負傷者たち
基地の中は、先程コハクが通ったときよりも、更に酷く荒れていた。
死竜の酸による攻撃はもちろん、他の魔物による影響もあるだろう。
壁に空いた大きな穴から魔物が中へ入り込もうとするが、兵士が食い止めている。
「おい、無事か!?」
コハクが病室に付くと、そこには大体30人程の怪我人がいた。
これだけ激しい戦いであれば、負傷者はもっと多いだろうが、
大半はその場で治癒魔法を受けて、戦闘を続けているのだろう。
または、治療する間もなく戦死したか。
ここにいるのは、治癒魔法で回復出来ないレベルの怪我を負った者達だ。
その中に、フローラの姿が見える。
「よかった、コハクさん。無事に戻ってこれたのですね」
「あぁ。それで馬車なんだが、もうすぐ一台だけ戻ってくるらしい」
「ほ、本当ですか? よかった・・・!」
それを聞いて、他の負傷した兵士達も安心した表情を浮かべている。
「だが、ここも時機に魔物が攻め入ってくる。
すぐに基地のホールまで行かないといけないが、自力で歩けない者はいるか?」
「大丈夫です。杖を使わないと歩けない方もいますが、寝たきりの方はいません」
フローラはコハクの手を借りて立ち上がった。
死竜の黒い液体のよって失った片足には、包帯が巻かれている。
「わかった。それじゃあみんな、基地のホールに向かうぞ」
コハクは先に病室を出ると、外の安全を確認する。
「ところでフローラさん。センリさんは何処に?」
「センリさんは、まだ戦えると言って出て行っちゃったんです。
出来るだけ近くにいるとは言ってましたが・・・」
「そうか。大丈夫だろうけど、一応怪我人だからな・・・」
その時。
隣の部屋から、何かが崩れ落ちる音と、兵士の悲鳴が響く。
「っ・・・! ちょっと様子を見てくる」
コハクが音のした部屋を覗くと。
壁に空いた大きな穴から、魔物の大蛇が覗き、一人の兵士を追い詰めていた。
メインバイパーとは違い、普通の蛇をそのまま大きくしたような外見である。
危険度はメインバイパーよりもずっと低い魔物だが、怪我人には近づけたくない相手だ。
「ちっ、魔物か・・・! みんなは先に行っててくれ!!!」
フローラ達に向かいそう叫ぶと、コハクは"竜の尾槍"を伸ばし、大蛇の頭部を突き刺す。
甲高い声を上げ、大蛇は壁の穴から頭を引っ込める。
コハクは魔法壁を生成し、魔物が入り込まない様、素早く壁に空いた穴を塞いだ。
「おい、怪我はしてるか?」
「大丈夫だ、ちと転んだだけだ」
兵士は自力で立ちあがり、落ちていた剣を拾いあげた。
「兵士さん、周りの戦況は?」
「もう長くは持たないだろうな。
複数の魔物が入り乱れてる中で、更にあの"死竜"を相手にするのは無理だ」
「そうか」
コハクは、初めに死竜と対峙した瞬間から悟っていた。
恐らく、あの伝説の化け物は止めることが出来ないだろうと。
コハクはそう理解してしまっていた。
死竜の力はあまりにも圧倒的過ぎるのだ。
黒い大蛇が、魔法壁に突進する音が響く。
そう簡単に破られる事はなさそうだが、魔法壁は時間が経てば形を保てなくなり、いずれ崩壊してしまう。
兎に角、今はフローラ達を安全にホールまで連れて行かなくてはと、コハクは部屋を出る。
廊下にはまだフローラ達、負傷者の後姿が見える。
その時。
隣の部屋から轟音が響き、黒い大蛇が壁を突き破って現れる。
「クソ、しつこい野郎だ!!!」
コハクは3本の"竜の尾槍"を生成し、それを振った。
黒い尾槍が、大蛇の頭部や身体を何度も突き刺していく。
大蛇は威嚇するように口を開き、魔物特有の奇妙な呻き声を上げるが。
そこへ、先程コハクが助けた兵士が、虹色の炎を纏う剣で、大蛇を切り裂く。
「クソ、さっきのお返しだ!!!」
怯んだ大蛇へ向け、兵士は炎を纏う剣を振るい、追撃を与える。
剣から放たれる虹色の衝撃波が、大蛇を叩き付ける。
大蛇の長い身体が、壁の穴から外に突き飛んでいく。
「お前は先に行け。他に任務があるんだろう? 今度こそ、この蛇は俺が仕留める」
「・・・わかった。ここは任せた」
「おう」
兵士は笑顔を浮かべると、剣を構え直して大蛇へと向かっていく。
それを見送り、コハクはフローラ達の後姿を追いかけた。




