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少年とねこと魔法使い ~フェアリーストーン~  作者: 碧衣 奈美
3の石 ~夢見石~

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夢の中の村と両親

「ダーメ、やっぱりここも同じだわ」

 グレイヴァ達が話している間に、あちこちを飛び回っていたアージュ。何の成果も得られず、がっかりした顔で戻って来た。

「確かに石の力は感じるのに、その力がどこから生まれてるのか、さっぱりわかんない。私の仲間って、難しいことしてたのねぇ」

「グレイヴァにはわかんないの? ここはあんたの夢なんだから、どこにどんな物があるとか知らない訳?」

「夢の中で、無茶言うなよ。今はともかく、普通の夢を見てる時、どこに何があるってわかる夢なんかあるかっての」

 ないとは言えないが、そんな都合のいい夢を都合よく見るのは難しいだろう。

「アージュ、今も話していたんですけれど、ぼくにも夢見石の存在がわかるようにはなりませんか? そうすれば、探す目が増えて早く見付かることもあると思うんですが」

「そうね。私もそう思う。だけど、アルテと私達じゃ、持つ力が違うから。感じ取るっていうのは、ちょっと難しいわね。視覚で探してもらうくらいしかできないわ」

 いくらアルテが魔法使いで、感覚が普通の人間より鋭くても、やはり人間には変わりがない。

 夢の妖精と、他の妖精や人間とでは、石の力を受け取る器が違うのだ。

 どうがんばっても、人間に石の存在を突き止めることは無理。目の前に差し出されて初めて何らかの感覚を受けることはあっても、探し当てることはできない。

「視覚でって、原始的に目で見て探せってことか。そう言えば、夢見石ってどんな石なんだ?」

「大きさや形はその時によって違うけれど、色は同じよ。淡い虹色に光っていて、その上を桃色の薄いヴェールが覆ったような感じ」

「覆ったような感じってのはわからないけど、とにかくぼんやりした虹色だな。こんな白い雲の上なら、色があればすぐわかりそうだぞ。アージュにも見付けられなかったんなら、ここじゃないってことだろ」

