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少年とねこと魔法使い ~フェアリーストーン~  作者: 碧衣 奈美
4の石 ~舞踊石~

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シノンを捜しに

 クリュの村からさらに南にある、ネビオロの村。およそ半日はかかる距離だ。往復だけで一日かかってしまう。

 しかも、与えられた時間は二日だけ。シノンを捜すのは一日しかない、ということになる。

 ティグは遠回しに、許可したくない、と言っているのだ。

 いくら形見がどうこうと言われても、結局のところは「最初に話していた妖精を迎えに行く」ということに変わりはない。

 ティグは妖精の存在は信じているものの、それが自分達のそばにいるとは信じていないのだ。

 だから、エンヌに妖精が見えているということも、信じられない。舞いの妖精が見えて、それでエンヌが踊りにやる気を出してくれればそれでいい、という程度。

 だから、エンヌが一座を離れるのは別の理由があるのではないか、と疑っているのだ。

 かと言って、あからさまに反対すると、きっとまた形見がどうこうと言われるだろう。先祖を大切にするよう教え込まれてきた彼にとっては、とても痛い言葉だ。

 許可はするが、これだけの日数のみ。こんな短い期間では行って帰るだけ、となれば、エンヌもあきらめるかも知れない。

 そう思ったのだが……。

「クリュを出発するまでに、戻って来ればいいんだな。よし、エンヌ、行くぞ」

「え、行くって……」

「出発するんだよ、ネビオロ、だっけ? 時間は限られてるんだから、こうしてる時間ももったいないだろ。さ、行こうぜ」

 グレイヴァはエンヌの手を掴むと、さっさと走り出した。

「え……ええっ?」

 驚きながらも、手を引っ張られてエンヌも走り出す。

「ありがと、親方。舞いの妖精も、戻って来たらきっとあんたに感謝すると思うぜ」

 グレイヴァは走りながらそう言って、ティグに手を振った。

 アルテはティグに会釈すると、フィノと一緒にグレイヴァ達の後を追う。

 後には、呆然となった一座の親方が残された。

☆☆☆

 宿のおばさんには、すぐに出掛けなければならなくなったと言い、朝食分のパンなどを弁当用に包んでもらった。

 エンヌの分も追加してもらい、それを持つとグレイヴァ達はクリュの村を後にして、南へ向かった。

「グレイヴァも、やる時はやるのねぇ」

「どういう意味だよ、それ……」

 エンヌが一緒という都合上、人間の姿のままで歩いているフィノ。

 相変わらず、周りに誰がいようと遠慮はない。

「だって、エンヌに話をして連れて行くかどうするかって時は、どっちかと言えば渋ってたじゃない。それが、いきなり本当の駆け落ちみたいに手をつないで、走り出すんだもん」

「駆け落ちみたいってのは、余計だっ」

 赤面しながら、むすっと言い返す。横でエンヌが、くすくすと笑っていた。

「でも、ぼくも正直言って少し驚いたんですよ、グレイヴァ。親方のあの口調では、許可できないとしか取れなさそうなのに、すぐに出発するなんて言い出すんですから」

「逃げるが勝ちって言うだろ? 口調では確かに渋ってたけど、言葉では期限付きで許可が出てるんだから。きっぱりだめだって言われる前に、あの場から逃げた方がいいと思ったんだ。ケチくさい期限だけど、ないよりましだからな」

「団体の長ですからね。まとめ役として、すぐにいい顔はできないんですよ」

「ありがとう。みんなに助けてもらわなきゃ、私だけじゃ絶対に出してもらえなかったわ」

 エンヌは自分でシノンを迎えに行けることに、素直に喜んでいた。

「それにしても、妖精を助ける旅だなんて……大変なことをしてるのね」

 エンヌも旅をしているが、そんな目的で旅をする人がいるなんて、考えたこともなかった。

「んー、ほとんどなりゆきみたいな形でやってるんだけど」

「女の子に弱いもんねぇ、グレイヴァは」

「あのなぁ……誤解を招くような言い方するなってんだ」

「だって、ウィンデの泣き落としで、この旅をすることになったようなものでしょ。男は女の涙に弱いじゃない」

「何だよ、女だってそれをわかってて武器に使うじゃないか……って、ちょっと待てよ。ウィンデはあの時、泣いてなんかいなかったぞ」

 あやうく、スルーしてしまうところだった。

「あら、そう? でも、ずっとグレイヴァが拒否し続けてたら、泣いたかもよ。あ、それともほめておだてて、その気にさせるって手もあるわね」

「フィノがウィンデの立場なら、ほめるってことは絶対しないだろ。逆に相手をバカにして、そんなこともできないのか、とか何とか言ってさ。そこまで言われて黙ってられっか、なんて言わせるんじゃないのか?」

「そうねぇ。グレイヴァが相手ならするかも」

「どうして俺だったら、なんだよ」

「やぁねぇ。あたしだって、相手を見て方法を考えるわよ。あんたに頼むなら、逆上させて勢いでやらせちゃう。途中でやめる、なんて言い出したら、約束もまともに守れないのって言い返すの。これってグレイヴァには効きそうでしょ。それとも……弱みを握って、それをネタにするとかね」

