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少年とねこと魔法使い ~フェアリーストーン~  作者: 碧衣 奈美
4の石 ~舞踊石~

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ダンスと次の目的地

 周りの誰も、彼女の様子には気付かないようだ。

 そうこうするうちに、また音楽が鳴り出す。その音楽で、今度はその周辺にいる人達が踊り始めた。

 順番も組み合わせも、何もない。それぞれが近くにいる異性の手を取って、ダンスを始める。いわゆる、参加型のダンスが始まったのだ。

「ほーら、ボーヤ達もぼーっと突っ立ってないで」

 え? とグレイヴァが聞き返した時にはすでに、グレイヴァの倍は幅のあるおばさんに手を取られ、ほとんどあやつり人形状態で踊らされていた。

「ちょっ、ちょっとタンマ。俺、踊りは」

「何言ってんの。そんなの、適当に足を動かしてりゃいいのよ」

 いつの時代もどこにでも、おばさんパワーというものは存在するようだ。とても逆らえる状態ではない。

「ア、アルテー」

 アルテに救いを求めるが、アルテも似たような状況に(おちい)っていて、グレイヴァを助ける、という余裕はなさそうだ。

「グレイヴァ、お似合いよぉー」

 フィノの声にそちらを向くと、さっき踊り子達が舞っていた舞台に上がり、本日の主役よろしくフィノが踊っていた。

 な、何がお似合いだ、フィノの奴……。

「ボーヤ、見掛けない顔だけど、旅の人?」

「あ、ああ」

「うち、宿屋なのよ。あそこの角の、赤いリボンの飾り付けしてある所がそう。この村に知り合いがいないんなら、泊まっておいきよ」

 ちゃっかり宣伝するおばさん。抜け目がない。

「ど、どうも」

 この地方の人間は太陽の恵みでよく育つのか、彼女だけがそうなのか。

 おばさんの方が、グレイヴァよりもかなり背が高い。横、厚み、高さが共に十分すぎる程にある。当然ながら、豊満。ほとんど彼女の胸に返事をしているような形だ。

 グレイヴァの顔は半分、そのふくよかすぎる胸の谷間に埋まりかけている。したくてやっている訳では、もちろんない。

 おばさんがグレイヴァをしっかりと抱き締めるようにして踊っているので、抵抗すらできないグレイヴァはそういう体勢でかろうじて足を動かしているのだ。

 上を向いたら、今度はずっとおばさんの顔、特に肉付きのよすぎるあご辺りを見上げたまま踊るハメになりそうだ。そもそも、首も満足に動かせない。

 やっぱり、人形状態のグレイヴァだった。

「ここの祭りは楽しいわよぉ。三日三晩続くんだけど、ボーヤは運がいいわ。今日が初日なのよ」

 それを聞いて「とんでもない時に来た」とグレイヴァが思っても、それは仕方のないこと……。

☆☆☆

 さんざん踊らされ、必死になって「もう疲れたから、休みたい」ということを言い、ようやく解放されたグレイヴァ。本当にくたくただった。

 昨夜も疲れたが、今日の方がもっとハードだ。その場にベッドがあったら、そのまま倒れるようにして眠り込んだはず。

「おやおや、若いのに体力ないねぇ。ボーヤ、細いけどちゃんと食べてるかい?」

 おばさんはそんなことを言い、ダンスが終わることを名残惜しそうにしていた。

 グレイヴァは確かに細い方だが、彼女と比べれば大概の人は細く見えるだろう。

 昨日ずっと歩き続けてたから、と言ってかろうじて逃げ出し、グレイヴァは泉の周囲に置かれたベンチへ座り込んだ。

 冗談抜きで、とんでもない時に来たんじゃないのか、俺達。

 とは言え、昨日いた森からはここが一番近い村だし、さらに南へ向かうにしろ、ここを通り抜けなければならない。逆戻りしない限り、この村には来ることになるのだ。

 フィノの奴は、他人事(ひとごと)だと思って笑ってやがったし。アルテも同じ様に踊らされてたけど、いつの間にかいなくなってたな。

 あいつなら何かうまいこと言って、俺よりずっと簡単に逃げ出してるかも。あれで一応、大人だし。

 グレイヴァも祭りそのものや雰囲気は幼い時から好きだったが、こういう状態は勘弁してもらいたい。グチの一つも出るというもの。

 ふいに目の前で、湯気が上がった。一緒においしそうな匂いも。

 顔を上げると、アルテがスープの入った器をグレイヴァの方へ差し出していた。

「お疲れ様でした。おなかすいたでしょう?」

 どうやら露店で買って来たらしい。一緒に、肉をはさんだサンドイッチも渡された。

「昨日より疲れた……」

 動いた(動かされた)のと、昼をずいぶん過ぎていた、ということもあり、アルテの差し入れは嬉しかった。急に空腹を覚え、グレイヴァはあっという間に平らげてしまう。

「いきなり踊らされるとは思わなかった」

「そうですね。まさか急に参加させられるなんて、思っていませんでしたから。あのおばさん、グレイヴァが気に入っていたようですよ」

「だからって、振り回される身にもなってくれよなー。アルテの方はどうだったんだよ。同じ様に引っ張って行かれたけど……。アルテは背が高いし、相手もあのおばさん程じゃなかったから、まだ楽だったろ」

