閑話は唐突に終わる。
実は能力の説明だった的9話目
結論から言うと。
グレイメンの持つ拳銃から放たれた銃弾は、俺の眉間を貫通した。
だが、俺は“死なない”。
なぜなら俺が、そう“宣言”したからだ。
「…………………………ほう」
感心したように、グレイメンが呟く。
俺はというと――
「――ぃっっってぇえあぁあががあっっ!!」
たとえ死なないにしても、銃弾が体を貫通すれば痛い。めっちゃ痛い。やばい痛い。死ぬほど痛い。でも死ねない。
ごろごろと地面を転がる。痛覚で視界が歪む。ガンガンと頭をコンクリの地面に叩きつける。頭が割れそうに痛くなるが、少しだけ痛みが分散されて気が散った。結局いってぇぇええ!!
そうしてのたうち回っていると、眉間からじゅぅううと音がし始めた。痛みも引き始め、5秒もすると完全に痛みが消えた。
恐る恐る触れてみると、傷は跡形もなく消えていた。
これは、出血死を防ぐために自己治癒する、ってことか。『死なない』宣言は結構便利だな。
「驚いた。まさか、本当に死なないとは」
「は、ははは。まぁな」
転げまわった姿を見られた手前、格好付けづらい。曖昧に笑って無かったことにしようとした。
「だが、痛覚はあるようだ」
言い終わるか否かのタイミングで、またも拳銃の撃鉄が落ちる。
「だあっ!?」
咄嗟に飛び跳ねて、意地と根性で回避した。
「っっぶねぇ。くそ! 『俺に、弾丸は効かないッ!』」
このままではヤバイと思い、俺は宣言を“上書き”した。
「む?」
首を傾げなガァアアアアンゥゥ……!! ら銃を放つな!!
不意打ちで避けられなかったが、今度は銃弾が俺を貫通することは無かった。ピキィィンと澄んだ音がして、俺の鼻先15センチ程の空間が淡く青に発光し、銃弾が防がれた。いわゆる、バリア、ってやつか?
「ヒュウッ」
久しぶりに俺の能力が気の利いたことしたじゃねぇか! これ幸いと思って、俺が駆け出そうとした。のだが、やめた。
グレイメンがまた、銃を下げたのだ。
「引き際だ」
「はあ?」
何言ってやがる。これからが盛り上がり時だろ。
「私は今まで一度も捕まったことがない」
「……はあ?」
またなんか語りだした。
「それは、一瞬でターゲットを殺害し、即座にその場を去るからだ」
「…………はあ」
もう勝手に語ってくれ。
曖昧に相槌をうった俺を気にせず、グレイメンは続ける。
「だが、今日はもう四発もの銃弾を撃ってしまった。君の叫びを聞いた人もいるだろうし、ここは大人しく退散しよう」
「………………」
もう何も言うまい。てか、銃声を気にしなきゃいけないのは消音器も付けないで銃をぶっぱなすからだろ。バカなの?
