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少年とねこと魔法使い ~フェアリーストーン~  作者: 碧衣 奈美
3の石 ~夢見石~

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すり抜けるグレイヴァ

「あの人に聞いてみよっと」

 アージュは、とことこと老人に近付く。

「ねぇ、ここに夢見石はある?」

 老人はじろりとアージュを見る。

「うちでは駄目だ。よそをあたれ」

 こういうこと、言われたっけな。

 同じセリフを言うあたり、いやになるくらい現実に近い夢だ。

「ダメって、つまり……ここにはないってこと?」

「しつこい子だな。うちでは駄目だと言ってるだろう」

 老人の言葉の後に、突然店の中で吹雪がグレイヴァ達を襲った。冷たい雪と風が、一行に吹き付けてくる。

「な、なんだぁ?」

「夢の中なのに、寒ーい」

「と、とにかく店を出ましょう。アージュ、こちらへ」

 あまりに急な環境の変化に戸惑いつつ、全員が急いで店の外へ出る。

 中は雪山の嵐のようだったのに、外はさっきと何も変わりはなかった。いい天気だ。

「グレイヴァの、あの人に対するイメージね」

 風で少し乱れた髪を手で整えながら、アージュが言った。

「イメージって、あの親父は現実でもあんな感じだったぜ」

「さっきの吹雪よ。グレイヴァはあの人に対して『冷たい』ってイメージを持ってるの。それが『吹雪』という形で現れてたのよ」

「本当に冷たい待遇だったんですね」

 少し大袈裟な気もするが、優しい対応でなかったのは事実だ。

「そんなの、どうでもいいよ。アージュ、あの店に夢見石はあったのか?」

「波動は感じるけど、特定できなかったわ。感じると言えば、あの店だけじゃなく、この街全体からも感じるの」

「おいおい……。ここがどれだけの広さか知らないけど、街中探すってのか」

「ううん。別の夢へ行くわ。特定できないなら、どこを歩いても同じだもん」

「……まかせる。好きにしてくれ」

 本当に見付かるんだろうな、夢見石。

 グレイヴァは、だんだんと不安になってきた。

☆☆☆

 街を出ると、海になった。

「俺、海は行ったことがないぞ」

 自分の生まれた村と、隣り街のネイバー。村の近くにある山や川、草原に湖。

 そういう所が現れるのならわかるが、グレイヴァは海というものを見たことがない。

 幼い頃、グルドが街で海の絵が描かれた本を二、三冊買って来てくれたことがあるくらいだ。

「でも、どういうものかは知ってるでしょ。それに、夢は知識や記憶だけで見るものじゃないもの。さっきも言ったでしょ。行ったことのない場所を夢に見ることがあるってね。ここがそうよ」