 アルテをパートナーにしたおばさんもかなりの体格ではあったが、グレイヴァの相手程に強引ではなかった。

「グレイヴァより楽だったのは、確かですね。ぼくが解放されても、グレイヴァの方はまだしばらく踊っていましたし」

「なにぃ? じゃ、アルテは俺が踊ってたのを見てるだけだったのか?」

 アルテならうまく逃げ出しているだろうとは思っていたが、本当に先に解放されていたようだ。

「だったら、どうして助けてくれないんだよ」

「彼女があまりに楽しそうに踊っていたので、邪魔するのも悪いかと」

「悪くねぇよっ! おかげでこっちは、へろへろになっちまったんだぞっ」

「うるっさいわねぇ」

 けだるそうな声と同時に、いきなりグレイヴァの首に誰かの腕が巻き付いてきた。

 振り返ると、赤い顔をしたフィノがいる。

「グレイヴァ、あんた、あたしのアルテに、なーに偉そうに怒鳴ってんのよぉ」

「お前の持ち物じゃな……」

「アルテにたてついたら、このあたしが許さないんだからねっ」

 フィノの細い腕が、グレイヴァの首を絞める。

「ぐっ……バカ、やめろっ」

「ばぁかぁ? 誰に向かって言ってんのよぉ」

「こら、放せよ。……フィノ、お前、酒臭いぞ」

 フィノの腕は、普通の人間並みの長さ。なので、グレイヴァの首を絞めていれば当然、顔がすぐそばまで近付いてくる。

 そのフィノの息に、酒の臭いが混じっていた。フィノの顔が赤いのは、そのせいなのだ。表情も怪しい。

 これは、完全に酔っている。

「誰だ、こいつにまたたびやったのは」

「こいつだの、お前だのって、えらっそーに言うんじゃないわよぉ」

 すっかり「絡む酔っ払い」になっているフィノ。結構、酒グセが悪い。

「ぼく達が踊らされている間に、勧められたんですね」

 今日は祭りだ、かたいことを言うな、とばかりに勧められて飲んだのだろう。魔獣であるフィノも、アルコールはちゃんと回るらしい。これは個体差だろう。

「フィノ、倒れないうちに、座って休んでいた方がいいですよ。飲み慣れない物を飲んだりしたら、後でつらくなりますから。ほどほどにしないと」

「はぁーい」

 アルテの言葉には、どこまでも素直なフィノである。

「つらくなるってのは、経験からか?」

「昔、ぼくも飲まされてちょっと……ね。今はこれでも、いけるクチなんですよ」

「その顔で酒を飲んだりしたら、怒られたりしないか?」

「こういう場で勧められた時だけしか、飲みませんからね。どうしても飲みたい、と思うことがこれまでなかったもので」

「ふぅん。そんなもんか。……わわっ」

 フィノがアルテの隣りに座っていた(実際はアルテの方が後から来て座ったのだが)グレイヴァを押しのけ、正確に言えばベンチから突き落とし、自分がアルテの隣りに座った。

 自分が人間の姿であることも忘れているのか、そんなことはどうでもいいのか。アルテのひざを枕にして、あっという間に寝息をたてだした。

「いってぇ。何なんだよ、お前は」

 グレイヴァが文句を言った時には、フィノはすでに夢の世界へ。

