第一話 異世界召喚までのロード時間が長すぎない!?
どうも、作者の「あさろう豆腐は崩れやすい」です!
新たな案を思いついてしまったので、衝動的に連載を開始してしまいました。
これで連載作品が三つ目……。
どうしよう……。
いっそ豆腐になって、ドロドロに崩れたい。
でも頑張りますよ!
今の世の中は大変なことが満ち溢れています。
それでも頑張らなくてはならないのです。
って何の話や?
とにかく本作品お楽しみ下さいませ!
「えっ……ちょ……これは……まさか……」
部屋の中に突如として出現した魔法陣が、彼の身体を眩い光で包み込んでいく。
「異世界召喚ってやつぅ~~!!!」
そして部屋の中に声を残して、シュン、と消えていきました。
――なんて、ノリノリで叫んでいた時期が俺にもありました。
「……おい。長すぎだろ、ロード時間ッ!」
俺の名前は、籠森 守。
生粋のオタクにして新人ニートの二十歳だ!
すみません。
調子に乗りました。
でも、こうしていないと気が滅入っちゃいそうなんです。
暗黒の空間にポツンと一人。
異世界に転移するはずの俺の身体は、なぜか時空の狭間とかいう場所に完全に取り残されていた。
スマホは圏外。ネットもない。あるのは無限に続く静寂だけ。
最初の一週間は親友のパソコンが恋しくて泣き叫び、次の十年は暗黒の空間を歩き回り、色々なガラクタを集めた。
この時空の狭間に十年居て、気付いたことがある。
それは歳を取らないことだ。
ならば――と、その次の百年は、考えることを諦め、異世界に行ったら必要になるであろう魔力や体力、筋力を鍛えた。
そのまた次の千年は、ガラクタの中に剣術や武術、魔術の教本、それに加え剣や杖などの武器や身に着けると成長速度が倍増する効果のアイテムもあったので、修業することにした。
修業を始めて十万年、教本に書いてあることは完全にマスターしてしまったので、我流の武術を確立させてやることにした。
名付けて【籠森流神殺拳】。厨二病全開の名前だが、まあまあ良いんじゃないのか。
それから五千万年、(恐らく)神も殺せるであろう最強の武術を確立させた。
あらゆる物質ですら原子崩壊させる攻撃を持ち、あらゆる攻撃すら一歩も動かずに完全無効化する絶対防御を持つ。
「これなら、異世界でもやっていけるだろう。だが、ここで止まってはいけない。異世界のモンスターが強すぎて全然活躍できないのが、オチだ……」
それから五千万年は、独自の魔法を作り上げることに使った。
もちろん【籠森流神殺拳】の鍛錬は忘れない。
結果、チート級の魔法を大量に生み出してしまい、呼吸と同じレベルで発動できるようになっていた。
普通なら、一億年も暗闇に居たら精神が崩壊していただろう。
だが、オタクたるもの、厨二病の練習は忘れない。
一億年もの間、俺はそれを欠かさなかった。
それに見られるものもいないから安心だった。
故に俺のメンタルはまだ健在だ。
「くくく………我が右腕に眠る黒き龍よ………もう後戻りはできんぞ…………全てを焼き尽くせ!!!」
とか毎日ノリノリでやってたら、本当に龍の魔術が完成しちゃったのは内緒である。
一億年という狂った時間は、タダの引きこもりを、世界の理を書き換える、まさに『歩く天災』へと変貌させていた。
いつものようにチート級魔術を撃ちまくっていたら、暗黒の空間が白く光り輝いた。
「ぅわぁ……目がぁ………目がぁ…………!」
次に目を開いたときは荘厳な装飾が施された、THE:王室みたいな部屋だった。
「………ふむ。随分と貧相な男が引っかかったものだな」
視界がクリアになると、豪奢な玉座に座る男女が目に入った。
中央の王らしきガタイが良い男は、なぜか青い顔をしてガタガタと震えている。
代わりに口を開いたのは、その隣に座る、黒髪の恐ろしく整った顔立ちをした妖艶な美女だった。恐らく女王だろう。
女王は、一億年着古した俺のヨレヨレのスウェット(俺が耐久性を神話級にしたやつ)をゴミを見るような目で見つめている。
「おい、そこの無礼者。国の一大事だ。我が国の為にその命、捧げてもらうぞ」
え、何この上から目線。めちゃくちゃ偉そうじゃん。つか隣の王様、なんで俺を見て失禁しかけてんの?あ、そっか。重度の潔癖症なんだ………。
俺は二人を睨もうとしたが、使命感に駆られるように、勢いよく視線を足元へ落とした。
ここは、異世界召喚者の心得その一、表向きは王族を信用し、裏では疑え、だ。
「分かりました。その前にこの世界の情報を教えていただきたい」
女王は一度フゥーと息を吐いて目を閉じると、次の瞬間、カッと力強く目を見開いて口を開いた。
「愚民が、私達に指図するでないわ!」
ですよねー。流れ的にそうだと思ってましたー。女王さま、期待通りのテンプレ回収ありがとうございます!
