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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
5章 適応する世界でものんびりしたい
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迷宮統括委員会本部2


 「ふむ。じゃあ次は……三浦香織さんだね? 総理のお孫さんの」


 「はい、そうですわ。お爺さまがお世話になっております」


 「お世話だなんて。逆にこうやって椅子を用意してもらったのは僕の方だからね。ところで昔一度会ったことがあるんだけど、覚えてないかな? あの時はまだふさふさだったんだけど」


 そう言いながら自分の頭に手をポンポンとする禿頭の男性。いや、迷宮統括委員会統括。


 「……申し訳ありません。物心ついてからであればお爺さまのお知り合いの方は全て覚えているのですが」


 「あらら〜、残念。確かにまだ小さかったからね。言葉を覚え始めた頃だったかな。いやあ、おじたまおじたまって、かわいらしかったなぁ。それが今ではこんなに淑女になっちゃって」


 「ふふっ、お恥ずかしいですわ。ですが、ありがとうございます」


 統括は昔話を織り交ぜながら香織と普通に世間話をしていた。それに対応する香織の横顔に見惚れてしまったりもしたが、それは俺だけではなかったようだ。フェリシアが香織をジッと見ていたのだ。しかし見惚れるというよりは……観察だろうか?


 「総理も鼻が高いだろうね。うちの孫ももっとしっかりしてくれればいいんだけど。さて……次は坂口杏奈さん」


 「は、はい! なんでございますですか?」


 「いいよいいよ、いつも通りで」


 「うぅ〜。すみません」


 「坂口さんのお父さんは電機メーカーの社長さんだね?」


 「は、はい」


 「ご家族は君が探検者となっていることに何か言わないのかい?」


 「心配されてはいるみたいなんですけど、お兄さん……悠人さんがいるならということで応援してくれてます」


 「ふむふむ。そうかそうか、わかったよ」


 「へ? それだけっすか?」


 「うん、それだけだよ。じゃあ次いこうかな。え〜っと、おん……おんかげ君?」


 杏奈への面接、と呼べるかどうか怪しい会話はすぐに終わり、次は俺だ。


 「ミカゲです」


 「あっ、そうだったね。さっき聞いたばかりなのにすまないね。ボケちゃったかな〜」


 「ご冗談を」


 「見たところ君を中心として集まっているように思えるんだけどね。君はどのくらい強いのかな?」


 「どのくらいでしょうね。強いて言えばペルソナが一蹴したという海外の精鋭よりは強いでしょうね」


 「へえ〜。自信家だね」


 「自信家どころか逆ですよ。ですが、事実は事実です。ペルソナには敵いませんけどね」


 「そうかい。……失礼したね。気を悪くしないでね」


 「気を悪くなんてしませんよ。だってこれがあなた流の試験なんでしょう?」


 なんとなく感じ取っていた。少し無駄な要素というか、チクチクと針で刺すような対応。おそらくこの統括は、俺たちの為人ひととなりを見ようとしているのではないか、と。


 「……あら。バレちゃってた? でもみんなを一通り見るまで言わずに待っててくれたんだね。なるほどなるほど。総理が推すのも頷ける」


 「それで、俺たちは合格ですか?」


 「もちろんだ。だけど……何を見ていたか知りたくはないの?」


 「いえ、それは俺たちが知らなくて良いことでしょうし」


 「ふっふっふ。じゃあ今の質問で合格としようかな」


 「ありがとうございます」


 「ところでその犬は君達のペットなの?」


 「まぁ……そうなんですが」


 「何かあるなら言ってごらんよ。僕ね、これでもここで一番偉いんだよね。日本の将来を左右するかもしれないここでだよ。だから君達を大事にする理由こそあれ、蔑ろにする理由はないからね」


 そう言って禿頭を光らせウインクする。変な人だが……まぁ気にしない方が身のためだな。


 「……わかりました。チビ、元の大きさに戻ってくれるか?」


 「わふ」


 それなりに広い部屋に巨大な狼が姿を現す。すると統括は大きく目を見開いてチビをまじまじと見ていた。

 さすがに刺激が強いよな。でもチビの存在はこの人には知っておいてもらった方が良いような気がするし。心臓発作とか起こさないでくれよ頼むから。


 「ふ……」


 「ふ……?」


 「ふぉおおおおお! す、すごいね! はぁ〜! これが純ちゃんが言ってた狼なんだね! いやあ! これはすごいね!」


 意外と大丈夫そうだった。統括は総理を“純ちゃん”と呼んでいるのか。それはともかく総理、バラしてたのかよ。でもまぁそれでよかったかな。そういう“餌”が必要だったのかもしれないし、それにいきなりじゃ刺激が強すぎるだろうし。あとこの人たぶん、犬とか超好きだ。ならたぶん善人の可能性が高い。偏見だが。


 「チビはモンスターなんですが、奇跡的に懐いたので飼ってるんです。普段はダンジョンの中にいますし、地上に来てもさっきみたいにチワワサイズになってたり、そもそも大人しい上に賢いので危険はないです」


