ダンジョンはインドア
「へぇ〜。これが車か〜」
俺はフェリを車に乗せ街へ向かって国道を走っている。なぜかと言うと、SATOからの帰り道で母親が言っていたようなガラの悪い探検者に絡まれたからだ。当然の如く問題はなかったが、探検者らしき人が以前よりも増えており、あと一歩でチンピラに進化しそうなのも結構いた。問題ないとは言ってもそう何度も絡まれては面倒ということで一度家に帰って家の車で移動している。
ちなみに香織はチビと一緒にログハウスに戻った。
「ねえねえ悠人、さっきの人間は不良というやつなの?」
「不良といえば不良だろうけど、あれでも探検者らしいぞ。免許も持ってただろ?」
「そういえば何かカードみたいなの出してたね」
「あれが今の地上じゃステータスっていうか、持ってると一目置かれるありがたい印籠みたいなものなんだよ。って言っても印籠なんて知らないよな」
「あっ! 知ってる! 知ってるよ! この家紋が目に入らぬかぁ〜! ってやつでしょ?」
「知ってんのかい」
「ネットで見たよ」
「なんでもネットだなぁ。まぁ仕方ないか」
「そうそう。仕方ないの。ダンジョンから出たのなんて今日が初めてだし。エアリスはいいよねー。悠人に取り憑いてるからいつでも外に出られるんでしょ?」
ーー そうですね。しかしマスターは基本的にインドア派なので ーー
続けて言った『それはそうと取り憑いているなどという言い方は不適切ですので』という言葉はスルーされたようだ。
「そうなの? でもダンジョンじゃログハウスの外によく出てるじゃん」
ーー ダンジョンはインドアらしいですよ ーー
「そうなんだ。変なの。それにしてもさ、威圧して追い払うのはかわいそうだよ〜」
「えー……ちょっとだけじゃないか。それに相手にするのも面倒だし」
「でもさー、たぶん普通の人間に悠人の威圧は刺激が強いと思うよ?」
「そんなことない……よな?」
ーー 軽くちびりかけてましたからね、強いと思います ーー
「……じゃあ次にそういうことあったらなるべく穏便にしてみるよ」
車中でエアリスを交えて会話しながら街ドライブをしていて思ったが、街を歩く探検者は男性より女性の方が多いような印象を受けた。他の地域ではどうなのかは知らないが、近所で一番賑わっている地区ではそうだった。
そういえば男女比率はどうなっているんだろうか。
ーー そもそも日本の人口は男性よりも女性の方が多かったのですが、ダンジョン発生後はその差がより大きくなっているようです。推測ですがダンジョンから帰らない人々の多くが男性ということも影響しているのかもしれません ーー
「最初に入っちゃった人たちってそこまで多かった?」
ーー 初期もそれなりにいたようですが、その後の方が多いようですね。探検免許が発行されてからも、探検者を含めた行方不明者は後を絶たないようですし。その探検免許を取得しようとするのも男性の方が割合は多いようです ーー
減ったのにさらに男がダンジョンに行こうとしてまたさらに減る、というループが出来上がってるのか。
探検免許のせいでダンジョンに入る事を推奨しているように受け取られ、それによって与党を野党が追求を繰り返してる状況でもあるんだろうな。そこでペルソナの件についても出てきた、と。
「そうなんだ。でかすぎる虫とかがいたらすぐ逃げればいいのに……みんな無理しすぎだろ」
「それだけダンジョンに魅力を感じるってことかな? だよね?」
「そうなのかもしれないけどさー」
ーー 過信や慢心がそういった結果を招くこともあるでしょう。探検免許の発行により根拠のない自信を持ってしまう人間も多いようです。これはある意味の選別として機能しているかと ーー
「なるほどなー。もしかして免許を取る時の面接では真面目でも、取った後に心境が変化しちゃう人が多いのかな。運転免許と似たようなところがある気がするしさ。それに運転免許よりもダークサイドに堕ちやすそうだし」
ーー 加えてダンジョンが統合され難易度が上がっていることも男性の減少に拍車をかけていると思われます ーー
「さっきの迷統本部のダンジョンもやばかったもんなー」
ーー はい。あれは別格かもしれませんが、御影ダンジョンのような元々難易度が低かったダンジョンも普通の人間では厳しいでしょうからね ーー