「了解しました。それで私は何をすればいいのですか?」
「それはだな――」
その時、玉座の後ろのステンドグラスが割れ、漆黒の鱗に禍々しい角、遭遇即デリ系ドラゴンが突っ込んできた。
まずい………! ここで死なれたら、俺の異世界ライフが終わる………!
咄嗟に指先に魔力を集束させ、銃身に見立てて放つ。
音もなく放たれた青白い弾丸は、瞬時にドラゴンの脳天を貫いた。
「【籠森流神殺拳:穿弾】」
ハイ勝ち。完全に入ったわ。
突き出した指先から立ち上る魔力の残滓をフッと息で吹き消しつつ、俺は完璧な残心の姿勢をキープ。
いつでも次弾を装填できるこの隙のない構え、我ながら完璧すぎて鏡で確認したいレベルである。
直後、さっきまでボスクラスの威厳を放っていたドラゴンが、糸の切れたマリオネットよろしくドッシャアアアンと大爆死クソデカ地響きを立てて床に大沈没。
完全にこと切れてピクリとも動かない。
はいワンパン。対戦ありがとうございました。
ふと視線を玉座に向ければそこには完全にバグった顔の王と女王の姿。
いや顔芸のキレ良すぎだろ。新世界の神か!
開いた口がふさがらないどころか顎が床に突き刺さりそうな王様と、あまりの衝撃に言葉を失ってリアルに「あ、あばば………」みたいな顔でこちらを凝視している女王様。
完全に脳の処理キャパを超えちゃってる時のそれである。
「大丈夫でしたか? 女王様――」
「まさか……本当に……伝説の救世主……様……なのか……!?」
今まで黙っていた王様が、震える声で口を開いた。
おっ、出たよ。世界観の解説担当ムーブ。
待ってましたと言わんばかりのテンプレ台詞に、俺のオタク心がニチャァと歪むのを止められない。
「竜王が城を襲うときに伝説の救世主が現れると王族に伝え継がれてきたが、まさか貴方がそうなのですか?」
「えっ?」
あれ竜王だったの。物語中盤で主人公に立ちはだかるやつじゃん。
最初に倒す敵でよかったの!?
「別に普通の人間ですよ」
俺がそう答えた瞬間、それまでフリーズしていた女王様が、すっと視線をこちらへ動かした。
さっきまでの顔芸は完全に幻。
彼女はドレスの裾を掴むと、玉座の階段を一段一段信じられないほど優雅に悠々と下りてくる。
「あれが普通な訳ありませんわよ」
やがて俺の前までたどり着くと、ふっと妖艶に微笑んで見せた。
先ほどの女王様の声を借りるのならば、「あばば」である。
自慢じゃないが、俺の女性耐性は十億年もの間、一度も必要とされなかったから完全に退化して、死んでいる。
「さあ、こちらですわ」
女王様がその細く長い指で俺の手を絡めとり、別室へといざなう。
ハイ無理、脳細胞が完全に逝った。
十億年モノの純潔に美女の恋人つなぎ+特攻ダメージが過ぎる。
リアルに心臓がドコドコ鳴ってて、別室に着く前に俺の尊厳が爆発四散しそうなんですけど。
…………って、え、ちょっと待って。
「私を貴方様に捧げます。ですから………あの魔王を倒しては下さいませんか?」
別室に入った瞬間、女王様がガチのトーンで押し倒してきた。
至近距離の美女に俺のライフはもうゼロよ!
