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少年とねこと魔法使い ~フェアリーストーン~  作者: 碧衣 奈美
6の石 ~鈴音石~

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鈴の音が聞こえた方向

 森の中へ入ったものの、グレイヴァ達には特にこれというあてもない。

 そもそも、鈴音石がこの森の中にあるのかすらも、定かではないのだ。どんな石かもわからない。ないないづくしだ。

「鈴の音がする、と言っていましたね。何がどういう状態でそんな音がするのか、という所までは聞けませんでしたが。とにかく、耳を頼りに歩くしかないですね。街の中とは違って森の中で聞く音は限られてますし、そういう点では聞き取りやすいはずです」

 確かに、こんな森で鈴の音を聞けば、すぐにわかるだろう。動物の声や風が草木を揺らす音を、鈴の音と間違うことはまずない。あるとすれば、鳥の鳴き声くらいだろうか。

 アルテが落ち葉を魔法で白くして、来た道に散らしておく。これで、帰り道は確保だ。もちろん、風で飛ばないようにしてある。

「どうして、白にするんだ?」

「暗くなっても、白が一番よく見えるんですよ。それに、この辺りの色を考えれば、白が一番目立ちますからね」

 土の黒。木の茶色。葉の緑。

 濃さの違いはあるが、だいたいその色がほとんどだ。

 光のさす所では花も咲いているが、そんなに鮮やかな色のものはない。

 そんな中で、白く色付けされた葉はよく目立っている。少し離れると紙で作った葉にも見えるから、自然の中で人工物っぽい物はわかりやすい。

「けどさ、もし霧が出たりしたら? シャレじゃないけど……こんなこと言い出したら、キリがないけどさ。白の中じゃ、溶け込んでしまうだろ」

「普通はそう思ってしまいがちですけれどね。グレイヴァ、実は霧の中で一番最初に見える色は、白なんですよ」

「は? うそだろ。そんなことってあるのか」

 アルテが嘘をつくとは思えないが、本当とも思えないグレイヴァ。思わず疑いの言葉を口にする。

「あるんです。霧の中で……そうですね、フィノと同じ大きさのねこがいたとしましょうか。白と茶トラとフィノのように黒のねこ。横一穴に並んでいて、ぼく達がそちらへゆっくり近付いたら、最初に見えるのは白ねこなんです。フィノは一番最後」

「ふふん。隠れるには最高の色よ」

 自分が偉い訳ではないが、フィノは胸を張る。

「白は光を反射し、黒は逆に吸収する性質があるんです」

「へぇー」

 妙なところで、雑学が披露された。

 話をしている間も、アルテは目印を付け続け、フィノを先頭にしてグレイヴァ達は森の中を歩いて行く。

「! 今、何か聞こえたぞ」

 少し会話が途切れた時だった。

 かすかにチリーンという音が、グレイヴァの耳に入ってきたのだ。

「ええ、ぼくも聞こえました」

「あたしもっ」

 全員の耳に入ったのだから、聞き間違いではなさそうだ。

 小さかったが、あれは鈴の音。

「こっちから」

 と、三者三様で指した方向は、まるっきり違うものだった。

「え……」

 みんなで顔を見合わす。

 グレイヴァは進行方向まっすぐに、アルテは左を、フィノは右を指したのだ。

「困りましたね。同じように歩いていて、こうもバラバラとは」

 二対一なら、一の誰かが方向を聞き間違えたんだろう、と言える。だが、全員が違うとなると、誰が正しいかなんて判断できない。

 音は、ふいうちのように聞こえてきた。気にして歩いていたつもりだが、本当に音がすると混乱してしまう。

「小さい音だったからな。絶対にこっちだっていう自信、ない」

「ぼくも断言はできません。さて……どうしましょうか」

 かすかな音が一回きり。もう一度聞こえれば、もう少し自信を持ってこちらだ、と言えるのだが。

 アルテもグレイヴァも、耳は悪い方ではない。でも、絶対か、と尋ねられてはうなずけなかった。

「みんなが聞いてるなら、音がしたってことだけは間違いないよな。んー、じゃあ、フィノが聞いた方へ行くか? 人間より動物の方が、ずっと耳はいいだろうし」

 ここで立ち止まっている訳にはいかない。わからなくても、どこかには向かわなければいけないのだ。

「あたしの耳を信じてくれるのは嬉しいけど……全部ニセモノ、かもよ。同じ音を聞いて、全員が違う方向を指すなんて、絶対に変だもん」

 示す方向が多少ずれたとしても、それは誤差の範囲だろう。だが、三者三様。アルテとフィノに至っては、真逆の方向だ。

「でも、ここに立っていて、次にまた音がするとは限りませんからね。とりあえず、進んでみましょう。何もなければ一旦ここへ戻って、グレイヴァかぼくが聞いた方向へ行けばいいですから」