 「ペットの申請はしてるの?」


 「いえ、してないんですよね」


 「ふむ。問題があるようならこちらでなんとかするから、心配しなくていいよ」


 その後の統括はチワワサイズのチビにメロメロになり、甘噛みされて喜んでいた。チビは人心掌握術を会得しているのだろうか。この人タラシわんこめ! あ、狼か。


 「あっ、そうそう忘れてた。君達はダンジョンからダンジョンへ自在にワープできるんだろう?」


 「誰から聞いたんです?」


 「総理に決まってるじゃないか。僕ね、もう隠居しようかと思ってたんだよね。だけど面白そうな案件があるって聞いてね。初めて聞いた時はたしかに面白そうだと思ったんだけど、ただで受けるのもなんだかな〜って。それで交換条件としてその後も総理にいろいろ聞いてるから、実は結構知ってるかもしれないね。あっ、心配しなくても秘密は守るよ」


 「はぁ。そうなんですか。まぁできるかできないかで言えばできなくはないです」


 「ふむ。その言い方、条件があるのかな?」


 「はい」


 「なるほどね。じゃあ一度行った場所になら行けるとかかな?」


 「まぁ……そうですね」


 「それじゃあここの地下へ行こうか」


 「はい」


 事前にエアリスが調べていたためここの地下にダンジョンがあることは知っている。そのダンジョンは警察や自衛隊が入ったことがあり、難易度は離宮公園ダンジョンよりも高いという話を地下に行くまでの間に統括から聞いた。


 元々はある企業のオフィスビルだったのだが、世界にダンジョンが生まれた日にここの社員のほとんどが失踪した。残った人によると、社長が社員と共にダンジョンに入ったきり出てこなかったのだという。多数のアニメを制作してきた会社であり社員も当然ダンジョンと聞けば入りたくなるような人材がほとんどだった。


 (なるほどな。やっぱり最初に大人数で入ったから、ダンジョンがその人数用に設定されたってことかもしれないな)


ーー そうですね。そして更に入った人間が全員ダンジョンの餌食になったと仮定すると、難易度はどれほどまでふくれあがっているやら ーー


 ダンジョン入り口は世界一の大監獄を思わせるほど厳重に封印されていた。外からは探検免許で開くことができるらしいが、登録された免許でなければならないらしい。中からは探検免許、もしくは幾重にも施された生体認証キーにより開く扉がいくつもあり、たとえモンスターに追われても人が通り過ぎればすぐ閉じる扉に阻まれるのだとか。まるでSFだな。


 「それじゃあここから君たちの拠点に帰れるね?」


 「はい。問題ないと思います」


 「来るときもここから来るといいよ」


 「ありがとうございます」


 ダンジョンに入ると、俺たちが知るダンジョンとは明らかに違っていた。壁や天井は綺麗に整えられておりまるで人工的に造ったように思える。通路は広く、俺たちが横に並んでも通れる広さ、そして21層の俺たちの拠点であるログハウス、その離れに使用している光る石が大量にあるのか、暗視がなくとも問題なく見えるだけの光量があった。


 「一体何人入ったんだろう」


 「このくらいだと八十人くらいかな。その人間が全員ダンジョンの餌になったならモンスターもすごいかもねー。ん〜。なんだか久しぶりにダンジョンに帰ってきた〜って感じがするよ」


 質問に答えたフェリシアに「ちゃんと大人しくできてえらかったな」と褒めておく。

 よしよしと頭を撫でると、腰に手を当て無い胸を逸らしながらドヤ顔する。そのままみんなで撫でているとフェリシアはくすぐったそうにしていた。


 いくつかの転移の珠に登録しすぐに転移してログハウスに戻ってもよかったのだが、せっかくなので少し探索してみることにする。とは言っても俺というかエアリスは内部構造とモンスターを大体把握している。大体というのは、あまりにも広すぎて把握しきれないのだ。


 「そこの通路にいるみたいだよ」


 「モンスターっすか? っていってもどうせダンゴムシとかっすよねー。ここはあたしがちゃちゃっとやってくるっす」


 余裕といった様子で通路を駆けていく杏奈は数秒後、「ぎゃああああああ!」という絶叫とともに戻ってきた。それはそうだろう。なぜならそこにいるのは——


 「ご、ごごご……」


 狼狽すぎている杏奈に「ごごごって何よ」と悠里が冷たく言い放つ。


 「ごき……く、黒いアイツっす……!」


 「黒い……アイツ? ま、まさか」


 杏奈と悠里のやりとりでみんなも想像できるだろう。

 そこにいたのは台所の裏番長として有名なゴキ先輩だ。しかも大きさ、三メートルほど。通路がやたら広いのは、そこにいるモンスターの大きさに比例しているのかもしれない。


 女子たちはぎゃあぎゃあと言っているが、ゴキブリの反応はササっと近付き止まり、またササっと近付いては止まっている。そして通路の角から顔を出した瞬間、俺の横をヒュンと通って行ったものがあった。さくらのリニアスナイパーから放たれた銃弾だ。その銃弾はゴキブリの頭を粉砕。壁を伝ってこちらへ近寄って来ていたゴキブリは黒いエッセンスを纏った死骸となり音を立てて地面に転がった。


 「お〜。さすがさくら」


 「いいから早く片付けちゃって?」


 「え? エッセンスいらないの?」


 「近寄るのも嫌よ」


 「でももう死んでるし」


 「いいから。いじわるしないで早く吸って……ね?」


 「わかったよ。じゃあ遠慮なくいただきます」


 「なんだか……言葉だけ聞いたらえろいっすね」


 杏奈が何か言っていたが聞かなかったことにしてゴキブリのエッセンスを腕輪に吸収する。名前はクレイジー・コックローチか。ところでエアリスは吸収する前にわかっているはずなのになぜかだんまりだ。


 (どうした? 具合でも悪いのか?)


