本当、変な女
ようやく更新しました…。
遅れてすみません。
痴話喧嘩を繰り広げつつ、涼護と汐那を乗せた自転車は、住宅街を走っていた。
「この辺りか?」
「うん」
話しているうちに、汐那の家付近まで来たらしい。
涼護は、自転車のスピードを少し落とす。
「あの飛んだおっさんがどうなったかは……まあ、明日になれば何かしら、情報が回ってくるだろ」
「それは、あの人が回してくれるってこと?」
この場合のあの人とは、おそらく詩歩のことだろう。
こく、と汐那の言葉に頷く。
「ああ。どうせ明日……つか、もう今日か。学園で会うだろうし、話すわ」
「うん、そうしてくれるとありがたいよ」
と、唐突に汐那が涼護の背中を叩いた。
別段痛くもないが、どうかしたのかと、後ろを見る。
「どうした?」
「そろそろ家だから、止まって」
言われてブレーキをかける。
丁度、ある家の前で止まった。
「もうちょい先か?」
「ううん、ここ」
そう言って汐那が指差したのは、自転車が丁度止まったところにある家だった。
汐那は、止まった自転車から降りる。
涼護も、自転車を停めて、一旦降りた。
「じゃあ、ここで」
「おう」
玄関の戸を開けて、汐那は家の敷地に入った。
涼護は、それを眺めている。
「まあ、流石にここまで来れば大丈夫だろ」
「ここまで来て安全じゃなかったら、もう私留置場か刑務所に入るしかないと思う」
確かに。
涼護がその案にくく、と笑っていると、汐那が手招きした。
首を傾げながらも、近づく。
「どうした?」
「……その、今日は本当、ありがとう」
「……あー、気にするな。仕事だし」
涼護としては、仕事だし、何より誰でもやるような普通のことをしたという認識だ。
だから、お礼を言われるのはなんともむずがゆい。
「そう? ……ホント、なんていうか」
「なんだよ?」
「もっと誇っていいと思うなぁ、ってこと」
だって、と汐那は言葉を続ける。
「人を助けるって、誇っていいことだよ?」
「そうか?」
「そういうところが、また何て言うか……、まあ、いいけどね」
汐那はそう言って、くす、と笑った。
「ねえ、もうちょっとこっち来て、顔寄せて」
「なんだよ」
「いいから」
涼護が言われた通り、汐那に顔を寄せると、ちゅ、という音と、数日前にも感じた柔らかい感触がした。
頬に口づけられた、と一瞬遅れて理解した。
「お礼。それじゃあ、おやすみ」
「……ああ、おやすみ」
汐那はそう言って、手を振って玄関の中に消えていった。
入った途端、どたばたという音が聞こえてきたが、それはどうでもいい。
「……なんつーか」
二度。二度も、だ。
蜜都汐那という女は、誰もが口を揃えて「人相が悪い」「不良面」と評する涼護に怯えることなく、二度も頬にキスをした。
……本当に。
「……本当、変な女」
そう呟いて、涼護は自転車にまたがり、帰路についた。