と歓喜したのも束の間、要求が重すぎて一瞬でス―ン賢者タイム。
ハニートラップの規模が国家レベル過ぎて、俺の中の天使と悪魔が激しくディベートを始めてるんだけど。
「おい十億年だぞ!? 美女の誘惑に乗って魔王もワンパンしちまえばハッピーエンド確定ルートだぞ!!」
と右の悪魔が叫べば、
「待って! まずは既成事実を作ってから魔王を倒しに行くべきよ!」
と左の天使………あれ、天使かこれ? ……こいつ、悪魔じゃね。
なんなんだよ! 俺のピュアな天使は十億年の間に死んじまったのかよ!
このままじゃ駄目だ!!
俺は崩壊寸前の理性で女王様の両肩を掴み、密着している状態を少しでも解消しようとした。
するとその時、女王様の身体が光り出す。
俺は咄嗟に目を押さえ、目潰し呪文を喰らったおじさん状態になるのを防ぐ。
「あれ……!? もう――」
光が最高潮に達する直前、さっきまでの艶っぽい美声は明らかに違う、やたらと幼くて可愛らしい声が耳に聞こえた。
次の瞬間、視界を攻めていた閃光がパッと霧散する。
そこに立っていたのは、さっきまでの妖艶な絶世の美女――ではなく、どう見ても俺と同年代、等身大超絶ピュアな美少女だった。
え、いや、誰ぇぇぇ!?
大人びたお色気オーラが完全にリセットされて純度100%の清純派黒髪美少女が爆誕してるんですけど! 服もサイズが合わなくなったのか肩とか色々はだけてて別の意味で大惨事…………いやご褒美か、これ。
「えっーと、貴方様は先程の妖艶な美女であっておりますであっていますでしょうか?」
内心で中々にクズ発言をしながら、俺は必死に視線を泳がせる。
ってか敬語もなんかおかしいぞ。
「う、うぅ………本当に申し訳ありません………っ!」
すると黒髪美少女(元・妖艶女王)は、はだけた胸元を両手で顔を赤くして隠しながら、涙目で白状し始めた。
「実はあの……魔王を倒してもらうために、魔法で大人の姿に変装して、必死に『お色気国家おねだりムーブ』をかましていたのです………! でも、貴方様が触った瞬間、魔力の維持が切れちゃいまして…………」
指先をもじもじさせながら、消え入りそうな声でガチトーンの謝罪をしてくる美少女。
はい可愛い、優勝。さっきの「私を捧げます(妖艶)」より、今の「無理して頑張ってました(赤面)」の方が十億年DTソウルからすると、破壊力が特攻クリティカルダメージで百倍高い。
「あれ? ということは…………」
俺は気付いてしまった。俺が今まで犯していた勘違いに………。
よくよく考えたら、さっき玉座で見た王様ってどう見ても、三十歳は超えてるよな。そこから考えるならば本当の女王様って普通にアラサーか、なんならそれ以上のはずでは………?
でも待てよ、ここは王道の異世界。一夫多妻がデフォの社会なら、年の離れた若い第四側室とかのパターンも大いにあり得る。いやでも、このピュアすぎる反応はどう見てもプロの王族のそれじゃない。
「女王様、ではない?」
直後、部屋に気まず過ぎる沈黙が訪れる。
完全に音が消えた室内で、美少女の瞳からすっとハイライトが消え去った。
さっきまでの赤面はどこへやら、前髪の影から冷徹な暗殺者のような眼光で、じっと俺を凝視してくる。
「…………誰が」
一気に高まる美少女の闘気。
部屋の温度が急降下したかのような、背筋が凍る緊張感が走る。
「………誰が第四側室の偽女王様ですか」
地割れのような超低音ボイス。
いや、俺が心の中で「第四側室」とか「プロの王族じゃない」とか邪推してたの、全部声に出てたんですかー!?