 魔法使いの言葉で、フィノを先頭にまた出発する。

 また音が聞こえるかも知れないため、誰も声を出さない。足音もなるだけしないよう、気を付けて。

 だが、期待に反して、二度目の音は聞こえてこなかった。

 人が行き交うことのない森の中なので、道らしい道もない。それでも、ひたすら歩き続けていると、白い葉が落ちているのを見付けた。

「え……これって……アルテが出した目印の葉……よね?」

 爪に葉を引っ掛け、フィノが確認する。いや、確認するまでもない。

 この絵の具を塗ったような白い葉は、さっきアルテがグレイヴァに色の説明をしながら地面に落としていたものだ。

 振り返れば、一行が歩いて来たルートに同じような葉が落ちている。

「もしかして、さっきの場所へ戻って来たの?」

 フィノは「ちょっとショック……」とつぶやいている。

「俺、この木は覚えてるぞ。あそこのうろが、舌を出してるみたいに見えるなって思ってたから」

 森の一部を、ぐるりと回って来たらしい。音の出所がこちらではなかったのか、歩く方向が違ったのか。

「これが村人の話していた幻……でしょうか」

 後ろに目印があるのは、自分達が歩いて来た証拠。でも、目の前にあるのも……自分達が歩いて来た証拠だ。

 元の場所へ戻って来たのか、幻を見せられているのか。

「冗談じゃないぞ。こっちの方向がダメなら、アルテが指してた方へ行こうぜ」

「しかし、グレイヴァ……」

「とにかく、歩いてみなきゃわからないだろ。たまたま戻って来る方向へ歩いただけかも知れないんだし。これが二、三回続いたら……その時に考える」

「大した考えも浮かばないくせに」

 フィノのつぶやきは、グレイヴァには届かなかったようだ。

 さっき、アルテが音を聞いたという方向へ、すでに歩き出している。アルテとフィノも、その後を追った。

 アルテは念のため、白と黒が縦に半分ずつ塗られた葉を一枚、音を聞いたその場に置いた。

 さらに、別ルートを進んだとわかるようにするため、目印にする葉は白地に黒の縦線を二本入れたものを残して歩く。

「……!」

 前へ前へと歩くグレイヴァの目に、白い葉が落ちているのが映った。

 真っ直ぐに歩いて来たつもりだったが、またさっきの場所へ戻ってきたのだ。

 ふりだし地点に帰ってきたのは、間違いない。モノクロの葉が一枚落ちているからだ。後ろには、白地に黒の線が二本入った葉が点々と続いている。

 違うルートを歩いて、ふりだしへ戻ったのだ。

「くそっ。またかよ。じゃ、今度は俺が音を聞いた方へ行ってやるっ」

「グレイヴァ……」

「ちょっと待ちなさいよ」

 もうアルテやフィノの意見を聞くことなく、グレイヴァはさっさと自分が鈴の音を聞いたと思う方向へ歩き出していた。

「変な子ねぇ。グレイヴァってば、どうして闘争心をむき出しにしてるの?」

 二度も同じ場所へ戻ったとわかれば、少しは戸惑いそうなものだ。実際、アルテは少々戸惑っている。

 単に迷っただけなのか。気配は感じなくても、やはりこの森には魔物が棲んでいて、自分達に何かしらの術をかけているのか。

 色々な可能性を考え……ようとしているのに、グレイヴァはさっさと進んでしまう。

 なぜだかグレイヴァは、戸惑うより先に(いきどお)っているらしい。堂々巡りをしている、もしくはさせられていることに対して、怒っているのだ。

 で、負けるもんか、とばかりに歩き続ける。

 グレイヴァを追って歩きながら、アルテは白地に黒の丸をいくつか散らした葉を目印に置いた。三つ目のルートだとわかるように。

「惑わされない、という強い意思があって、いいとは思うんですが……」

「猪突猛進ってだけじゃない」

「魔の力があるなしに関わらず、闇雲に進むのは危険ですね。目印をつけていても、半分迷ったような状況ですし」

「でも、案外ああしてバカみたいに突き進んで行く方が、道が拓けたりしてね。それとも、ますますドツボにはまっちゃうか」

「フィノッ!」

 後ろでそんな会話がなされていることも聞こえていないのか、グレイヴァはどんどん歩き続ける。

「くっそぉ……」

 グレイヴァが、拳を握って立ち止まった。この様子を見れば、どうしたんだ、と改めて聞く必要もない。

 また、元の場所へ戻って来たのだ。

 地面には一枚、白黒の葉。音を聞いた、起点となる場所だ。

「何なんだよ、これ。ちっくしょー」

 グレイヴァは、近くの木に握った拳を叩き付けた。

「落ち着きなさいよ。木にあたったって、仕方がないでしょ」

「けどよぉ、みんなここで音を聞いてるのに、結局戻っちまうんだぞ。俺達が聞いた音は、単なる空耳かよ」

「だから、最初に言ったじゃない。全部ニセモノかもって」

 確かに、フィノは鈴の音を聞いてから歩き出す時「ニセモノかも知れない」と言っていた。

 全員が同じ音を聞いているのに、全員が違う方向から聞こえたと言うのは妙だ、と。

「やはり、何かしらの力が働いているんでしょう。二度までは偶然でも、三度となると偶然では片付けにくいですから」

「俺達を迷わせるつもりで?」

「森の中へ入れたくないのかも知れません。ぼく達は目印をつけていたから、同じ場所へ戻ったのだとわかりましたけれど、普通なら同じ場所をぐるぐる回っていることにすら気付かないはずです」

 この森へ入って出て来ない人がいるのは、この力のせいかも知れない。同じ範囲の中を、ずっと回り続けて遭難してしまうのだ。

「ってことは、村のおっさんが言ってたように、この森に宝があるかも知れないってことか?」

「可能性の一つとしては、あげられますね」

「くそぉ……じゃ、俺達は宝探しの連中と一緒にされてるってことかよ」

「森の……もしくはこの力を使っている誰かが、そう思ってしまったのかも知れません。案外、本当にとんでもない宝があるんじゃないですか」

「アルテ、どうしてそう落ち着いていられるんだよ」

「あんたがカッカしすぎなのよ」

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