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新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第4章:天然のハイウェイと近代住居の誕生

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第53話:精密計器の誕生と、真の「マザーマシン」

建国2年、冬。


真野巧の工房では、完成したばかりの「絶対平面(定盤)」を使った、新たな狂気の作業が始まっていた。


標的は、初期型水力旋盤の分厚い鉄の土台ベッドと、刃をスライドさせるための「レール」である。


「ええか、よう見とけよ」


真野は、獣の脂に赤い木の実の汁と細かい赤土を混ぜ合わせた「赤い塗料(光明丹の代用品)」を作った。

それを、完成したばかりの絶対平面(定盤)の表面に、極めて薄く、均一に塗り広げる。


そして、その定盤を裏返し、旋盤のレールの上にそっと乗せ、数センチだけスライドさせてから持ち上げた。


「あっ……!」


見学していたチャパが、声を漏らす。


レールの上には、赤い塗料が「点々」と不規則に付着していた。

塗料が全くついていない部分と、べったりと赤く染まった部分が、まだら模様になっている。


「これが『答え』や」


真野はニヤリと笑い、先端が平たく鋭利になった手製のノミ(キサゲ)を手に取った。


「レールの中で、他よりわずかに出っ張っとる部分(凸)だけに、定盤の赤い色が移るんや。つまり、この『赤い部分』だけをノミで薄く削り落とせば、レールは定盤の完璧な平らさに近づいていく」


真野はそう言うと、赤い塗料がついた部分だけを、シュッ、シュッと音を立てて器用に削り落としていった。


「削り終わったら、もう一回定盤を当てて色をつける。また赤くなったところを削る。……これを、レール全体が均一な真っ赤に染まる(すべての面が定盤に密着する)まで、無限に繰り返すんや」


キサゲ加工。

現代の超精密な工作機械のガイド面も、最終的には職人の手によるこの地道な作業で仕上げられている。


「なるほど……! これなら、エルワさんのような神がかった指先の感覚がなくても、目で見て確実に『平ら』にすることができますね!」


チャパが、その極めて論理的で美しい工学のプロセスに目を輝かせた。


エルワもまた、真野の手元を真剣な眼差しで見つめている。


「真野さん。私もやります」


「おお。エルワなら、削る力の加減もすぐ覚えるやろ。頼むで」


真野とエルワが並んでレールに向かい、コンマ数ミクロンの出っ張りを削り落としていく。

二人の息の合った手作業により、旋盤のレールは数日のうちに「完璧な直線と水平」を取り戻した。


***


「よし、土台は完璧や。次は『測る手段(定規)』やな」


レールが仕上がった後、真野は作業台の上に「太い鉄のボルト(ネジ)」と、大きな「円盤」を置いた。


「真野さん。東さんたちと決めた『1センチ』の基準なら、木の定規がありますよ?」


チャパが不思議そうに言うと、真野は首を振った。


「その定規の目盛りじゃ、せいぜい1ミリまでしか測れん。これから俺たちが作ろうとしとるディーゼルエンジンは、シリンダーの太さが『0.01ミリ』でも違えば、空気が漏れて爆発せんのや」


