answer
ヴァーリア国・中央街、軍基地。
「失礼します」
軍隊長室の扉を、センリとアルスフォードの二人が通る。
その二人の顔は、とても険しいものであった。
「なんだ突然、アポイントメントも取らずに来るとは」
そんな二人に対して、カギツキもまた威圧的に返事を返す。
「カギツキ隊長に、聞きたいことがありまして」
しかしセンリは、そんな威圧感も気にせず、カギツキの就いている机の前へと立つ。
「・・・どういう事ですか。
異界人は全員、南の街に強制移住させるって。
フローラとコハクを、裏切り者として逮捕したって」
「なんだ、軍の関係者には全部説明されていると思うが。話を聞いていなかったのか?」
カギツキは呆れた様子で溜息を吐いた。
反乱を終わってから、大きく変わった事がある。
それは、異界人の扱いについてだ。
異界人はその一部を除いて、南の街に移住する事。
そして、国の許可を無く他の街に行く事は、出来ないと言う事だ。
異界人が南の街へ強制移住させられた理由は、とても簡単である。
反乱者の殆どが、異界人である事。
そして一部の異界人が、反乱者の手助けをした事。
元々ヴァーリアの国民の中では、異界人を危険視する声が一部あったが、
この反乱でその主張が広まり、収まらなくなったのだ。
「異界人の移住については、国の会議で決定したことだ。
そして、コハクとフローラについてはそのままの意味だ。
二人は軍を裏切り、兵士を負傷させた。逮捕するのは当たり前だろう」
「・・・そういう話ではありません。
何故、彼らがそんな事をされなきゃいけないのか。そういう事を聞いているんだ!!!」
センリが声を荒げる。
「それに、どうして。俺達だけが、名誉異界人なんて称号を与えられてるんだ・・・!
霧の異界人を倒したのは、俺じゃない!!!
あの反乱を止めたのは、式利とコハクだ!!!」
そしてセンリは、今にも喰いかかろうという勢いで、カギツキに迫る。
センリとアルスフォードの二人は、反乱で活躍したとして、
名誉異界人の称号を与えられたと同時に、移住の対象にはされていなかった。
「本当に、何も判ってないな」
しかし対照的に、カギツキは冷めた様子で話す。
「あぁ、式利は残念だったな。
まったく。小賢しい事を考えているから、早死にするんだ。
黙って指示する任務だけをしていれば良かったものを」
「ッ・・・!」
「センリ、お前にも言っているのだぞ?
軍をクビになった元兵士や、奴隷になりかけている異界人なんて気にかけている暇があったら、
魔物の一体でも倒した方が、よっぽど世の中の為になるだろう」
「カギツキ隊長・・・貴女は・・・ッ!!!」
部屋に来る前から、センリは苛立ちを抑えていたが。
今ので彼の堪忍袋の緒は切れた。
センリが腰に抱えた剣を抜き、床を蹴る。
剣が全て鞘から抜かれた時には、既にカギツキの背後を取っていた。
軍を治めるカギツキは、当然ながら戦闘能力も高い。
だが、カギツキの強さは剣だけではなく、その魔力の高さや魔法による部分も大きい。
単純な剣技やその速度なら勝てると、センリには確信があった。
その予測通り、カギツキはセンリの速さにはついていけていない。
おまけに、アルスフォードもカードを抜き、センリの援護にと魔法を唱えようとしている。
(殺す必要はない。ただ、倒すだけだ。ただ―――)
ただ、許せないだけだ。
そして。
「ッ・・・!」
金属音が響く。
銀色の刃が、宙を舞う。
「な・・・」
舞うのは、折られた剣の刃。
センリの握っていた剣が、根本から切断されていたのだ。
「中々速くなったわね?」
センリの前に立ちはだかるのは、赤いツーテールの少女。
シンキである。
「でも、まだ私には勝てない」
「シンキ、さん・・・!」
折れた刃が、カツンと音を立てて床に落ちる。
「センリ!!!」
アルスフォードがカードから呪文を唱えるが。
カギツキが、魔法によるテレキネシスでアルスフォードに掴み掛る。
「甘いわッ!!!」
しかし、アルスフォードの身を包む結界が、カギツキの操る不可視の魔力を遮った。
「同じ手が、我に二度通じるとでも―――!!!」
だがカギツキはすぐに次の反撃を繰り出す。
放たれた細い虹色の光線が、アルスフォードの結界を容易く打ち砕く。
「なにっ!?」
「甘いのはお前の方だ」
そして、結界を砕かれたアルスフォードを、カギツキは魔法で締めつける。
「うぐ・・・!」
アルスフォードの手に握られていた数枚のカードが、カギツキの魔法によって引き剥がされる。
勝敗は決していた。
剣を失ったセンリもまた、シンキに剣を向けられて成す術が無くなっている。
「さて、センリ。今のは大目に見てやろう。お前らは、まだヴァーリアに必要だからな」
センリとアルスフォードの二人は、名誉異界人として移住の対象にされていないが。
そんな称号は、ただの建前とも言える。
一般的なヴァーリア人で、魔法を扱えるのは半数にも満たないのに対して、
異界人は、その約9割が魔法を扱える。
ヴァーリア国の戦力は、異界人による部分が大きいのだ。
故に、いくら国民が異界人を嫌悪しても、その力を手放す事は出来ない。
「・・・こんなの間違ってる。人を一か所に監禁して、必要な時だけ出して使うなんて。
そんなの、ただ道具として扱っているだけじゃないか」
「国の決めた事なら、それが正義なのよ」
センリとシンキの視線が対立し合う。
(こんな時、式利だったらどうしただろうか)
センリは、ふと銀髪の少女の事を思い出した。
式利だったらきっと、どれだけ頭に血が上っても、ここでは絶対に刃向う事はしなかっただろうと。
ここで剣を抜く事は、完全な間違いである。
もしも仮に、ここでカギツキとシンキの二人を消したとして、何になるのかと。
軍のトップを殺した裏切り者にしかなれないだろう。
それは、センリにも判っていた。
「さて、二人にもう一度聞こう。
お前達は"兵士"としてヴァーリアに尽くすか?」
その問いに、式利だったらきっと―――。
そう銀髪の少女の事を思いながら、センリは口を開いた。




