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仕上げという名の悪あがき


「カギツキ隊長、緊急事態です・・・!」


 一人の女性兵士が、慌てた様子でカギツキの部屋に入る。



「あぁ、分かっている。反乱者の基地から魔物が沸いて出た事だろう?

南基地隊長のイドリックと連絡は取れている。

それに、クレイスに使い魔を飛ばし、状況の確認を取らせた」


「そ、そうでしたか・・・」


 冷静に返事を返すカギツキを見て、女性兵士は少し落ち着きを取り戻した。


 

「全く、本当に・・・カミノの奴、どこまでも面倒な女だ」


「彼女の・・・仕業ですか?

でも、彼女は間違いなく死んで・・・。

あの街には、反乱者はもう一人も残っていないはずです・・・」


 カミノはあの反乱で、間違いなく死んだ。

 カギツキもそれは確認している。

 

 またカミノの影武者である使い魔も、全て消滅している事が確認出来ていた。



「カミノは、空間と空間を繋げる魔術器を隠し持っていた。

あいつがヴァーリア姫の部屋に侵入出来たのも、そのせいだ」 


「そ、そんな魔術器を・・・? 反乱者である彼女がそんな大層な武器を造るなんて・・・」 


「私も驚いた。だがあの女なら、そんな魔術器を造ろうとおかしくはない」



 ヴァーリアの魔術研究では、空間と空間を繋げて移動する事も、魔術的には不可能ではないとされている。


 だがそれを実際に行えるかどうかは別だ。


 少なくとも、現在のヴァーリア軍の魔術師達には、それを実現する技術は無い。  

 


「あいつは、その魔術器にある細工をした。 

 大量の魔物が潜む、何処かの危険区域と空間を繋げて、蓋をして放置した。


 そして知らずに、魔術器を起動すれば、蓋が開き、魔物が沸き出す。

 奴は、そういう細工をしていたんだ」


「壁の外の、魔物の巣と繋げていたという事ですか? な、なんでそんな事を・・・」



「彼女の本心などは知らないが、大体推測できる。


 反乱が成功した時の仕上げ、つまりヴァーリアに対するトドメ。

 そして、反乱が失敗した際の、最後の手段。

 自身が死んだとしても、そこに残る地雷、悪あがき。  


 そのどれにでも使える、最悪な手段だ」    




****




 鰐の様に硬く尖った鱗で覆われた体表に、昆虫の様な6本の脚を持つ魔物が、民家の壁を突き破る。


「ひぃぃ!? ば、化け物!!!」 

 

 中に居た住民の男性が、叫び声を上げて逃げ出す。


 だが魔物は、体格に似合わぬ素早い動きで住民に襲い掛かり、牙の生えた顎で住民に喰らいつく。


 鋭い牙が、住民男性の身体を上半身の下半身に裂く。


 

「クソ、間に合わなかったか・・・!」


 それから数秒程後にデルバードが現れたが、住民の男性は既に死んでいるだろう。



 デルバードの気配に気付いた魔物が、住民の身体を咀嚼しながら振り向く。


 しかし、その時には既に、デルバードの握る大剣が振り下ろされていた。


 凄まじい勢いで振るわれた大剣が、魔物の脚を覆う甲殻を砕く。


 魔物はバランスを崩し、腹を地面に付くが。


 残った脚で起き上がり、大顎を開いてデルバードに襲いかかる。



 だが、黒い蛇の様な槍、"竜の尾槍"が窓を割って飛来し、魔物の首に巻き付いた。


 更にもう一本。


 "竜の尾槍"が魔物の口に巻きつき、開くことが出来ない様、硬く締め付ける。



「よし、コハク。そのまま抑えておけ」


 デルバードは大剣を振るい、身動きを封じられた魔物の頭部を叩き斬る。


 凄まじい破壊力の刃が、魔物の固い鱗を砕き、頭部を切り落とした。

 


「これで借りが一つだ」


 民家の窓から、コハクが覗く。


「馬鹿言え。あの程度は簡単に避けれる」


「最近どっかで、同じ事言ってる奴が居た気がするな。

周りに気を付けた方が良いぞ? その台詞の後は、魔物に真っ二つにされるかもしれないからな」



 その時、民家の奥から現れた狼型の魔物が、背後からデルバードに飛び掛かった。


「・・・そうだな」


 だが、高速で振るわれた大剣が、魔物を真っ二つに斬り裂く。



「今ので、借りが二つか?」


「コハク、そのやり取りはもういい」


「そうかい。・・・それにしても、なんて有様だよ」



 大通りはもちろん、民家や店の中、屋上、裏路地。


 何処を見ても、沢山の魔物が徘徊しており、そして、逃げ回る人々を襲い、喰らっている。

 

 街はまるで、壁外の危険区域の様な状況であった。


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