ーー 実際に見るのは初めてですが、本能に訴えかけてくるかのようなこの嫌悪感、とても気持ち悪いですね ーー


 (俺もゴキブリを見るとひゃぁぁってなる方だけど、まだ平気だぞ?)


ーー それはワタシがそういった感情を食べましたので ーー


 (あ〜。そういえば言ってたな。俺の感情を喰ってるって)


ーー はい。しかし良い感情はほぼそのままですのでご安心を ーー


 (ほぼ?)


ーー ……ときどきちょっとだけ味見程度に舐めてるだけですので ーー


 (おいしいの?)


ーー はい。とてもとても ーー


 (そうなの。無感情なロボットにならない程度にならいいけど)


ーー その点はご心配なく。分を弁える系女子ですので ーー


 (どの口が言うんだか)


 ドロップ品は星石と、触覚だった。当然誰も欲しがらず、俺もいらないので捨ててきた。

 それからしばらく虫型モンスターを倒しながら進んでいるとある共通点に気付く。全てのモンスターの名前に、クレイジーや狂といった文字があるのだ。疑問に思っているとフェリシアが察したように話し始めた。


 「たぶんここでは人間が死に過ぎたんだね。最初に僕が予想したよりもずっと多いと思うよ。それに名前に冠が付くのはユニークモンスターくらいなものさ。でも通常のモンスターにそれがついてる。ここの難易度が普通の人間にとって異常だっていうことだよ」


 「俺たちは戦力的には問題ないけど、普通の人ならやばそうだな」


 「そうだね。君達の能力はみんなユニーク、つまりは通常より上位だからね。その等級以上の能力は所有者を強くしようとするから、その期間が長ければ長いほどダンジョン内において身体能力はあがるね。もちろん人間という種としての限界は越えられないけどね」


 「うん? 今結構興味深い話だった気がする」


 「あれ? 知らなかったの? てっきり知ってると思ってたよ。それはいいとして成長は思い通りになるとは限らないから君達みたいに調整でもされない限り時間はかかるね」


 「そうなのか。エアリスがいるから逆に気付かなかったのかもしれないな」


 あまりにも広すぎるダンジョン。超巨大ゴキブリだらけの1層。そんなダンジョン内を進み2層へと入ったところで昼を回っていたことに気付きギブアップした。


 「じゃあ先に戻るわね〜」


 みんなの転移を見送り俺も転移で戻ろうとしたが、そこでフェリシアから待ったがかかった。


 「ねえねえ。地上に行ってみたいんだけど」


 「え〜。もう大量の巨大ゴキブリでメンタルがつらいんだけど」


 「おーねーがーいー! いいでしょ? いいよね?」


 一応見た目は美少女。こうやって駄々をこねても絵になるなんて卑怯なこった。とは言え、俺もこういうのに弱いって自覚してるしな。二度と会わないなら良いかもしれないけど、同じところに住んでるなら顔を見る度に罪悪感みたいなものを感じてしまいかねない。


 「はぁ〜。仕方ないな」


 「やったね! さすが悠人ちゃん!」


 ということでフェリシアと共に御影ダンジョンへと転移し、そこから自宅へ出ると……母親がいた。チビは香織に抱かれたまま転移していったのだが、一緒に転移できるということを初めて知った。

 母親が香織&チビと挨拶を済ませ、フェリシアと初めましてする。


 「あら! その子は? まさかあんた……」


 「誘拐とかじゃないからね。むしろ押しかけて来たのはこいつだから」


 「こいつとはひどいなー。初めまして悠人のお母さん。僕はフェリシア、フェリって呼んでね!」


 「あらまぁ。可愛らしい子ね〜。それに上手な日本語ね。フェリちゃんっていうのね。外国のお嬢さんなの?」


 あぁそうか。緑っぽい髪に青緑な目だし色もびっくりなくらい白いしな。そう見えるのか。

 それならそういうことにしておいた方が良いと思い「そうそう」と返事をする。


 「そうなのね。それで今日はどこか出かけるの?」


 「フェリが散策したいっていうからさ。俺は付き添いだよ」


 「そうなの。近頃乱暴な探検者が増えてるらしいから、気をつけて行ってくるのよ〜」


 「はいはい。行ってきます」


 「行ってきまーす!」


 せっかくだしSATOへ行って肉を納めそれから街へ行くことにした。



読んでくださりありがとうございます。

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