雪妃彩香の過去話。
雪妃彩香が異世界に転移したのは、小学校高学年の頃であった。
転移した先が、安全なヴァーリア国付近のCランク帯だった事は、不幸中の幸いというものだろう。
だが彼女は、異界人でありながら魔法の適正が無かった。
まだ幼く、魔法も使えない彼女は、当然ながら兵士になる事は出来ない。
それはつまり、住む場所も、学ぶ場所も与えられないという意味であった。
軍は、魔法の適正がない異界人を育てたりはしないからだ。
とはいえ、雪妃はまだ子供である為、国からは多少なりの支援を受ける事は出来た。
しかし与えられるのは金銭だけで、住む場所は与えられない。
小学生程度の子供が、ひとりで見知らぬ土地で生きていく事はあまりにも厳しいだろう。
雪妃は、支援金のみで街を彷徨う生活を続けたが、直ぐに限界を感じていた。
そんな時、一人の兵士が雪妃の前に現れた。
丁度、今のコハクと同じくらいの年齢である、異界人の少年だ。
雪妃は、彼に救われた。
初めは、子供ながらに何かされるのではないかと警戒していた雪妃だったが、兵士の少年は想像よりもずっと優しい人間であった。
そうして、雪妃は彼と一緒に暮らすようになった。
見知らぬ世界で、ただただ不安で、絶望しか感じれなかった雪妃だが、彼と過ごすうちに、こう思う様になっていた。
「この世界に来て、彼に出会えて良かった」と。
しかし。
ある時、彼は任務中に魔物に襲われ、致命的な怪我を負ってしまった。
それは魔術的な毒、いわゆる呪い。
彼の身体は呪いに蝕まれ、他人の手を借りないと歩けない状態であった。
その呪いはとても複雑で、治療するには長い期間と費用が掛かる。
故に、軍は彼を切り捨てた。
軍にとって、彼の力は時間と資源を使うに値しなかったのだ。
残っている貯蓄では、治療する事は疎か、そう長くは生活も出来ない。
けれど雪妃は、彼を見捨てることはしなかった。
今度は自分が彼を助ける番だと、毎日街を走り回り、彼を助ける手段を探したのだ。
しかし、どれだけ助けを求めても、助けてくれる人などいなかった。
足掻けば足掻くほど、この世界がそれだけ冷たいかを知ってしまう。
ヴァーリアの人々にとって、異界人は都合良く働く道具でしかないのだと分かってしまう。
そんな状況で、唯一手を差し伸べたのは、表社会では生きられなくなった者達であった。
それは、反乱者と呼ばれる者達である。
とある元魔術師の女性が「私なら治せる。必要な物を揃える為に、私達と手組んで欲しい」と交渉を持ち出したのだ。
それは嘘かもしれない、自分を利用するつもりかもしれない。
そうとも思ったが、雪妃はその藁に縋った。
もう、他に頼る場所など無かったからだ。
雪妃は反乱者となり、元魔術師とその仲間と共に、必要な物を盗み、揃えていった。
他の反乱者達もまた、助けを必要としていた。
彼らは協力し合い、生活していた。
そうして呪いの治療を始めていくと、兵士の少年の容態は、少しずつだが良くなっていった。
それに、けして十分とは言えないが、今の二人だけで過ごすよりも良い生活がおくれていた。
けれど、それも長くは続かなかった。
雪妃の居る反乱者の隠れ家に、軍が攻めてきたのだ。
反乱者の活動が活発になったことで、逆に軍を呼び寄せる事になってしまったのだ。
真っ赤に燃える炎、壁を砕く魔法の刃、逃げ惑う仲間の反乱者達の中。
雪妃は兵士の少年の元へと駆けつけたが、彼は攻撃に巻き込まれ、既に傷だらけで瀕死の状態であった。
雪妃は、彼を連れて一緒に逃げようとしたが、幼い少女に負傷した兵士を背負いながら逃げる力はない。
そうして彼は、最後に「ありがとう」と雪妃に感謝の言葉を伝えると、その場で息を引き取った。