「統括とか総理に、もっと注意してもらうように言った方が良さそうだな」
迷宮統括委員会本部では統括に為人を見るようなテストをされたわけだが、思いのほか堂々と対応できたと思う。悠里、香織、さくらはさすがというべきか、俺のようなメッキではなく普通に対応できていたようだ。杏奈は……まぁ結果的に合格は貰ったのだし大丈夫だったのだろう。
俺たちを合格と言った統括に対する印象としては必要な話であればしっかり聞いてくれる人だと感じたことから、ダンジョンについての注意喚起という話であればしっかりと対応してくれるだろう。
しばらく街を流しているとフェリシアが何かに興味を持ったようだ。近くの駐車場に車を停めてそこへ向かうとクレープの移動販売をしていた。
「ゆ、悠人ちゃん、あれ……なんだかとっても、良い匂いなんだけど」
「あれはな、クレープっていうんだ」
「クレープ……ねえ悠人ちゃん。クレープ」
ログハウスの眠れる森のエルフ姫は地上の甘味を御所望か。よろしい、ならば叶えよう。
近くの駐車場に車を停め、クレープ屋さんへとやってきた。ふんわりと甘い香り……もうすでに美味い。
「よし、じゃあ人類のすばらしさを体験するがいい。店員さん、二つください。トッピングは……とびきりおいしいやつお任せで」
店員さんのおすすめトッピングはいろいろと盛り盛りだった。その割に値段はワンコインでいいと言われたのだが、どうやら店員さんはフェリシアに一目惚れしたらしい。ちなみに店員さんは女性だった。
近くにある公園のベンチに座って二人でクレープを食べた。フェリシアは黙々と食べ進め、かなり大きいサイズだったクレープをペロリと完食、さらにその様子を呆気に取られて見ていた俺のクレープをじーっと見ていたので差し出してみると、予想以上に大きな一口で上に載っていたクリームとチョコレートとフルーツの大部分を持っていかれた。それでもまだ足りないと言った様子のフェリシアに残りも渡すと、これまで見たことのないような良い表情をしていた。
「クレープは気に入ったようだな」
「うん、人間ってすごいね。人間らしい体を創って正解だったよ!」
「そうだな。体がないと味もわかんないしな」
ーー ワタシも食べてみたいです……ヨヨヨ ーー
「ん? エアリスは悠人に乗り移ってるんだし、味わかるんじゃないの?」
ーー お体をお借りしても、全て靄がかかったような感覚なのです ーー
「そっか。僕の体を貸してあげたいところだけど、そうしたとしてあまり変わらないだろうね」
ーー 残念です…… ーー
靄がかかっていても加工や武器製作はしっかりこなすあたり、エアリスはとても器用だと思う。
フェリシアが二つ目を食べ終え、そろそろ帰るかということになりベンチから腰を上げた。顔を前方に向けると探検者らしき男たちが数名こちらへやってきた。その男たちは皆一様に革ジャン革パンで、シルバーアクセをじゃらじゃらと身に纏っている。リーダー格と思われる男は一人だけ金のゴツゴツとしたネックレスを首に下げていた。
「いやーな予感」
ーー 同感です ーー
「え? なになに?」
「このパターン、久しぶりだなー。っていうか地上に出るたびに絡まれるんじゃないか?」
ーー 運がないですね、マスター ーー
「LUC 170っていう人類史上稀に見るであろう人間に運がないとはこれ如何に」
とは言ってもエアリスが以前言っていた事によると、少ない可能性を引き寄せるのがLUCらしいからな。よくも悪くもイベントには困らないということにも言い換えられる。
ーー あっ、来ますよ ーー
「おいにーちゃん、かわいい子連れてるじゃねーか」
まぁそう見えるだろうな。実際かわいいとは思う。だけどな「でもこいつ、人間じゃないんだぜ」と言われてどう思うのだろう。逆に信じるんじゃないか? 頭悪そうだし。
「……ハッ! 何言ってんだよ。どっからどうみても高校生くらいのかわいこちゃんだろうが」
「かわいこちゃん」
信じてくれなかったな。だけど人間に見えるならフェリシアにとっては喜ばしいことだろう。
ついオウム返ししてしまった事にゴールドアクセジャラジャラ男は血管を浮き上がらせている。カルシウム足りてる?
