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少年とねこと魔法使い ~フェアリーストーン~  作者: 碧衣 奈美
4の石 ~舞踊石~

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舞いの妖精

 本当に早速だが、グレイヴァとしては、できるだけ早くこの村から出たいなー、などと思っているので構わない。むしろ、ありがたい。

 あのダンスには、かなり(こた)えているのだ。

「例の魔物の力で、弾き飛ばされた妖精がいるの。魔物の力に(あた)ったことで、体力を消耗してるみたい。だいたいの場所しかわからないんだけど」

「その妖精の夢へ、入ったんじゃないのか? 夢に入れても、場所は確定できない訳?」

「生命の波動が弱いと、はっきりここって言えないの。その妖精、グレイヴァも話だけは聞いているはずよ」

 夢の中で記憶をたどるのは少々やっかいだが、グレイヴァの頭の中をアルテやフィノとしていた会話の断片がよぎった。

「もしかして、エンヌが持ってた舞踊石(ぶようせき)の妖精?」

「当たり」

 アージュが手を叩く。

「やっぱり、魔物のせいだったのか。フィノの奴、挨拶して消える妖精なんかいないって言ってたけど」

「それは、妖精と人間の親密の深さによるけどね。問題は、舞いの妖精シノン。彼女はエンヌという子の舞踊石にいたんだけど、魔物に石から弾き飛ばされたの」

 事件は、人間達が寝静まる真夜中に起きたらしい。

 魔物によって、シノンは石から弾き飛ばされた。飛ばされた、と言っても、エンヌのいる一座が張っていたテントからあまり離れた場所ではない。

 だが、シノンはその時に足を痛めたのだ。

 舞いの妖精には、羽がない。飛ぶように舞うことはできるが、本当に飛ぶことができないのだ。

 だから、足を痛めるということは、人間と同じで移動手段が断たれてしまうことにつながる。

 シノンは懸命にエンヌの元へ戻ろうとしたのだが、時間だけが進み、朝になって一座はテントをたたんで去ってしまった。エンヌも、シノンがいなくなったことにはまだ気付かずに。

 自分が置いて行かれたことを、エンヌに伝える(すべ)はない。魔物の力に(あた)り、支えてくれる石から離れてしまったことも重なって、シノンは次第に弱まってゆく。

「じゃあ、あの舞踊石があれば、舞いの妖精は助かるのか?」

「即効で、という訳にはいかないでしょうけど、私達にとっての夢見石と同じようなもので、かなり大きな影響を与えてるのは確かよ」

「じゃ、シノンを捜しに行く時は、あの石を持ってる方がいいってことだよな。けど、俺達が捜してる間に、今度はエンヌがどこへ行ったかわからなくなるってのも……」

 あの舞踊石は、エンヌにとっては形見になる大切な物。だが、力を失っている妖精にとっても、必要な物だ。

 グレイヴァ達が妖精を捜すのにどれだけの時間がかかるか、なんてわかりっこない。その間に、エンヌはまた巡業の旅へ出てしまうだろう。

 そうなると、妖精が見付かっても舞踊石の中へ返せないことになってしまう。

 妖精と違ってエンヌなら、まして団体で行動するのだから行き先はすぐに掴めるだろうが、もしも、ということもある。

「だったら、その子も連れて行けば? その子には、シノンが見えていたんでしょ。それに、近くへ行けばシノンの気配を感じることもあるでしょうし、見付けやすいかもよ」

 アージュはいとも簡単に、解決策を口にする。

「いいのか、他の人間を巻き込んでも」

「んー、いいとは言えない時もあるでしょうけど、今回は大丈夫じゃないかしら」

「そんなあやふやなこと言って、何かあってからじゃ遅いんだぞ。あの子は魔法使いじゃないし、人前に出る仕事をしてるのに顔をケガでもしたら」

 シノンを助けられても、何かの事故でエンヌがケガをしたら。

 そんな目には絶対遭わせたくない。グレイヴァだってただの人間には違いないが、あちらは女の子だ。

「わかってるわよぉ。まだ断言はできないんだけどね、あの魔物は一度襲った妖精の所へは行かないみたい」

「何言ってんだよ。アージュの時は来たじゃないか」

 夢の世界を襲った魔物が、グレイヴァの夢の中へまでアージュを追って来ていた。一度襲ったらもう来ない、なんて仮説は信じられない。

「そうだけど……ほら、あれは夢見石を探してたからじゃない?」

「だから?」

「力を持ってる、もしくは持とうとしている妖精を狙ってるんじゃないかなって思うのよね。あたしが思うだけだから、絶対そうだとは言えないけど。でもね、今度は夢の中じゃないから、何かあっても魔法使いが何とかしてくれるわよ」

 結構、他力本願な妖精だ。

「その子を連れて行くかどうかは、あなた達で決めてちょうだい。別に絶対あなた達二人でやらないといけないってことじゃないんだから、臨機応変にやってくれればいいの。一応、その子には仲間がそれとなく、シノンがあなたを嫌いになって消えたんじゃないってことを伝えてるから。でないと、彼女が無事に戻って来ても、その子が受け入れてくれなきゃ意味がなくなっちゃうからね」