あっこれ、あかん。あきまへんわ。
異世界ライフ、終わるやつや。
このまま地下監獄に投獄され、死ぬまで労働し続けるやつや。
ならば! ここで親に媚を売るたびに使い、今やプロの領域にまで達した本気を見せてやろうぞ。
全力…………
「本当に………」
ジャンピング………
「すみませんでしたぁ!!!」
土下座ァァァ!
床に額を激突させ、綺麗な鈍音を響かせる。
床のひんやりとした大理石の感触が、俺の死期が近いことをリアルに伝えてきた。
「見事な跳躍からの、美しい制動。お見事です。…………で?」
頭上から降ってくる声には、一切の感情がこもっていない。
絶対零度。
冷気で床が凍りつきそう……。
「お、お許しください! 全ては我が未熟な脳細胞が引き起こした哀れなバグにございます! 貴方様のような可憐でみずみずしい美少女をあろうことかアラサーなどと……! ギルティ! 万死に値する大罪です!」
「バグ……アラサー……何を言っているかちょっと分かりませんが、自覚はあるようですね」
「あります! 大ありです! そもそも、あの玉座の渋いオッサンが王様なら、貴方様のような奇跡の美少女は、王女殿下であらせられるはず…………!」
一気呵成にまくし立てる。
ここで言葉を止めれば、即座に衛兵を呼ばれて人生が本当に詰む。
親に小遣いをねだる時に培った、俺のノンストップ・ゴマスリ・マシンガンが火を噴く。
「可憐にして清らかな、王国の至宝たる王女殿下にわたくしめは、本当に無礼なことを……! そのあまりの美しさに脳がバグり、異世界転移の衝撃も相まって、口からでたらめな妄言が飛び出してしまいました! 側室だなんて、そんな不敬なこと、一瞬でも考えた我が脳みそを今すぐ握りつぶしたい気分です!」
ふっと、頭上の殺気がわずかに和らいだ。気がする。
「………ふん。口の減らない男」
そして僅かに聞こえたのは、衣擦れの音。
恐る恐る、土下座の姿勢のまま目上だけを動かして前髪の隙間から様子をうかがう。
そこには、腕を組み、そっぽを向きながらも、耳の裏まで真っ赤に染め直している美少女――いや、王女殿下の姿があった。
「ま、間違いに気付いたなら、よろしい。私は寛大ですから、今回の無礼は不問に処してあげましょう」
「チョロッ…………!!」
「はい?」
「あ」
やってしまったぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁ!!!!!
本日二度目の、脳内発言ダイレクト外部出力。
完全に失敗した。
美少女の瞳から、再びすうううっとハイライトが消えていく。
その顔は「今度こそ絶対に生かしてはおかない」という強い意志に満ちていた。
ジャンピング土下座のストックはもうない。
俺の異世界ライフ、今度こそ完全終了――。
十億年の修業の意味とは……………。
「…………もういいです、反論はしません。俺を煮るなり焼くなり好きにして下さい」
はあ。この世界ならニートなんかに絶対にならないって決めてたのにな。
こんなことになるなんて。
でも超絶可愛い美少女に殺してもらえるんだ。
本望だ。
もし願いを聞いてもらえるのなら、腹上死がいいなあ。
「アハハハハハハハハ! ハハハハハハ!!!」
俺が覚悟を決めて、内心で最後になるであろうキモ発言をかましていると、頭上からどこぞの「計画通り」に行かなかった新世界の神みたいな笑い声が降ってきた。……いやさっきの顔芸もそうだし、この王女様、殺人ノート好きすぎだろ! まあ王女様は知らないだろうけど……。
恐る恐る顔を上げると、そこにはさっきまでのプロの王族の硬さは微塵もない、まるで小悪魔のように目を細めた美少女がいた。
……こいつさっきまでの王女様か?




