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少年とねこと魔法使い ~フェアリーストーン~  作者: 碧衣 奈美
3の石 ~夢見石~

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夢見石を求めて

 アージュ達の世界にあった夢見石(ゆめみいし)は、長い時間をかけてその石を持つ人達から集めたものだ。

 夢の妖精がたくさんの人の夢の中へ入り、石を拾い集める。でも、石を持つ人はとても少ない。持っていても、小さなもの。

 人間はもちろん、他の妖精にとっても、何の価値もない石。ちょっときれいな石という程度だが、夢の妖精にとっては何よりも貴重。とても特殊な石なのだ。

「じゃあ、グレイヴァはその数少ないうちの一人だってことなの?」

「そのようですね」

「あんたもよく驚かしてくれるわね、全く」

「そんなこと、言われたって」

 だいたいが「夢見石」という物の存在も、今回のことで初めて聞いたのだ。それを自分が持っていたなんて、もちろんグレイヴァは知らない。

 夢の中にある、となれば、なおさらだ。

「アージュがまだここから出られないというのは、その石を探すためですか?」

「ええ。私がここから出ても、帰る世界がないのよ。完全になくなった訳ではないけれど、今の夢の世界は私達が活動するには難しい環境になっているはず。だけど、夢見石がたとえ一つでもあれば、ずいぶん違うわ」

 たとえ小さくても、たとえ弱い力でも、たった一つの夢見石が存在すれば、力が衰えた夢の妖精の助けになる。

 壊された世界には、夢見石がまだ少しは残っているだろうが、力は間違いなく落ちているだろう。

 だから、新しい石がほしい。

「まぁ、探すのはいいけどさ、どこにあるのか、わかってんのか?」

「ううん、わかんない」

「……」

 あまりにもあっさりと言われ、誰も二の句が継げない。

 そういうことをあっけらかんと言うのを聞いていると、フィノと会話してるような気になってきたグレイヴァだった。フィノがアージュの立場でも、明るい表情で(いな)と告げるだろう。

 口調こそアージュの方が柔らかいが、きっと似たような性格に違いない。

「だけど、力は感じるわ。この夢の中を移動して、力が強く感じる方へ向かって行けばいいのよ」

「いいのよって、簡単に言うなぁ。……ま、全然わからないってよりいっか」

「ぼく達には、その力の波動は感じられません。アージュ、夢の中ならあなたの領域ですし、導いてもらえますか」

「え、アルテも行くつもりなのか?」

「もちろんですよ。フレーラ達にアージュを夢の出口まで連れて来るように、と言われていますからね。約束は果たさないと」

「……俺はその間、ずっと眠ったままってことかよ」

 これだけ元気なら、アージュだけでもグレイヴァの夢から出られるだろう。グレイヴァが目を覚ましても、今の彼女ならきっと大丈夫だ。

 でも、アルテがここにいる以上、眠りの魔法は解かれないし、グレイヴァは起きることができない。

「夢見ついでよ。いいじゃない、ゆっくり休めて」

「ちぇっ。他人事(ひとごと)だと思って」

「それじゃ、行きましょー」

 以前、倒れ込んだ少女と同一とは思えない程、アージュの元気な声がグレイヴァの耳に入って来た。

☆☆☆

 アージュを先頭にして、アルテ達はグレイヴァの夢の中を歩いた。

「ねぇ、もしかしてここ、山になってない?」

 それまで平坦な森の中を歩いていた一行だが、いつの間にか坂道を上っていた。

「そうよ。グレイヴァが山の中を歩いて……友達と野うさぎを捕まえる競争をしている夢ね。結果はどうだった?」

「い? 急にそんなこと聞かれても、こんな夢を見たこと自体、忘れてるよ」

 急に矛先を向けられても、夢なんてものは見てもすぐに忘れることの方が多い。

「夢でじゃなく、現実でもやったんでしょ? この夢は現実を元にして見ているものよ。夢にはね、うーんと大まかに分けると、行ったことのない場所を見ているものと、現実にあったことを夢の中で繰り返すものがあるのよ。で、これは現実にあったことが元になってるわ」

「さすがですね。夢に足を踏み入れただけで、そういうことがわかるものですか」

「ま、ね。夢の中のことならまかせて」

 ほめられ、素直に喜んでいるアージュ。

「だけど、いつの間に他の夢になってたの? さっきまで、アージュが現れた夢だったんでしょ?」

「石の力は感じるけど、どこかわからないし。今までグレイヴァが見た夢を、適当につなげてみたの。この夢になければ、他の夢につなげてそこへ入るわ」

「すっごぉい。で、グレイヴァ、誰が勝ったの?」

 フィノがまた話を元に戻す。

「そんなの、覚えてないっ」

「ははぁん、負けたわね」

 知ったような口振りで、フィノが鼻で笑う。

「何でそういう結果を出すんだよ」

「だって、勝ったのなら自慢そうに言うでしょ、あんたなら」

「ったく、しつこい奴だな。だから、覚えてないって言ってるだろ」

「どーだか」

 フレーラの忠告(?)も無駄だったようですね。

 グレイヴァとフィノの会話を聞いて、アルテはこそっと思った。

「アージュ、この夢になければと言いましたけれど、だいたいどの夢にある、というのは決まっているんですか?」

「んー、どうかしら」

 はなはだ心(もと)ない返事だ。

「実は私、自分で夢見石を見付けたことがないのよね。すでに私達の世界にある石は何度も見てるから、どういう物かはわかってるんだけど。夢のどの辺りに存在してるかっていうのは、よく知らないの」