「それって……今回の経過を話してるってことか?」

「だから、それとなく、よ。詳しくは話してないわ」

「もしかして、最初っからエンヌを巻き込むつもりでやってるんじゃないのか?」

「別にそういうつもりじゃないわよ。あの子がシノンを捜す気になるかもわからないし、後はあなた達次第。じゃ、よろしくね。また新しい情報が入ったら来るわ」

 アージュは立ち上がり、グレイヴァの両肩をぽんと叩いて消えて行った。

「……いいのかよ、そんなんで」

 妖精の消えた辺りを眺めながら、グレイヴァは小さくため息をついた。

☆☆☆

 目を覚ますと部屋の中は薄暗く、窓の外もようやく白々となってきたくらいの時間だった。

 アルテの方を見ると、魔法使いはまだ眠っており、彼の足下の方でフィノがねこの姿で丸くなって眠っている。

 眠り直す気にはなれず、グレイヴァはそっとベッドから抜け出した。

 衣ずれの音に反応してか、フィノの耳がぴくっと動いたが、起きる気配はなさそうだ。

 グレイヴァは、そのまま部屋の外へ出る。

 外の空気は冷たかった。頭の起き切れてない部分が、その冷たさでしっかり目覚めたような気分だ。

 煙突から煙が出ているのを見ると、起きている村の人もいるものの、外へ出て来るような人はまだいないようだ。

 グレイヴァは泉の所まで行くと、ベンチに座った。

 そう言えば、夢の中でもこの辺りに座ってたな、などと思い出しながら。

「どう言えばいいのかな……」

 グレイヴァが考えているのは、舞いの妖精シノンのことをエンヌにどう話すかだった。

 ややこしい話はアルテにしてもらうのが一番だと思うのだが、アルテは説明というものが下手だ。やたらと長くなる。

 そう言うグレイヴァも、上手いとは言えない。フィノなら要約してくれそうだが、余計なことまで言いそうな、ちょっと怖い部分がある。

「グレイヴァ!」

 静かな場所でいきなり名前を呼ばれ、どきっとなる。

 しかも、それが聞き覚えのある声で、たった今まで考えていた相手のものだったから、なおさらだ。

 振り返ると、昨夜会った踊り子のエンヌが本当にそこにいた。

「よかったぁ。まだ朝早いから、会えないと思ってたのに。早起きなのね」

 エンヌは、グレイヴァのいる方へと駆け寄って来た。一本の三つ編みにした赤い髪が、背中で揺れている。

「そう言うエンヌだって、早いぜ」

「私は……あの、昨夜はごめんなさい。急に走って帰ったりして。ペンダントも放って帰っちゃうし」

「あ、そうだったな」

 グレイヴァはポケットをさぐると、エンヌの舞踊石を取り出して彼女に渡した。

「俺の連れが言ってた。形見だったら大切にしろって。留め金は直しておいたから」

「うん。ありがとう。……昨夜ね、不思議な夢を見たの」

 だいたいの内容は知っているが、口には出せないので黙って聞いておく。

「私が昨日話していた、舞いの妖精のシノンのこと、覚えてる?」

「ああ」

「誰なのかはよくわからないんだけど、その誰かがシノンは私を嫌いになっていなくなったんじゃないって言うの。彼女にとって大変なことが起きて、石を離れてしまったって。だけど、魔法使い達が必ず彼女を助けてくれるから、信じて待ちなさいって」

 エンヌの話を聞いて、グレイヴァは頭を抱えたくなった。

 おーい、アージュは「それとなく」なんて表現、使ってなかったか? 誰だぁ、伝えに行ったのは。嫌いになって消えたんじゃないって所まではともかく、大変なことが、なんて話したら、エンヌが心配するだろーが。

 それに、魔法使い()って何だよ、()って。前にも違うって否定して……あの時はフィノが茶々いれるような形だったけど、俺はただの人間だってこと、言ってあるはずだろ。そこまで話してるんじゃ、気にするなって言う方が無茶だっての……。

「あ、あの、グレイヴァ?」

 苦い顔になったグレイヴァを見て、エンヌがおずおずと声をかける。

「ごめんなさい。私、きっとすごく変な話をしてるわね」

「え? いや、そうじゃないんだ」

「変よね。夢のことなのに、現実にあったような言い方して。こんなこと、他の人には話せないけど、なぜかグレイヴァには言っても平気な気がしちゃって」

 言いながら、エンヌは苦笑いする。

「え、えと……それって絶対に正夢って奴だよ。うん、待ってれば、きっとシノンは帰って来る」

 自分でも、取って付けたような言い方だと思ったが、他に言葉も思い浮かばない。

 実際にグレイヴァ達がシノンを助ければ、正夢になるのだが……。

「でも……その夢が本当だとしても、シノンに何があったのかしら。私にできるなら、助けに行きたいのに……」

 ほーら、余計な心配させて、わずらわせることになっちまったじゃないか。ほのめかしすぎてんだよ。いや、ほとんどばらしてる。

「魔法使いって、誰のことかしら。夢だとそのものじゃなく、暗示するって聞いたことがあるんだけど、魔法使いって何を暗示してるのかしら」

 暗示じゃなくて、本当にそのものなんだよ。……これって、エンヌも一緒に連れてけってことなのか?

 手の中の舞踊石を見詰めてつぶやくエンヌを見て、グレイヴァは心の中で叫ぶ。

 エンヌがこのまま一座へ戻り、旅を続けるとしても。

 正夢なのか、思い込みが見せたただの夢なのか、と引きずってしまいかねない。

 シノンは本当に戻って来るのか。戻るのなら、誰が助けてくれるのか。彼女の身に、どんな大変なことが起きたのか……と。

 シノンはきっと戻って来るから待ってなさいね、くらいで済ませてくれればよかったのに。余計なことまで加えるから、グレイヴァが悩む羽目になるのだ。

「あの……さ、エンヌ」

「え? 何?」

「時間、ちょっとあるか?」

「もうすぐ戻らないと。親方には何も言わずに出て来ちゃったから。きっと朝の散歩に出てるんだろう、とは思ってるでしょうけど……どうして?」

「えーと、とにかく、ここで待っててくれ」

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