった織りちゃんは、彼に勝らぬとも劣らない色香を醸していました。
「そうか?だめ、というふうには見えんぞ」
なんて甘く低い囁きなのでしょう。その声で揺れる空気に触れただけで、くすぐったくなってしまします。織りちゃんは小さく声を上げて目を閉じました。
遅刻しそうになって、教室まで猛ダッシュした時よりも、心臓はドキドキしています。クーラーが壊れた教室で歌の練習をした時くらい、体が熱くてたまりません。そして、宿題を自分だけ忘れて、先生に怒られる時のように、松太朗を直視できませんでした。
「ダメ…です。…んぅ…わたくし、学校へ…」
松太朗くんは、織りちゃんの言葉を拒むがの楽しいかのように、可愛らしい唇を啄みます。
「もう、良いではないか」
「ダメですぅ」
いやいやと首を振る織りちゃんに、とどめ、とばかりに松太朗くんは脚を撫でていた手で、ブラウスのボタンをはずしました。そして、火照った織りちゃんの細い首筋に舌を這わせました。
「ひゃっ!」
驚いた織りちゃんは思わず声を上げ目を丸くしました。しかし、かまわず松太朗くんは、起用に腕を織りちゃんの背中に回すと、下着のホックをはずしてしまします。そのまま、指で背筋をなぞると、もう、織りちゃんは陥落してしまいました。
「ひどいわ、松太朗さま。こんな…こんな…」
ソファに顔をうずめてヒックヒックと鼻をすすりながら泣く織りちゃんに、松太朗くんは満足気に微笑みます。
「織りが愛おしくて仕方ない、ということが分かったであろう」
なんて、鳥肌がたってしまうようなキザなせりふをサラリと言ってのけます。
「わたくしが落第したら、どうしますの?」
しかし、そんな甘いキザなセリフなど、まったく気にも留められないくらい混乱している織りちゃんは涙にぬれた顔を上げ、松太朗くんに非難がましく言いました。
「松太朗さまだって、そうですわ。わたくしごときに、こんなに気をかけていらっしゃったら、単位をおとしますわよ!だいたい、松太朗さまだって、今日は2時間目から実技なのでしょう!?農地まで行かねばならぬと、おっしゃっていたではありませんか!」
よく回る織りちゃんの頭と口に感心しながら、松太朗くんはポリポリと頭をかきました。まあ、可愛さのあまり我を見失ってはいけないな、とは思っている。過去、妻を愛しすぎたため、国政を怠り、国を滅ぼした皇帝だっているのだから…。後世まで、そのようなことが伝われば、末代までの恥である。
「仕方がないではないか」
フッと儚く微笑み、ポンポンと織りちゃんの頭を撫でてやります。あまりに取り乱したお嫁さんに、なんだか申し訳ないことをしてしまったと思ったのです。もちろん、それは彼女への愛情故のものだったのだが。
しかし、そんな松太朗くんの思いを知って知らずか。織りちゃんはポカポカと松太朗くんを叩きます。
「仕方なくないですわよぉ。もう、松太朗さまのばかぁぁぁ」
泣きじゃくる織りちゃんを優しく包み込み、旦那さまはその愛情を彼女に注いだのでした。
「織り、実は謝らなくてはならないことがある」
織りちゃんを抱きしめたまま、松太朗くん優しくいいました。怒ることを諦めた織りちゃんは、涙声で答えます。
「もう、いいですわよ。どんなに松太朗さまがあやまったって、時間は戻りませんし、わたくしの数学の補習は免れませんわ」
ちょっと恨みがましい言い方かもしれない、と思いながらも止まりませんでした。
松太朗くんが自分の頭の上で、小さく笑ったのが分かりました。
「うむ、確かにそうかもしれん」
織りちゃんの頭を優しく撫でながら、松太朗くんは続けます。
「しかし、台風の影響で高校と大学が休校になったのも、変わらぬ事実だ」
何と優しい声でしょう。そして、穏やかで…。さらに心なしか上ずっているような…。
「…え?」
織りちゃんは、思わず顔を上げました。松太朗くんの言葉に、わが耳を疑い、ポカンと愛しの旦那様を見上げます。その旦那さまは、涙でぬれたお嫁さんの頬を優しく拭ってやりました。そして、もう一度言いました。
「台風のせいで、今日は学校が休みになったと、連絡網が回ってきた。だから次の吉田さんにも回しといたぞ」
松太朗くんのその言葉に答えるように、外では突然雨が横殴りに降ってきました。
「だからな、織り。今日は一日、俺と一緒にいよう」
さらに、窓の隙間から風の唸る音が響きます。
織りちゃんは、しばらくポカンとしていたかと思うと、しばらくして、手あたり次第にリビングのソファや自分のカバンやらを松太朗くんに投げつけ、お弁当をもって、自分の部屋へと帰っていきました。
めでたしめでたし。




