閑話で休題。断じて閑話休題にあらず。
殺し屋的8話目
閑話休題にあらず。あくまで無駄話。
突然だガァアアンゥゥ……!
「…………………………っぶね」
珍しく、クレバーな殺し屋さんに狙われていた。
とある木曜日のとある夜半、というには早い時間。大体9時くらい。その日は珍しく大和と二人で下校し、近くのゲーセンで遊んで、その後大和宅でまったりしたあとの家路だった。
正面から至って普通のスーツ姿の男が歩いてきた。それだけなら問題ないが、男の視線が俺をつかんで離さなかったので、嫌でも意識させられていた。
そして、距離が10メートルを切った辺りで、男が無造作に背広の内ポケットに手を入れて、ケータイでも取り出すように鉄色の拳銃を取り出して発砲してきた。
ちらちらと盗み見していた俺は、突然の出来事に驚く暇もないまま、無意識に体を傾けながら上体を捻った。次の瞬間には俺の右側面を鉛の塊が亜音速で飛翔し、ワイシャツの右の裾を千切りながら後方へ飛び抜けていった。
そして、銃弾が外れたことに微塵も表情を動かさずに、もう一度俺をその銃口で照準してきた。
ガガァアアンゥゥ……!
「とわっ」
一発目からのインターバルがほぼない状態で放たれた銃弾は、本来であれば俺に命中していた。だが、アンバランスな姿勢で必殺の威力を秘めた衝撃を避けた結果、その勢いに圧されるように、余波で体が大きく横に傾いた。
それに抗うこともできずに倒れかけた俺の右上方を、再び銃弾が飛び抜けていった。
なんとか横倒しになることだけは耐えて、不格好ながらも踏ん張って、慌てて銃を持つ男に顔を向けた。
こいつ、殺し屋だ。
それ以外に、街中で突然拳銃を取り出して発砲してくる人種を、俺は知らない。
しかし、今まで俺が接してきた殺し屋とは、まったく違う人種でもあるようだ。
ヤツらは語る。仕事の前に、殺しの前に。自らの人生観と価値観を他者と共有、あるいは討論したいがために、ターゲットに語りかけるのだ。
俺が知っている殺し屋は、そうなのだが……。
目の前にいるスーツ姿の殺し屋に、俺は並々ならない緊張を強いられていた。
だって、前口上も何もなしに銃ぶっぱなしてくんだもん。
「…………………………」
俺は、男が何をしてきてもいいように、注意深く観察した。そして、脱力した。
なぜか、殺し屋さんは銃の照準を俺から地面に変更してしまったのだ。ぶらぶらと通勤カバンのように銃をぶら下げて持つ殺し屋に、危機感をごっそり殺された。
「どうやら、私に君は殺せないようだ」
…………………………………………はあ?