「最後に、君の能力について教えてくれないかな。純粋に興味がある」
俺の、能力か。そういえば、詳しく分析したのはいつだったか。確か、中学生の頃だ。
能力名は、〈有言実行〉。頭に自然と浮かんだ名前をそのまま使用してる。効果は、名の通り。俺が能力発動中、つまり瞳がコバルトブルーに光っている間に“宣言”した言葉を、神秘のエネルギー(適当)で“実行”する。まさしく有言実行する訳だ。
そして、宣言には“履行率”が存在する。大、中、小で分けられて、大は宣言以上の働き、小はまあギリギリ宣言通りかな? というレベルだ。
更に、宣言の履行に応じて、翌日に“不幸”が訪れる。という代償もある。恐らく、能力者は全員が分相応の“代償”を払って、能力を行使しているのだ。俺が出会った2人は少なくともそうだった。
不幸の度合いには差があり、1から10の10段階。そして“オーバーバンク”と呼ばれる、つ-か呼んでいる領域があって、10を超えた不幸度数を現す程度が5段階ある。つまり、不幸度数は全部で15段階あるというわけだ。
そして、支払い方法はふた通り。“一括払い”と“分割払い”。読んで字のごとく、例えば不幸度数6の場合、一括なら6レベルの不幸が1度だけ起きて、分割すると3レベルの不幸が2回起きるのだ。分割は、2分割しかできない。奇数の場合はどちらかが1高くて、どちらかが1低くなる。
というような基礎知識をバカ正直に教えて時間稼ぎをして、警察に逮捕してもらおうかとも思ったが、殺し屋さんが警察を撃ち殺しても後味が悪いのでやめた。
「企業秘密なんだ。殺し屋にもあるだろ?」
適当なことを言って誤魔化した。案外、納得しているようだった。
「なるほど。では、おとなしく帰ろう。誇っていい、君は、私の仕事成功率を下げたはじめての人物だ」
「おめでとう」
「ありがとう」
よく分からないやりとりで、殺し屋との遭遇は、終わった。平然と立ち去っていくグレイメンの背中を見つめて、その姿が曲がり角の奥に消えて、ようやく止めていた息を吐き出す。同時に、目の色も元に戻す。
あれだけの騒ぎがあって、今更すぎるタイミングでまわりの民家が騒がしくなってきた。
「こりゃ退散するに限るな」
厄介はゴメンだぜ。
小走りにその場を去りながら、能力についてもう一度思いを馳せる。今日はもう〈有言実行〉を使うことはないだろうから、今のうちに精算を済ませておこう。
頭の中で念じると、俺にだけ見える文字が目の前に浮かぶ。
『本日のご利用。“不死”一回。“銃弾無効”一回。お支払い頂く不幸度数は“7”です』
7か。結構高いな。目安として、5までは肉体的実害がなく、金銭的実害も少ない程度の不幸。なので分割できるのは6以上と決まっている。7は、骨にヒビが入るか、運が悪いと骨折する程度の不幸。ついでに8は二ヵ所以上の骨折程度。9は死にはしないが死にかける程度。10は即死級。それ以上は周りも巻き込んでの大事故や大事件、ってとこだ。
結構、代償がきっつい能力なんだよなぁ。
俺が昔会ったことのある能力者なんて、代償が“極度の猫舌になる”とかだったぞ。ちなみにそいつは火炎放射器という能力だった。言うほど高い火力は出せないようだったが。
下の方に『一括払いになさいますか。分割に致しますか』という文字が浮かんでいたので、分割で。と念じておいた。これで、明日は4相当と3相当の不幸が降りかかるのだろう。微妙に気が重い。基本、不可避だからな。
なんとなく起きそうな不幸を夢想してみた。
「自販機に金を飲まれるとかかな…………ん?」
たったった、という俺の足音に、タッタッタと軽い足音が重なっている気がした。
「地味にいやぁーな不幸だねぃ」
うわっ!?
「ふへへ」
なぜか、耀が併走してた。いつの間に出てきたお前。神出鬼没にもほどがあるだろ!
「なぜいる」
「たまたまだよタマタマ」
偶々、ねぇ。てか答えになってない。
「怪しいもんだな」
自然と走る速度を上げながら、呟いた。体力のない耀はへぇへぇ息を荒くし始めた。
「疲れたぁ」
「うが、寄りかかるな!」
走りづらい!
ひっしと俺の右腕にしがみついてきた耀をずーるずーる引きずりながら走った。つーかなんで走ってんだ? と思って速度を緩めて歩行に移行した。耀がおぶさってきた。重……くはないけど鬱陶しい。
「ごーごーろぎー。地の果てまでー」
「地の底に落ちてくれ」
やる気のないやりとりをしながら、殺し屋に狙われた事など忘れかけて、見慣れた家路を辿った。
【閑話は続かない】
何はともあれお粗末様でした。
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