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おもちゃばこ  作者:
18/23

冬虫夏草。

「お兄ちゃんですか? 今ケーキ買いに出てったばっかりですよ。ほら、彼女が来るのに何もないなんて恥ずかしいんですよ、あの人。あっ、立ち話もなんですから、上がって下さい」

 少し露出度の高い妹だった。ショートのデニムにキャミソールだけの格好。自分とは違い、派手目で体を主張させた服装。服装だけで見れば、彼女の苦手なタイプだった。

 幸い妹の服装と口調は一致していない。ところどころくだけた態度なのはありがたかった。彼女もすぐに打ち解けることができた。

「それで、先輩。お兄ちゃんとはどこまで行ったんですか?」

「えっ、いや、その、まだ何て言うか……」

「ええーっ、あのぼんくらこんな可愛い彼女にまだキス止まりとか!?」

「そのキスもまだ……みたいな」

「はあ、手くらいは繋ぎました?」

「さ、最近やっと」

「先輩もお兄ちゃんも昭和の人みたいですね」

 ぐさりと妹の言葉が胸に突き刺さり、メガネの奥が曇った。別に彼と仲を深めることに抵抗があるわけではないのだ。そういう欲求は人並みにある。しかし、どうしても気恥ずかしさが抜けない。彼も彼で、手を繋いだだけで恥ずかしそうにしていた。

 自分たちはきっと時間を必要とするカップルなのだろうと彼女は思う。しかし、それでも、手だけというのは如何(いかん)しがたいものがあるのも事実。その為に彼女は、急に今日家に行かせてほしいとせがんだのだ。

「もー、さっさとエッチしちゃえばいいじゃないですか。お兄ちゃん、絶対コロっと行きますから! っていうか押し倒しちゃえばいいんですよ。そうすれば猿みたいに求めてきますって。覚えたての男なんて、みんなそうですから」

「そ、そうかなあ」

 年下なのに彼の妹は進んでいるんだなと彼女は思う。もしかしたら自分は遅れている方なのだろうかとも思う。父も母も体は大切にしなさないと言っていたけれど、それはその時代の考え方であって、今の考え方とは違うだろうかと。

「あ、でもお兄ちゃん。あんまり体力ないから、次の日まで後引くような求め方はダメですよ?」

「だ、大丈夫。今日は、恥ずかしいのを慣れたいと思ってるだけだから」

「へえ、じゃあキスくらいはするんだ」

「まだそこまで急接近するつもりはないのよ。一緒にいるのが普通になるくらいになればいいなって」

「そんなに遅いとあたしが困っちゃいますよ。身がもたないです」

 傍から見ていると、やっぱりやきもきさせてしまうのだろうと思った。思ったが、それは違った。

「お兄ちゃん、毎日求めてくるんですよ。彼女がガード固いからって。毎晩毎晩求めてきてね。デートの予行練習だっていって、いろいろ連れまわされて、キスもして。お兄ちゃん、あたしの方が気が楽だっていうんです。体の相性も抜群だし、趣味とか嫌いなものも知ってるし、好きな食べ物も作れるから、変に気取らなくていいから楽だって」

 彼女は紅茶を口に運ぼうとして絶句した。

 変わらない表情のまま、妹はヤカンに火を掛ける。

「でも、それって破滅的だと思いませんか? 血が繋がってるってだけで、結婚はおろか、子どもを産むことだってできない。お兄ちゃんが経済的に自立して、あたしと暮らせるようになるまで、あと何年待てばいいだって話しですよ。それまでに何人の子供を堕胎すればいいんでしょうね? お兄ちゃん、ゴム嫌がるんですよね。お前の体を楽しみたいとかいって、あはは。まあ、そんなのイヤですから、さっさと先輩とお兄ちゃんには行けるとこまで行ってほしいんですよ。そういう話しをしたら、お兄ちゃんも分かったって……言ったはいいんですけど、この体たらくじゃあ、困ります」

 彼女は俯いたまま答えない。答えられない。混乱して、何がなんだか分からなかった。

「あたしもね、お兄ちゃんのこと嫌いじゃないですよ。あたしの名前を何度も呼びながらイク時の顔とか最高に可愛いし、いつも優しいし、あたしも何だかんだで気が楽だし。それでも遺伝のこととか、両親に子供を見せられないっていうのは、やっぱり問題じゃないですか? 子供が将来、戸籍とか知ってショック受けるのも何だか残酷だと思うし」

 遠い国の言葉のようにその意味が分からなかった。ただ自分が手を繋ぐだの、キスだの悩んでいたことを酷く滑稽だと笑われているということは確かだった。

 彼女は無言で席を立つと、紅茶のカップを妹に向けて振った。カップを床に叩きつける。

 それでも妹は変わらなかった。変わらず、ヤカンの火を消して、笑った。

「先輩、おかわり入ります?」


 帰ってきた兄ががっくりと肩を落としているのを彼女は慰めていた。

「まあまあ。何か急用ができたとか行ってたよ。どうしたのかな。え? 変なところ? うーん、特になかったけど……ああ、お兄ちゃんと一緒にいるとまだ恥ずかしいからどうとかいってたかな。もしかして、恥ずかしくなって途中で帰っちゃったとか? ……へー、そういうタイプなんだ。ならしょうがないかもね。そんなにショック? お兄ちゃんにはあたしがいるでしょ? ……もう、子供扱いして! そんなんだから、彼女と手繋ぐのにも躊躇しちゃうんだよー! え、何で知ってるかって? ひみつー!」

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