「はあ?」
ココロと同期してコトバが出てしまった。
何をいっちょるんだこの殺し屋。
困惑する俺をよそに、殺し屋は語る。語る。
「君は能力者だろう?」
「え、はあ」
やっぱり、そういう依頼だったかぁ。
「しかし、今は能力を使っていないはずだ。情報では、君の能力は“コトバ”が重要なのだろう。だが、能力を使っていない、つまり一般人と変わらぬはずの君は、私の銃弾を2発も避けた。つまり、私の殺し屋としての腕よりも君の幸運が勝ったということだ」
あ、やっぱりこの人殺し屋か。大抵の殺し屋は自分で自分を殺し屋と自己紹介する奴が多い。
俺は、だが、安心できなかった。このタイプ、つまり無表情タイプだが、は突然キャラが変わったりするからな。
なので、俺は、1度の瞬きで自分を変化させる。
学生のろぎーから、能力者虛木言葉へと。今の俺の瞳は輝いているだろう。と言っても、俺のすぐ近くには街灯があるから、あんまり目立たないかもしれない。
普段から深海のような青っぽい黒目なので、深いコバルトブルーに輝いても、昼間じゃほとんど分からないのだ。今は夜だが、街灯がおひさまも真っ青なほどに照らしてるので同じことだ。
しかし、相も変わらず、殺し屋さんたちはよく分からない持論を持ち出すなぁ。
「私は『グレイメン』と呼ばれている」
唐突に、殺し屋さんが自己紹介を始めた。グレイメン。当然本名じゃなくて通り名とかコードネームだろう。殺し屋業界は好きだからね、そういう異名とか。
グレイメンさんは、銃を仕舞うでもなく、ぶらぶらさせたまま、話を続ける。俺の命もぶらぶら危うく揺れてるぜー。
銃の対処は得意じゃないんだ。
「銃弾2発。これは人を殺すのに十分な数だ。それで死ななかった人間を、どうして殺すことができるだろう」
いや、殺せるだろ。というツッコミは言わないほうがいいな。
「幸運とは運命だ。偶然も運命だし、必然と運命は同義だ。つまり、偶然にしても幸運にしても、私の殺意を回避した君は、私の殺害できる範疇の人間ではないということだ」
しかしこの男、饒舌である。
どうやら、最初のクレバーうんぬんは撤回しなければいけないようだ。
あと、やっぱりこの方も、俺の知っている殺し屋と同じ穴のムジナだったようだ。べらべら語りすぎ。
「私は、ターゲットが恐怖を感じることを良しとしない。無言で、即座に。1発で殺す。それが私の矜持だ。君は既に私を殺し屋と認識してしまったし、殺意を感じてしまう。死を意識した人間を殺すことは私の『グレイメン』たるを危ぶませるのだ」
「えーと」
つまり、どういうことだ?
要は、ターゲットが死を意識して、それに恐怖し、また対処しようと、あるいは覚悟した時点で、殺し屋『グレイメン』の“殺し”は成立しない。って感じか?
全く分からん。
「私は仕事の成功率が100パーセントだ」
急に、グレイメンが話題を変えた。ていうか、話への入りが『私は』ばっかりだ。結構、自己主張が激しいんだな。
「なぜだか分かるか?」
と思ったら、問いかけられた。そのまま独りでべらべら喋っててくれればよかったのに。
「そりゃ、不意打ちで1発ぶち込まれればな」
普通、対処できなくて死ぬ。簡単に死ぬ。余程の重要人物とかなら護衛その他もいるだろし、命狙われるのに慣れてるだろうけど。一般人はそういうのに耐性ないのだ。
「そのとおり。私は民間人専門の殺し屋なのだ。能力者を殺す依頼は初めてだが、依頼は依頼だ。達成しなければいけない」
ああ、出た。仕事に真摯な殺し屋って意外に多いんだよな。プライド持ってるっていうか。
そういう意味では、彼らは普通の社会人より恵まれている。自分がしたい仕事をしているのだから。
唐突に感じるかもしれないが、話題を少し変える。
俺にはアイデンティティーというものがある。それは、能力とは別の、一般人が持っているような、普通のアイデンティティーだ。
だが、能力者というのは、能力そのものがアイデンティティー、パーソナリティになっていることが多い。と言いながらも、俺が会ったことのある能力者など2人くらいだが。
とにかく、能力者は能力がパーソナリティでありプライドに繋がっている。
だが、殺し屋で、殺しがアイデンティティーの奴は、少ない。殺しそのものが自己の証明ではなく、殺しを通して己の価値観、考え方を貫いているのだ。だからかは分からないが、殺し屋には詩人が多い。
つまりは、仕事に誇りを持っているということだ。
「私は殺しの腕だけは確かなんだ。幸運や運命に逆らうに足る、矜持も持ち合わせている。だから――」
再び、グレイメンの銃が、俺をフォーカスする。
「――死んでくれ」
「俺は死なねェッ!」
俺の叫びとグレイメンの声が重なり、激しい銃声が全ての音を飲み込んだ。
【続く】
何はともあれお粗末様でした。
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