防戦一方 01
この西の街は、コハクと式利がユークリウッドと戦闘を行うまで、まだ反乱自体は起きていなかった。
カミノが魔物を放つ前に、カグリが先に魔物を倒した為である。
故に、この街の住民の中には、まだヴァーリアで反乱が起こっている事を知らない人々も、多く存在している。
例えば、この若い夫婦がそうである。
「ん、なんか外で音がしないか?」
「え? なに? 何も聞こえな―――」
その時、大きな瓦礫が家の壁を砕き、突き抜ける。
ユークリウッドの投げた大きな瓦礫片だ。
驚いた二人の夫婦が、叫び声をあげる。
***
「あぁ、こりゃあまた住民から苦情が来ます。やっぱりあの場所から動いたのは失敗だったですかね」
飛来した瓦礫が、近くの民家を突き抜けるのを見て、式利が溜息を吐く。
「でも、逃げてなかったら今頃ぐちゃぐちゃになってたのは僕らの方だったかも」
ユークリウッドの投げる瓦礫を避けながら、式利とコハクが走る。
「それにしても、住民には避難警告が出てるはずなのに・・・。この様子だと、街にはまだ人がいそうですね」
「人間というのは、警告が出ても実際に何か起きないと行動しないもんなんですよ。
この街はまだ反乱自体は起こっていなかったから余計です。軍の人出は他の街の対処に追われて、こっちまでは手が回らないですし」
「なるほどね・・・うわっ!?」
コハクの真横に瓦礫が飛来し、地面を抉る。
その直後に、今度はユークリウッド本体が、上から強襲してきた。
禍々しい腕の一撃が、地面を砕く。
攻撃を回避したコハクと式利の二人だが、ユークリウッドのは直ぐに次の攻撃に移り、肩の腕を乱暴に振り回す。
コハクは盾を構え、振り回された腕の攻撃を受け止めたが、コハクはまるで石ころの様に吹き飛ばされた。
コハクは窓を突き破って民家の中へと突っ込み、何か家具だろう物体を押し倒して、ようやくそこで止まった。
「ぐっ・・・! げほ、げほ」
コハクは咳き込みながら立ち上がり、身体が無事か確認するが、鎧と盾のお陰で目立った外傷はない。
だが、自分が突っ込んだ所が、丁度、工具入れの置かれた場所で、
さっきまで寝転がっていた場所に、ノコギリや鉈が散乱しているのを見て、コハクはぞっとした。
「あぁ、本当に。鎧を着てて良かったよ畜生・・・!」
しかし安心する間もなく、ユークリウッドが近づいてくる姿が民家の窓から見えた。