「それ、すっげーいい加減だぞ」

「だから、力が強く感じる方へ行けばいいって言ったじゃない」

「けど、この夢になかったらって、さっき言っただろ。要するに、どこにあるかわかってないってことじゃないのか? 本当は石の力がはっきりしなくて、いきあたりばったりで歩き回ってるんじゃないだろうな」

「……この山にはなさそうねー」

「こら、ごまかすなっ」

 グレイヴァは、先を歩くアージュを掴まえる。

「あのなぁ、人の夢ン中、探検して遊んでるんじゃないぞ。力の感じる方へ行けばいいからって言うから、こうしてついて来てるのに」

「あら、力は感じてるわよ。ただ、その出所がわからないから、こうして歩いてるんじゃないの。それに、私はちゃんと言ったわよ。石のある所はわかんないって」

「……」

 胸を張って言われ、グレイヴァのアージュを掴まえた手の力が抜ける。

「そうよねー。笑顔でわかんないって言われたもん。アージュはウソを言ってるのでも、遊んでる訳でもないのよ。グレイヴァの負けね」

「勝ち負けはともかく。アージュ、力の出所がわからないというのは、どういうことですか? ぼくは夢見石のことはわかりません。何か障害物があるとすぐにその波動が分散してしまうとか、夢のあちこちに点在してるような物……ですか?」

「数は、その人にもよるわ。障害物で弱くなるような力でもないし。私も正直言って、本当にわからないの。すぐ近くにあるような感じなんだけど、絞れない」

「すぐ近く? じゃ、この山のどこかじゃないのか……って、あれ?」

 それまで、グレイヴァ達は山を登っていたはず。(ゆる)やかな坂道を歩いて。

 周りは森と風景的にあまり大きな違いはないのだが、とにかく山だった。

 それなのに、グレイヴァ達は今、街の中にいるのだ。

「あらら、いつの間に変わってたのかしら。あたしも気付かなかった」

「もう別の夢へ入ったのか。けど、さっきの夢、もう探さなくていいのか? 俺達、ただ歩いてただけだぜ」

「でも、この夢の中でも力は感じてるわよ」

 アージュにそう言われると、力を感じられないグレイヴァにはそれ以上の反論ができない。

「見覚えのある場所ですね。もしかして、ネイバーの街ですか?」

「俺に聞かれても、返事に困るんだけど。よく似てるよな」

 通りの向こうには、グレイヴァとアルテが初めて会った店が見えた。微妙に違う部分も所々あるのだが、ここはネイバーの街に似ている。

「街へ行く夢は、時々見てたのを覚えてるけど」

「ねぇ。あの店って、確か石像や石そのものを扱ってた店よね。案外、あそこにあったりするかもよ。単純だもん、グレイヴァって」

「一言多いんだよ、お前は」

「あそこの店、石があるの? じゃ、行ってみましょ」

 石があると聞いて、アージュは先を急ぐ。

「あの店の親父、客とそうでない奴との待遇が全然違うんだよな」

 言いながら、グレイヴァは新しく店主になったと話していたロンカード老人を思い出す。

「そうなんですか? ぼくが店に入った時は、親切でしたけれど」

「アルテは客と思われたからだよ。あの時探してたのは、えーと、鼓動石(こどうせき)だったっけ。それを置いてるかって聞いてたから、あればあの親父は売りつけられた訳だろ。買うことを目的で入って行ったから、親父は愛想がよかったんだ」

「グレイヴァの時は違ったのですか?」

「客じゃないってわかったら、ころっと変わったぜ」

 父のグルドが亡くなってネイバーの街へ出たグレイヴァは、石工(いしく)の修業をしようとこの店へ来た。

 石細工の製造と販売をしていて、グルドがここに注文品を納品していたからだ。

 石を彫る修業もできるし、将来店先に自分の作品を出せるようになれば、売れたかどうかもすぐにわかる。自分の作品の売れ行きを、はっきり見ることができるのだ。

 父との関わりもあるし、言ってみれば「知らぬ仲」ではない。そんなに大きな店ではなかったが、それらの点で理想的だった。

 しかし、グルドが亡くなるのとほぼ同時期に、店主は替わっていたのだ。

 店へ入って来たグレイヴァが客ではなく、雇ってほしいと言った途端、店主の口調がころっと変わった。

 手のひらを返す、というのは、まさにああいう状態を言うのだろう。

 身内以外を従業員にする気はないようなことを言われ、強い口調で断られた。

「秘密にする程、すっげー技術があるって訳でもなかったんだけどな。俺も雇ってもらうためにちゃんとしなきゃって思って、慣れない敬語まで使ったのにさ。まぁ、今になって思えば、あんな所にいなくてよかったのかもな。今の方が、色々と変わった体験できるし。いささか特殊すぎる事情だけど、石にもそれなりに関わってるから」

「ぼくにとっても、グレイヴァが弟子入りを断られたのはよかったんでしょうね。きっとグレイヴァがいなければ、まだ鼓動石を探している段階、ということもありえますし」

「別に俺が見付けたって訳じゃないぞ」

「でも、グレイヴァのおかげで、ことがスムーズに運んだ部分は多いですよ」

「ほーんと。偶然って怖いわよねー」

 フィノの一言で、その話は締められた。

 アージュが店の中へ入る。グレイヴァ達もその後に続いた。中の様子も、かなり現実に近い。

「夢とは言え、割りと忠実に再現されてるわね。あの親父、あたしも覚えてる」

 現実にほぼ忠実に、店の奥にはさっきグレイヴァが話していた店主であるロンカード老人が座っていた。

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