「……ったく。好き放題だな、フィノの奴」

 どんな時でもアルテべったりなのはすごい、という気もする。全くぶれない。

「酒が入ると、フィノも遠慮がないですね」

「はあー? 酒なんかなくったって、こいつは遠慮なんてないだろ。少なくとも、俺に対しては」

 グレイヴァの文句なんぞ、フィノにはアリの怒鳴り声よりも小さいだろう。

 周りを見れば、音楽は静かなものに変わり、とりあえず今はダンスをしている人も見当たらない。

「やれやれ、ダンスタイムは終わったみたいだな。俺と踊ってたおばさん、祭りは三日間あるって言ってたけど。毎日あんなじゃ、身が保たないぞ」

「さっき、旅の一座の人達が舞いをしていたでしょう。時間を決めて、何度かやるそうです。もしかしたら、その都度(つど)やるのでは」

「そんな怖い冗談、真面目な顔して言うなよ、アルテ」

 あんなことが何度もあっては、たまらない。グレイヴァは本当にこりごりだった。

「次はすぐに逃げましょうね」

 グレイヴァより楽だったとは言え、陽気すぎるダンスはアルテも懲りたらしい。

「今度はいつ頃、連絡が来るかな」

「誰がどういう形で情報を持って来てくれるか、わかりませんからね」

 彼らの言う連絡や情報とは、たんぽぽの妖精ウィンデを通じてもたらされる伝達事項だ。

 次はどこそこへ行ってくれ、と言われなければ、グレイヴァ達だけではどこに行けばいいのかわからない。自分達だけでは動けないのだ。

「二、三日、この村にとどまりましょうか。南へ向かって歩いて、次は北へ行けと言われたら無駄足になりますし。時間がかかって、相手の身に何かあっても困りますから」

 アルテの言う「相手」とは、災難が降りかかった妖精達だ。

 妖精の話は、別に隠すことではない。大抵の人は妖精の姿を見られないので、話したところで恐らく信用されないだろう。

 しかし、誰が興味を持つかわからないし、首を突っ込んで危険な目に遭う、という可能性もある。

 グレイヴァ達は実際に魔物と遭遇したし、絶対に安全とは言えないのだ。

 そうならないよう、人のいる所ではあえて「妖精」と口にしないようにしている。

「とどまんの? クリュに?」

「いやなら、別の村でもいいですよ」

 アルテが苦笑しながら答えた。

 グレイヴァがさっきのダンスを思い出してか、露骨にいやそうな表情をしたからだ。

「なぁ、ウィンデと連絡を取って、もっとスムーズに情報が流れるようにしてもらえないのかな」

「彼女に連絡しても、そうすぐに事態が好転するとは限りませんよ。あちらだって、何の種族のどこにいる仲間がそうなっているのか、しっかり把握しきれていないはずですし。焦ることはありませんよ。全てがぼく達の力を必要としている、という訳ではないかも知れませんしね」

 アルテに言われると、そうかな、と思い、グレイヴァもそれ以上は言えなかった。

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