「素直じゃない方法ばっかだな。だいたい、相手を見て、なんて言ってるけど、俺は怒ったらさっさと帰るタイプだぞ。フィノの手になんか乗るかよ」

「そうかしら。あたしに何か言われてすぐに突っ掛かってくるのは、どこの誰かしらね」

「あ、あの……アルテ。私、何か悪い話題を出しちゃったのかしら」

 次第に口ゲンカのような会話になってきたので、エンヌがアルテに助けを求める。

「気にしなくていいですよ。いつもこうですから」

「い、いつも?」

 横でまだ言い争っている( ようにしか見えない )ふたりを、エンヌは目を丸くしながら見ていた。

「でも、そうやって姉弟ゲンカができるのっていいなぁ。私、一人っ子だったから。周りには仲間もいるし、きょうだいみたいなものだけど……やっぱり違うもの」

 エンヌもあの宿のおばさんと同じで、フィノとグレイヴァの髪や瞳の色で血が繋がっている、と判断したらしい。

 姉弟じゃないっ、と言いたかったが、宿では結局「姉弟」ということで通してしまったので、もやもやしながらもグレイヴァは反論を控えた。

「あら、あたし達、姉弟じゃないわよ」

 グレイヴァが黙っていたのに、フィノがあっさりとばらしてしまう。

「フィノ……昨日は自分から姉弟って言い出して、今日は否定すんのかよ」

「バカねぇ。相手や状況が違うんだから、答えが違って当然でしょ。あたしはね、グレイヴァと違ってもう少し訳ありなの。アルテと一緒にいて、そこにグレイヴァがくつついて来たのよ。お互いがたまたまこういう姿で、グレイヴァと姉弟みたいに言われちゃう時があるけどね。あたしとしては、こーんなひねくれた弟なんてほしくないわ」

「その言葉、そっくり返すぜ。俺だって姉貴ができるんなら、もっと穏やかで弟に手を出さない、酒グセの悪くない姉貴がいいもんな」

「あーら、そんなことを言うのはこの口かしら」

 フィノの手が伸びてきたが、かろうじてグレイヴァはその手から逃れる。

「エンヌ、よければシノンのことを話してもらえませんか?」

 放っておくといつまでも「姉弟ゲンカ」が終わりそうにないので、アルテはさっさと話題を変えてしまう。

「え、ええ……。話すと言っても、そんなにたくさんはないんだけど。シノンのことが見えるようになってから、まだ半年くらいしか経っていないの」

 それまでにもエンヌは、人間ではない、何かの気配を感じることはよくあったらしい。ただ、その存在をはっきり目で見ることはできなかった。

 それが約半年近く前、舞いの妖精シノンの姿を見付けたのだ。

 ちょうど新しい舞いをすることになって、でもエンヌにはどうしてもうまく舞えずに悩んでいた時のこと。

 自分の母は、祖母は、もっとうまく舞うことができたのに、と落ち込みながらエンヌは舞踊石を一人で眺めていた。

 そこに、自分のものではない顔が映ったのだ。

 長い銀色の髪に、赤い瞳の少女。

 え……誰? 私じゃない。

 ぽかんと見ている間に、石に映った少女は実際に石から抜けてエンヌの前に立っていた。

 立っていた、とは言っても彼女の身体は手の平に乗る程で、エンヌのひざにちょんと乗っていたような形だ。

「それから、私は彼女から舞踊石の本当のことを聞いたの。ほら、グレイヴァに昨夜話したでしょ」

「妖精の加護がなきゃ、石を持つ意味がない……とかだろ」

「ええ。私には見えても、他の人には見えないらしくって。彼女と話をしていたら、何を独り言しゃべってるんだって聞かれたりしたわ。その時は気にしなかったんだけど、考えると妙な感じね。他の人には見えないなんて」

「本当はそういうものなんですよ」

「え、そうなの? たまにシノンの姿が見えない時があって、後で聞いたら石の中で休んでるからよって言われたわ。そういう時なら、他の人にも見えないのはわかるけど。彼女が私のすぐそばに現れて話をしていても見えないなんて、とても不思議な気がするわ」

「自分には見えているのに、と思えば、妙な気になるのはわかります。でも、普通の人が妖精を見るには方法があって……」

 昨夜と同じ話になりそうな気配。

「……俺、先に行くからな」

 同じように聞いていると話が延々と続きそうなので、グレイヴァはさっさと前を歩く。

 こんなふうにアルテの臨時妖精講義があったりもしたが、考えていたよりも早く目的地に到着できた。

 エンヌの「早く迎えに行きたい」という気持ちが、歩く速度にも現れたのだろう。

 クリュの村より南にある、ネビオロの村。だが、村の中までは入らない。

 ティグの一座は、ネビオロの村外れにテントを張っていた。そこがグレイヴァ達の目的地だ。

 村へと続く道から少し外れた所に細い川が流れ、火を焚いた跡があった。エンヌに聞くと、その辺りがテントを張った場所らしい。

「エンヌが寝てた所が、この辺り? じゃ、ここを中心にして捜すか。けど……どうやって捜せばいいんだ?」

「ある程度、自分達の目で捜すしかないですね。この近くにいるはずだ、という手掛かりしかありませんし」

 夢の妖精にも、はっきりわからなかったのだ。あとはひたすら、原始的に捜すしかない。

「私にも見えるかしら。今までは、シノンから姿を現してくれてたけど……」

「大丈夫よ、心配しなくっても。向こうから意図して消えた訳じゃないんだから。エンヌにも見えるわよ」

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