「ねえねえ悠人、高校生って何歳くらい?」
「ん〜。十五から十八歳くらいってことだろうな」
「うーん。そんなに幼く見えるのかな〜。一応“成人”のつもりだったんだけど」
「まぁ俺から見ても子供に見えるし仕方ないだろ」
「えー!」
楽しくおしゃべりをしていると目の前の男がさらに血管を浮き上がらせている。そこのクレープ屋さんのクレープを食べて心を満たせば短気も治るんじゃないだろうか。
「おいおい、こっちは眼中にないってか?」
「あー、いやぁすまんすまん。で? 何か用か?」
「そいつを置いてお前は帰れ。そしたら怪我しなくて済むぜ?」
リーダー格の男がそういうなりこちらの周囲を取り囲むようにしている他の男たちも下卑た笑いで顔を歪めている。【幻界之超越者】を得てからさらに磨きがかかった威圧をちょっとだけ放って解決しようとすると、笑顔のフェリシアから手をつねられたのでやめておいた。相手は一応探検者なんだし少しくらい良いと思うんだけどな。
「ふ〜ん。なぁあんたらってさ、探検者だよな?」
「それがどうした?」
「じゃあ免許見せてくれないか?」
「ハッ! いいぜ! 見て驚け、俺は三期の探検者だぞ」
最初期、つまり俺や雑貨屋連合の三人、そしてさくらや軍曹たちのような人たちが主な零期だ。その探検免許には二桁の数字が印字されており、俺は01となっている。そしてペルソナの免許は後から発行されたが、00となっている。その零期の探検者は通常の方法でなったのではなく、権限のある人物によって推薦された者に限られどうやら探検者になった時期は関係ないらしいことからこれから0番台は増えていくかもしれない。当然実力も込みであり、免許を持つ者たちの中ではある意味の伝説となっているらしい。ちなみに免許を発行される際その説明もされているのだが、俺はその機会はなかったため後にさくらからそういった話を聞いていた。
リーダー格の男が持っている探検免許には3190と印字されていたことから、三期190人目ということになる。
「へ〜。ほんとだ。確かに三期だね」
「ふんっ! わかったらさっさとその女を置いて行け」
「ちょっとその前に、俺のも見てくれるか?」
「なに? お前も探検者なのか? どれどれ……御影悠人…………ぜ、01だと!?」
数字で脅してきたんだ、数字には弱いんだろう?
「そうなんだけど、何か、用か?」
どこぞの黄門様になった気分だな。お付きの二人やうっかりしがちなムードメーカー、いつまで経っても綺麗なくノ一はいないけど。
「……い、いえ! い、いや〜……かわいいお嬢さんを連れたイケメンな兄さんだったもので」
「じゃあ特に用はないってことだね?」
「は、はい! ございません! 用もないのに話しかけてすみません!」
「いやいや、いいんだ。ただ……最近探検者であることを鼻にかけて調子に乗ってる人が多いって聞いたんだけどさ。君達はそれとは違うよな?」
「……す、すみませんでしたぁ! 最近そういうやつらが増えてきて、俺もと思って調子に乗ってました!」
「そうだったんだ。じゃあこれからは?」
「はい! 初心を思い出して探検者に恥じない行動を取ると誓います!!!」
「うん。がんばってね」
「はい! ご指導ありがとうございます!」
なんだかよくわからないが、某御隠居様の印籠よろしく効果は抜群だった。【真言】や威圧をしてしまった方が簡単だったのだが、そうしなかったのには理由がある。真言での強制的な矯正は、幻層の伊集院に使ったときのように結果が望んでいたものと違っていたり、歪んでしまう可能性がある。そうなってしまうと結局根本からどうにかできたということにはならないのだ。自主的に好ましく変わってくれるのであれば、少なくとも俺や俺の知り合いがいる街くらいは今よりも良くなるかもしれない、そういう期待をしてのことだった。威圧をしなかったのはもちろん、より平和的な解決を目指してなのだ。これは常日頃から思っていることであって決してフェリシアに抓られたからではない。断じてないのだ。
〜〜〜〜〜
「それにしてもリーダー、さっきの……御影悠人でしたっけ? そんなにヤバイんスか?」
「当たり前だろ。01ってことは探検者の中で……いや、もしかすると世界で一番やばいお人かもしれねぇ」
「へぇ。ほんとにそうなんすかね? 実際強いかどうかなんてわからないじゃないっスか」
「お前探検者の免許を受け取る時の講習ちゃんと聞いてたか? 頭文字が0の人間には絶対に逆らうなって言われたろ?」
「いや〜、聞いてるフリしてただけなんで知らないっすね。それに噂じゃ00っていうのもいるらしいでスし」
「それだって講習で話してただろ」
「そうなんすか? それはともかく、その00の探検者の名前、ペルソナっていうらしいっスよ。実力は未知数らしいっス」
「未知数? 判定した人間だったりその上司的な人間がいるはずだろ?」
「普通ならそうなんすけどね。判定できないくらい強いんじゃないっスかね。そもそもその人、誰の命令も聞かないらしいっすから。それでいて神出鬼没、連絡先を知ってる人間もいないらしいっス。さすがにそんな人なら、01様に対しても有効なんじゃないっスかねー」
「……お前、変なことは考えるなよ?」
「まさか……変なことなんて考えてませんよ。でもこのままじゃ癪っすからね」
こいつは何かやらかす、そうリーダー格の男は思った。そして『御影さんにまた会ったら無関係で通そう』と決め、00番の人物をけしかけようとしているように見えるこの腰巾着とは縁を切ろう、そう思った。
読んでくださりありがとうございます。