「0.01ミリ……? 髪の毛よりずっと細いですよね? そんなもの、どうやって目で見て測るんですか?」


「ええ質問や、チャパ」


真野は、太いボルトを手に取った。


「チャパ、お前の空間認識能力なら一発で分かるはずや。このネジの山から山までの距離ピッチを、正確に『1ミリ』で削り出したとする」


真野はボルトにナットをはめ込み、クルッと一周回した。


「ナットを『一回転』させたら、このナットは前に何ミリ進む?」


「ええと……ネジ山の隙間が1ミリなら、一回転で進む距離も、ぴったり『1ミリ』です」


「正解や。じゃあ、ナットの頭に『100個の目盛り』を描いた円盤を取り付けたとしよう」


真野は、木炭で目盛りを描いた円盤を、ナットにくっつけるジェスチャーをした。


「この円盤を、目盛り『一つ分』だけ回した時、ナットは前にどれだけ進む?」


チャパはハッとして、目を見開いた。


「1ミリの、100分の一……つまり、『0.01ミリ』進む……!!」


チャパの脳内で、物理的な回転運動と直線の距離が完璧にリンクした。


「せや!」


真野が嬉しそうにチャパの肩を叩く。


「人間の目には、0.01ミリの隙間は見えん。けど、『円盤に描かれた100個の目盛り』なら、目で見てハッキリと読める!」


見えないミクロンの直線を、目に見える円運動(角度)に変換して拡大する。

これこそが、精密測定器『マイクロメーター』の原理である。


真野たちはすぐさま、Cの字型をした頑丈な鉄のフレームを作り、そこに精密に削り出した「ピッチ1ミリのネジ」と「目盛り付きのダイヤル」を組み込んだ。


こうして、異世界初となる「0.01ミリ単位の凹凸を可視化する魔法の定規マイクロメーター」が誕生した。


***


数日後。


真野の工房に、郷田と九条が視察に訪れていた。


「できたらしいな、真野」


「おう、剛。九条。特等席で見とけ」


真野は、キサゲ加工で完璧な水平を得た「鋼鉄のベッド(土台)」と、そこに取り付けられた刃物台を撫でた。


旋盤には、エンジンの部品となる分厚い鉄の円柱シリンダーがセットされている。


「動かすで」


真野がレバーを引くと、水車からの動力がギアを介して伝わり、旋盤が重低音を響かせて回転を始めた。


『シュイィィィィィン……!』


これまでの初期型旋盤とは、出ている音が全く違った。

ガタつきによる振動音が一切ない。


真野がハンドルを回して刃を当てると、鉄の円柱から、まるで薄いリンゴの皮のような「繋がった美しい切り屑」がスルスルと剥がれ落ちていく。

刃がブレることなく、完璧な直線軌道を描いている証拠だった。


「すげえ……」


郷田が思わず息を呑む。

削り終わった鉄の円柱の表面は、まるで鏡のように鈍く光を反射していた。


真野は旋盤を止め、自作したマイクロメーターを円柱に挟み込んだ。


「手前側、直径150.00ミリ。……真ん中、直径150.00ミリ。……奥側、直径150.00ミリ」


真野の読み上げる数値に、工房が静まり返る。

0.01ミリの狂いもなく、完璧な「真円のストレート」が削り出されたのだ。


「完璧や。これで、どんな精密な金属パーツでも、設計図の寸法通りに量産できる」


真野が、誇らしげにマイクロメーターを掲げた。

チャパとエルワも、顔を見合わせて満面の笑みを浮かべている。


絶対平面という基準。

マイクロメーターという測定器。

そして、それらを統合した鋼鉄の土台。


すべてが揃ったこの瞬間、初期の粗末な水力旋盤は、ミクロン単位の加工を可能にする真の『マザーマシン(工作機械)』へと進化した。


「よくやった、真野」


九条が、冷徹な瞳の奥に強い野心の炎を燃やして笑った。


「これでお前たちの手は、神の精度を手に入れた。鉄を自在に削り、内燃機関エンジンを作る準備は完全に整ったわけだ」


「ああ。いつでも極限圧縮のシリンダーを削ったるわ。……で、肝心の『メシ(燃料)』の進捗はどうなっとる? 予定通りに進んでるんやろな?」


真野が腕を組んで郷田の方を向くと、九条が満足げに頷いた。


「抜かりはない。お前にこのマザーマシンを作らせたのも、すべて計算通りだ。間もなく、この国は究極の液体燃料を手に入れる」


九条の言葉を受け、郷田がニヤリと獰猛な笑みを浮かべて前に出た。


「ああ、予定通りだ。すぐに『黒い血(原油)』が吹き出すぜ。ペンシルベニアの地質構造から溜まり場の在り処は完全に特定し、すでにボーリング櫓の準備も終わってる」


帝国の工業力は、次なるフェーズ「石油」の確実な入手へと照準を合わせていた。

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