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少年とねこと魔法使い ~フェアリーストーン~  作者: 碧衣 奈美
3の石 ~夢見石~

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戻らない妖精

 長い金の髪を持つ妖精が飛んで来て、アルテに確認した。人間なら、二十代半ばくらいの女性に見える。

「残念だけど、()じゃないわよ。この子はただの人間」

 フィノが否定・訂正する。

「何だよ、偉そうに。そういうフィノだって、魔法使いじゃないだろ」

「あら、あたしだって必要に応じて、それなりに魔法は使えるわよ」

「どうしてそういう些細(ささい)なことで、口論するんですか。すみません。妖精を助けるように頼まれたのは、確かにぼく達です」

 グレイヴァの隣りにいたフィノを自分の方へ抱き寄せ、つまらない口ゲンカを謝りながらアルテは妖精の言葉を肯定した。

「ぼく達はまだ、あなた達がどういう状況で困っているのかわかりません。詳細を話してもらえますか」

 問われた金の髪の妖精は、小さくうなずいた。どうやらこの妖精達の中では、彼女が(おさ)にあたる立場であるらしい。

 アルテ達にしても、誰かが代表者として出てくれる方が話もしやすいというもの。

 彼女は、フレーラと名乗った。

「私達に起きた問題は、二つあるの」

 フレーラの言葉に、今までと少し違うな、とグレイヴァは思った。

「まず、仲間がひとり、行方不明になっています。ずいぶん時間が経っているので、危険な状態にあるかも知れません。もう一つは……私達がすむ世界の大部分が壊れさてしまった、ということ」

 フレーラやここに集まった妖精達は、全て夢の妖精。みんな、同じ世界にすむ仲間で、人間や動物に夢を見せるのが仕事だ。

 フレーラ達がすむ世界は、人間の言葉で説明するなら、夢と現実の狭間(はざま)にある。

 そこは夢の妖精だけが存在する世界で、現実の世界とは比べものにならない程に広い。

 無限に、()限に。夢がある限り、広がる場所だ。

 そこから夢の世界へ入り、人間達に夢を見せる。それが終われば、妖精の世界へ帰るのだ。

 その妖精の世界に、黒い魔物が現れた。

 どうやって入り込んだのか、わからない。気付いた時には、そこに存在していたのだ。

 それは夢の産物などではなく、現実の魔物。

 過去に魔物が現れたことなど、なかった。あるはずがないのだ。

 ここは夢の妖精の世界で、夢の妖精以外に入れる存在などないのだから。

 悪夢で生まれてしまった魔物ならともかく、フレーラ達は現実の魔物を相手にするような力など、持っていなかった。

 抵抗も空しく、魔物は夢の妖精の世界を吹き飛ばしてしまう。

 世界が吹き飛んだ時、妖精達はみんな現実の世界へ飛ばされた。つまり、グレイヴァ達のいる、この現実世界だ。

 幸い、命を失った妖精はなかった。ひとり、ふたりと仲間の気配を感じて集まってゆく。

 やがて、一つの場所で妖精達は、再び顔を合わすことができた。

 だが、全員ではない。

「アージュという子が、戻って来ないのです」

「つまり……こちらの世界で彼女に何かあったのでは、と?」

「私達は、夢の世界ではどんな力でも使えるわ。だけど、この現実の世界では、私達の力はとても弱いものになってしまう。こちらの世界で彼女が魔物などに遭遇していたら、無事ではいられないかも知れません。どこかに閉じ込められていたとしても、恐らく彼女の力だけで出ることは無理でしょう」