 見渡す限り、周りは白い雲ばかり。虹の色をした石があるようには思えなかった。雲の中に埋もれていれば見えないだろうが、それを言い出したらキリがない。

「そうね。じゃ、別の夢へ行きましょ」

 アージュが言い、グレイヴァ達の足下にあった雲が急に薄れ始める。

 身構える暇もなく、雲は消えて全員が一気に下へと落下した。

☆☆☆

 グレイヴァはアージュに腕を掴まれ、フィノはいつものねこの大きさのままで小さな翼を出し、アルテは魔法を使っているのか普通に立っているような姿で浮いていた。

「……アージュ、夢をつなげる時はもう少し周りを見てからにしてくれよな」

「あは、さすがに今のはよくなかったわね。ごめんなさい」

 その笑顔を見ていると、あまり反省しているようには見えない。

「グレイヴァ、あんたは飛べるんじゃないの?」

「さっきの夢では飛んでたんだろうけど、ここは違うみたいで……。本当に落ちるかと思った」

 夢が違うと、飛ぶこともできないらしい。アージュが腕を掴んでくれなければ、本当に落ちていた。

 死ぬことはないとしても、やはり怖い。

「ここは……村のようですね」

 ようやく地面に足を着け、落ち着いたところでアルテが言った。

「グレイヴァのいた村、でしょ?」

「……ああ」

 アージュの言葉に気の抜けたような返事をし、グレイヴァはその夢をゆっくりと見回していた。

 そこは、アージュが言ったように、グレイヴァの生まれた村オタウだ。

 見覚えがある。夢で見た、というのではなく、現実の村として見覚えがあった。

 あそこを流れる川も、村の向こうに見える山も、穀物が豊かに実る畑も、点在する小さな家も。

 両親がいなくなって、グレイヴァはこの村を出た。ひと月と少しばかり前のこと。まだそんなに長い時間は経っていない。

 アルテと出会って旅をするようになって、今日までの時間はあっという間だったような気がする。

 でも、ふとこうして振り返ってみると、ほとんど村を出たことのなかったグレイヴァにとっては、ひどく長い時間だ。

 遠くで人の声がする。村人の誰かの声。子どもの声も混じっていた。

「ねぇ、グレイヴァの家ってどのあたり?」

「え? 俺の家は……この道をまっすぐ行って」

 フィノに聞かれるまま答えていたグレイヴァは、途中まで言ってはっとなる。

「俺の家を捜して、どうするんだよ。今見付けなきゃならないのは、夢見石だろ」

「いいじゃない。ついでよ。それに、グレイヴァの家に石がないとは限らないわ」

「それは……そうだけど」

「まっすぐね。じゃ、出発」

「お、おい、フィノ。アージュ、ここでも力は感じてるのか?」

「うん」

 つまり、夢見石はここにあるかも知れない。ということで、フィノを止められなくなってしまった。

 あいつ、俺をからかう材料でも探してるんじゃないのかな。……ま、いっか。

「さっきの海や空の夢でもそうですが、穏やかな夢が多いですね」

「そうかな。単にアージュが、そういう夢ばっかりを選んでるからだろ」

「でも、グレイヴァの夢って心地いいものが多いのよ。時々、居心地の悪い夢ばかり見る人間だっているんだから。夢見石がある夢だけのことはあるわ」

 夢をほめられても、グレイヴァにはいまいちピンとこない。

 夢を自分でどうこうはできないので、ほめられたところで自分の手柄になっているとは思えないからだ。

 ただ、これといって反論する理由はない。悪く言われていないからいいか、ということにしておく。

「ここなの、グレイヴァ」

 フィノが振り返って尋ねる。そこは、確かにグレイヴァの家だった。

「よくわかったな」

「だって、あそこに作業場みたいな小屋があるから、そうかなって思ったのよ」

 家の隣りには、グルドが石を彫る時にこもる作業場がある。そこから、石を彫る音が聞こえていた。

「仕事中のようですね」

「グレイヴァのお父さんは、石工(いしく)だったわよね。だったら、夢見石を持ってるかも。聞いてみましょ。さっきの店のおじさんみたいに、いきなり吹雪を出したりしないでしょうし」

 アージュはそう言うと、半開きになっていた扉をさっさと開けて小屋の中へ入る。

 その後をフィノがついて行き、アルテも行こうとしてグレイヴァが立ち止まったままでいることに気付いた。

「グレイヴァ、どうかしましたか」

「何だか……複雑でさ」

 そう言って笑うグレイヴァの顔が、アルテには妙に淋しそうに見えた。

「夢ってわかってるんだけど、それでいて会うのって、妙な気分なんだ」

「……」

「本当はこれは夢だけど、今の俺にとっては現実に近い状態なんだよな。世界は俺の夢の中だけど、意識は現実みたいな。きっとあの家の中じゃ、母さんが仕立ての仕事か料理をしてると思う」

「グレイヴァ、無理して一緒に来なくてもいいんですよ」

 黙ってグレイヴァの言葉を聞いていたアルテが、静かに言った。

「え?」

「つらいのであれば、拒否してもいいんです。無理にがまんすることで夢に影響が出れば、アージュだって困ることがあるでしょうし。何よりもグレイヴァの心に傷が付くのなら、ぼくは夢見石を探したくはありません」

「な、何言ってんだよ、アルテ。そんな、傷付くとかっておおげさなもんじゃないんだから」

 グレイヴァは慌てて歩き出し、さっさとアルテを抜かす。

「ちょっと感傷的になっちまっただけだよ。傷付くなんて、ガラじゃないんだしさ。ほら、来いよ。ここに親父がいるはずだから」

 グレイヴァはそう言うと、小屋の中へと足を踏み入れる。

 石を彫る音は、いつの間にか止まっていた。そこには確かにグルドが立っていて、最初に入ったアージュと何か話をしている。

「うーん、そういう石は聞いたことがないねぇ」

 父の声を、グレイヴァはひどく懐かしい気持ちで聞いた。まだ一ヶ月と少ししか経っていないのに。

 グルドはたくましい腕を組み、アージュの質問に真面目な表情で答えている。

「虹色の石か。宝石かい?」

「いいえ、宝石っていうのでもないんだけれど。薄い桃色がかってるの」

「桃色水晶なら知っているんだがなぁ。でも、水晶ならやっぱり透明なのが一番だと思うね、俺は」

 あ、また言ってらぁ。

 心の中で、グレイヴァは肩をすくめた。

「俺の女房は、石に例えると水晶みたいな女なんだ。一点の曇りもない、透明な水晶のような」

「あーあ、また始まった」

 まともに聞いていられなくて、グレイヴァは背中を向けた。

「始まったって、何がです?」

「昔っから、よく聞かされたんだ。母さんは水晶みたいだ、ってなこと」


 グレイヴァ、お前の母さんは水晶みたいだろ。透明な水晶と同じくらい、心も姿もきれいで。ここに人の背丈程の水晶があったら、父さんは絶対に母さんの像を彫るぞ。母さんと同じくらい、きれいな像をな。母さん以上には無理だろうけど、同じくらいきれいな像を。


 同じことを、何度聞かされただろう。水晶を手にする(たび)に、グルドはそう言っていたのだ。前に聞いたよ、と言っても、やはり父は繰り返し話して。

 フィノがこちらへやって来た。

「まさかこんな所で、グレイヴァの親ののろけを聞かされるとは思わなかったわ」

「しつこく聞かされたから、暗示みたいになってるんだろうな」

「両親の仲がいいということは、いいことですよ」

 そうは言っても、まさか自分の夢の中でもこうしてのろけるとは、グレイヴァだって思わなかった。

「グルド、どなたかいらっしゃるの?」

 声がして、黒髪のきゃしゃな女性が入ってきた。

「あら、グレイヴァ。戻ってたの。お友達も一緒なのね」

 グレイヴァの記憶にある通りのペールが、そこにいる。懐かしい母の姿が。

「お邪魔してまーす」

 アージュが、人間の友達のような挨拶をする。

「あれが俺の女房なんだ。きれいだろ」

「あなたったら、よその方に何を言ってるの」

 頬を少し赤らめつつ、ペールが笑う。

「アージュ、ここに石がないなら行こうぜ」

 グレイヴァはアージュの腕を掴むと、小屋から出て行く。アルテは二人に軽く会釈をし、フィノもその後を追った。

「出掛けるなら、気を付けるのよ」

 ペールの声が背中に当たる。

「グレイヴァ、ここに来ない方がよかった?」

 小屋の外へ出ると、アージュがそう尋ねた。

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