「へぇ、まともな海じゃない。知らなくても、夢なら見られるのね」

 白い砂浜が広がり、その向こうに青い大きな水たまり。海だ。

 視界におさまりきらない広さ。音までちゃんと聞こえてくる。海からの穏やかな風が、顔をなでた。

 水平線の上に、海とは違う青。晴れた空があり、白い雲が浮かび、かもめらしい鳥が飛んでいる。

(おだ)やかな風景ですね」

「心が穏やかな時に見た夢よ。同じ海でも、心が荒れてたりすると、海も荒れるの」

「何事もなく、のほほんとしてたのね」

「そんな頻繁に、ごたごたがあってたまるかっての」

 言いながら、グレイヴァは周りを見回した。見た覚えがないのに、知っている気がする。

 夢なのだから何があっても変じゃない、とは思うのだが、不思議な気分だ。

「アージュ、ここでも石の力は感じてるのか?」

「うん。相変わらず、的は絞れないけど」

 予想していた答えが返ってくる。

「それじゃ、どこを探しますか? ここに立っていても、仕方がないですし」

「海の中へ入ってみましょ。砂浜を歩くのって、ちょっと大変そうだし」

「おい、水の中だぞ。砂浜を歩くより大変じゃないか」

「平気よぉ。本当の水じゃないんだから」

「夢の水なら大丈夫よね。……ちょっと待って。さっき、店の中の吹雪、ちゃんと冷たかったわよ」

 冷たい風に吹かれて「寒い」と感じた。この海も、冷たいと感じるかも知れない。

「心配しないで。ちゃんと息はできるから。窒息しそうになったら言って。呼吸ができるようにしてあげるわ」

「それって、息ができないかもってことか?」

「さ、入ってみましょ」

 グレイヴァの質問には答えず、アージュはさっさと海へ向かって走り出す。

「おい、アルテ。俺、ちゃんと目を覚ませる時が来るのか?」

 先を走るアージュを追いながら、グレイヴァがため息混じりに聞く。

 もっとも、ちゃんとした答えがもらえるとは思っていない。

「覚めない夢はありませんよ、グレイヴァ」

「アージュみたく、閉じ込められたりはするかもね」

 横からフィノが茶々を入れる。

「フィノ……」

「自分で自分の夢に閉じ込められるなんて、間抜けすぎるぞ」

「グレイヴァなら、ありえそうよ。……ねぇ、本当に水の中に入るの?」

「何だよ、水が怖いのか?」

 この時とばかりに、グレイヴァがからかう。

「バカなこと、言わないでよね。ねこは水が好きじゃないだけ」

「普通のねこじゃないくせに、かわいこぶるなよなー。アルテに甘えたいだけなんだろ」

「なぁんですって」

 フィノがグレイヴァに飛び掛かった。ねこキックの一つでもお見舞いするつもりだったのだが、フィノの身体はグレイヴァの身体をすり抜ける。

「……あら?」

「今のグレイヴァは、本体じゃないからですよ。ぼく達は現実世界の存在で、グレイヴァは夢の中の登場人物だから、通り抜けてしまったんでしょう」

「ここじゃ、俺が一番ってことか。へっへっへっ」

 グレイヴァの夢なのだから、環境がどうであれ、グレイヴァが主役の世界だ。

「つまんないっ。いいわよ、夢の外でおとしまえつけてやるんだから」

「へん、受けて立ってやらあ。……あれ、フィノの身体は突き抜けたけど、アージュの手はさっきちゃんと掴んだぞ」

 最初にアージュを見付けた時、グレイヴァは彼女の肩を揺すって起こした。

 夢見石を探し始めた時、彼女の言葉に納得できなくて、思わず腕を掴んだ。

 その時、現実と同じように彼女に触れられたし、掴むことだってできた。

「夢の妖精とぼく達とでは、存在の仕方が違うんですよ、きっと。その話は、後にしましょう。アージュに置いて行かれます」

 アルテに言われ、急いで海の中へ入る。

 アージュが言った通り、呼吸が苦しくなることもなく、水の中を進んで行けた。浜辺から少し海に入っただけでかなりの深さがあるのは、夢(ゆえ)にだろう。

 昔買ってもらった絵本の海も、こんな感じだっけ。一面が真っ青で、あちこちに魚が泳いでて。

 アージュの姿が見えて、グレイヴァ達はそちらへと泳いだ。フィノは泳ぐのがいやなのか、アルテの肩にしっかりしがみついている。

「どうだ、わかりそうか?」

「少し力が弱まったような気がしたんだけど、またさっきまでと同じ状態になったわ」

「弱まった? ということは、一時的に石から少し離れた訳ですか」

「そうなるのかしらね。だけど、今はまた同じよ」

「今が同じ気配だとしても、一度は離れたらしい。ってことなら、海の中は違うんじゃないのか。だったら、他を探そうぜ」

「賛成!」

 珍しく、フィノがグレイヴァの意見に同調した。夢の中とは言え、やはり水の中はフィノにとって気持ちのいいものではないらしい。

「そうね。せっかくの静かな海だし、どうせなら、もう少し泳いでいたかったんだけど。そうも言ってられないわね」

 アージュがそんなことを言っているそばから、海の青が薄れてゆく。

 気付けば、周りにあったはずの海水はなくなり、足下には白いふわふわしたものが現れていた。

「……今度は、どういう夢に来たんだ?」

「空の上よ」

「そっ、そらぁ?」

「グレイヴァだって、空を飛ぶ夢を見てるでしょ。そのうちの一つよ」

 確かに、空を飛ぶ夢は何度か見ている……気がする。うまく飛べる日もあれば、飛べない日もあった。

 アージュが言うには、そういった飛んでいる夢のどれかなのだ。

「待てよ。俺は夢を見てるだけだし、アージュは羽があるからいいだろうけど、アルテは生身の人間だぞ。こんな所へ来て大丈夫なのか?」

「あ、そうだったわね。ま、何とかなるわよ」

 アージュは軽く言う。

「何とかって……」

「大丈夫よぉ。夢の中で死んだりしないから」

「そんなことになってたまるかっ」

 人が死ぬ夢なんて、冗談じゃない。ここは、グレイヴァの夢でありながらアルテの現実でもあるのだ。

「グレイヴァ、あんたってほーんとにアルテの腕を信用してないわねぇ」

 やれやれ、といった表情でフィノはグレイヴァを見た。

「アルテの腕って……」

「今更だけど、あんた、アルテが何かわかってるの? 魔法使いなのよ。そう簡単に落ちるはずないじゃない」

「え、アルテって空を飛べるのか?」

 そんなことは初耳だ。グレイヴァが聞かなかったから、アルテも言わなかっただけかも知れないが。

 そもそもグレイヴァはアルテが魔法でどんなことができるのか、ということをちゃんと聞いたことがなかった。

「飛ぶと言うよりは、浮くという感じが近いでしょうね。鳥のように自由に飛び回れる、ということではないんですよ。高い所から落下しても、地面に叩き付けられないように浮く、という程度で」

「わかった? それに、心配なんかしなくっても、あたしがそばにいるじゃない」

「だから?」

「あんた、あたしが何かも忘れたのっ」

 フィノが、かみ付きそうな顔で怒鳴る。大きな声で言われてから、グレイヴァもフィノの正体を思い出した。

「そう言えば、フィノって空を飛べるんだっけ。まだ二度しか見てないから、すっかり忘れてた」

 フィノは普段、どこにでもいるような黒ねこのフリをしているが、実は身体の大きさを自由に変えられる、翼のあるねこだ。

 もしアルテが魔法を使えずに空から落ちるようなことがあっても、その時はフィノがちゃんと彼を助けに飛ぶだろう。

「じゃ、ここにいても、どうってことはないのか。けどなぁ……見渡す限り、雲しかないぜ。こんな所にあるとも思えないけど」

「でも、ないという確証もありませんからね。ぼくにもその石の存在がわかれば、一緒に探すことができるんですけれど」

 グレイヴァ達は、アージュが行く所について行くしかできないのだ。ちょっともどかしかった。

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