 世界が吹き飛ばされて妖精が再び集まるまでの時間は、決して短いものではなかった。

 いくら力が弱くなってしまうとは言え、移動することは可能だ。どんなに遠くまで飛ばされたとしても、そこは妖精の力で戻れる。

 それなのに。全員が戻っても、まだ姿を見せない仲間の妖精。

 現れないということは……よくない状況に(おちい)っている、としか考えられない。

「今回は、行方不明の妖精捜しか。けど、俺達で捜せるのかな。現実の世界にいるって言っても、相手は妖精だぜ。仲間が見付けられないのに、人間の俺達にわかるのか?」

「妖精だって完璧じゃないもの、見落としてる部分はあるかもよ。逆に、人間の目の方が見付けやすいってこともありえるし」

「そんなものかな」

「とにかく、やってみるしかないでしょ」

「手掛かりだけでも手に入れば、何とかなるでしょう。名前はアージュ、でしたね。どのような姿の妖精ですか?」

「年格好は、人間で言えばあなたくらいかしら。女の子よ」

 フレーラは、グレイヴァを指差しながら言った。

「夢の中ならどうとでも姿は変えられるけれど、こちらの世界ではそれぞれが本来持つ姿になっているから。髪はプラチナブロンドで、長さは肩のあたり。瞳は青よ」

「背中には、あなた達のように羽があるんですね。他に何かありませんか? これという特徴のようなものは」

「そうね……あ、そうだわ。アージュはペンダントをしているの。髪と同じ色のペンダントよ」

「……」

 銀の髪に、青い瞳。銀色のペンダントを持つ少女。

 フレーラの説明を聞いて、グレイヴァはどこかでそういう姿の少女を見たような気がした。それも、ごくごく最近。

 どこでだっただろう。妖精を見たのなら、簡単に忘れるはずはないと思うのだが。

「グレイヴァ、どうかしましたか?」

 急に考え込むグレイヴァに気付き、アルテが声をかける。

「え……いや……」

「何でもないって顔じゃないわよ」

 グレイヴァが口にしようとした言葉を、フィノが先に言ってしまう。

「その……どこかで見たような気がする」

「あら、オクテそうにしてても、割と女の子のチェックはしてるのね」

「そ、そういうのじゃないっ」

 グレイヴァが顔を赤くして怒鳴る。

「フィノ、からかうのはよしなさい。でも、グレイヴァ。見たのなら、どこで見たのか思い出してください。捜す糸口になるかも知れませんから」

「そんなこと言われたって、気がするだけだし……」

 言いながら、グレイヴァは視線を泳がせる。

 その視線の先に、つるの絡まる木があった。

 その木を見て、グレイヴァの記憶の泡が弾ける。

「あ……夢だ」

「え?」

「俺の夢にいたんだ。そうだよなー。現実に妖精を見てたら、忘れるはずないんだから。予知夢ってやつかな」

 思い出せてすっきりしたような、夢とわかってがっかりしたような。

「私が話したような姿の女の子だったの?」

「ああ。しずくの形をしたペンダントをつけてたし、銀の髪でアルテよりも濃い青の瞳で。背中に羽があって、妖精だったんだって驚いたの、覚えてるしさ」

「アージュだわ」

 フレーラの言葉に、グレイヴァはきょとんとなる。

「けど、夢の中だぞ?」

「何言ってるの。彼女は夢の妖精なのよ。夢に現れたって、なーんにもおかしくないじゃない」

「それは……そうだろうけど。現実の世界に飛ばされたんだろ?」

「私達がここへ集まったのは、あなた達のことを聞いたから、ということもあるけれど、アージュのわずかな気配を感じたからなの」

 フレーラ達は自分以外の夢の妖精の気配を感じ取り、やがて自然に一つの場所へみんなが集まった。

 そうしてアージュがいないことを知り、彼女の気配を求めてこの周辺へ来たのだ。

「彼女はやっぱりこの近くにいて、ちょうどあなた達も来て……恐らく、一番近くだったあなたの夢の中へ入り込んだのよ」

「え、じゃ……あれって本物?」

 彼女がグレイヴァに倒れかかってきた時、空気みたいに軽かった。

 あの少女が夢であり、妖精だというのなら納得もするが、今思えばやけにリアリティがあった……ような気もする。

「夢だけれど本物、というのも妙な感じですね。グレイヴァの夢に入り込んだのが彼女だとして、それでは本当の彼女はどこに存在していることになるんですか?」

「それは、グレイヴァの見た夢の内容によります。アージュはあなたの夢の中で、どういう状態だったの?」

「えーと……」

 あまりいい状態ではなかっただけに、グレイヴァは少しちゅうちょする。だが、黙っていても話が進まない。

 覚えている限り、夢の説明をする。

「つるに絡まれていた、ですか。閉じ込められた状態に近いですね。でも、グレイヴァがそれを切ったのなら、解放されているのでは」

「それなら、アージュの気配がもっと強くなるわ。まだ現実に解放されていなくても、私達を呼ぶ力が戻るはずだもの」

「グレイヴァ、本当に全部のつるを切ったの?」

「ちゃんと切ったよ。全部が切れた途端、支えるものがなくなって俺の方へ倒れ込んできたんだから」

「その後は?」

「え?」

 一瞬、フレーラの質問の意味がわからなかった。

「あなたがアージュを助けた後、彼女は自分の名前を言った?」

「いや、大丈夫かって聞いて……何か話す前に目が覚めた」

「ああ……何てこと……」

 フレーラが、がっくりと肩を落とした。

「な、何だよ。俺、何か悪いことしたのか?」

「アージュは今、あなたの夢の中に閉じ込められてるの」

 フレーラの言葉に、グレイヴァはもちろん、アルテやフィノも目を丸くする。

「アージュはあなたが信じる信じないに関わらず、本当の自分の身体を解放してほしい、と頼むつもりだったはずよ。でも、それがなされる前に、グレイヴァは夢から覚めてしまった。つまり、夢が途切れた。今の彼女に、途切れた夢から出るだけの力は残っていないの」

 アージュは、たんぽぽの妖精ウィンデがアルテにしたように夢で助けを求め、本当の自分を解放してもらおうとした。でも、全てを話す前に夢が終わった。

 アージュは、グレイヴァの夢の中に取り残されてしまったのだ。

「それでは、今のアージュは心と体が別々になっている、ということですか?」

「彼の話を聞く限り、その可能性は高いわね」

「夢の中ったって、どうやって助けりゃいいんだよ」

「グレイヴァが眠って、また夢を見ればいいんじゃない? で、話が最後までいけば、彼女も夢から出られるでしょうし」

「そんなにうまく、同じ夢が見られるかよ」

「あんた、バカねぇ。見てみなさい。ここには、夢の妖精がこんなに大勢いるのよ。それに何て言ったって、腕のいい魔法使いがいるんだから」

 アルテの魔法で眠り、夢の妖精が夢を送る。

 そうすれば、さっき見た夢と同じ状況にするのはそう難しいことではない。

「その前に、彼女の身体を見付けましょう。心が戻っても、身体がなければ意味がないわ。先に身体を捜さないと」

「夢と同じ状況なら、この周辺でつるに絡まれた状態でいるはずですね」

「ここ、森の中だぜ。つるって……」

「文句言ってる間に、捜しなさいっ」

 フィノがハッパをかけ、その声で周りにいた妖精達が散らばった。

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