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天に上り、奈落に落ちる

 王宮に着いた時には、既に勲章授与の後の晩餐会が始まっていた。

 途中参加は出来ないので、二人には別室で軽食が供された。


 2人とも、お互いが視界に入れば、身体のどこかを触れ合わせて置かずにはいられなかった。他に誰もいないのをいいことに、隣り合わせに座ってお互いの膝を付け、ゼゼアは左利きなので、イルアールの左手とゼゼアの右手を繋いだまま食事をした。

 ほとんど話もせずに、暇さえあれば見つめ合った。お互い、生まれてから一番の幸せだと思った。


 晩餐会が終わった。

 どうぞと促された二人は歓談とダンスが行われている広間へ移動した。


 国教の竜神達が雄同士だったこともあり、竜の国では男性同士、女性同士のパートナーに偏見はなかった。


 ホールに現れた二人は、離れて見るとまるで最初から一対だったようだった。

 白地の正礼装。モールや飾りが金色の金髪のイルアールと、モールや飾りが銀色の銀髪のゼゼア。肩掛けマントも二人左右に掛け分けて、手を繋ぎ、もう一方の手をマントごと広げてフロアに出て来ただけで、会場中がざわめいた。


 誰? 素敵…… 初めてお見かけするわ。え? ちょっと見て、マントの家紋、エルンシュタイン大公家とナハトクレア家じゃない?


 二人のダンスは本人達も周りもうっとりの素晴らしいものだった。

 三曲目に突入する頃には、他に誰も踊らず、二人はフロアを独占していた。


 そこへ、別室で二家と話をしていた国王がその二家、エルンシュタイン大公家とナハトクレア家の面々を連れて会場に戻って来た。


「イルアール!」

「ゼゼア!」


 それぞれの家長の二人を呼ぶ声がフロアに響き渡った。


 呼ばれて気付いた二人は揃って王の前に跪いた。

「陛下にご挨拶申し上げます。エルンシュタイン家のイルアール・フォン・エルンシュタインと申します」

「陛下にご挨拶申し上げます。ナハトクレア家のゼゼア・ナハトクレアと申します」

「今、其方達のお父君と話しておったところよ」

 王は目を細めて、二人に笑いかけた。

「二人が相まみえた事、まことに僥倖である。両家が手を携え、我が国の繁栄を支えんことを期待しておる」


 王が席を立つとまた音楽と共にダンスが始まった。

「帰るぞ」

 大公はイルアールに告げた。語気の強さでイルアールには何も聞くことはできなかった。


 会場を出る際に振り向くと、ゼゼアもお父君に何やら注意を受けていたようだった。

「ゼゼア……」

 君と離れるだけで胸が苦しいよ……。


 帰りの馬車は姉のアーデルハイトと一緒だった。姉は大公にそう頼んだようだ。

「イルアール、貴方とゼゼアの中に竜神の魂が入っているのね」

「そんなわけ……いや、そうかも知れません。会ったばかりなのに生まれる前から知っているような気がします」

 アーデルハイトはため息をつきながら言った。

「ゼゼアを知っているわ。ゼゼア・アヴェリエーヌと名乗っていたけれど、王宮の薬師で一生懸命な良い子よ。何度も一緒に働いた事があるわ。ナハトクレア家の身内とは知らなかった。向こうも、元聖女のアーデルハイトがエルンシュタイン大公家の身内とは思わなかったでしょうね。聖女の間は、苗字がないのよ。ただのアーデルハイトだったの」

「俺たちはもう会えないんでしょうか? 一人でも平気で生きてきたのに、ゼゼアの存在を知ったら、一緒にいられないのが苦しい……」

「国王様は今日、お父様にナハトクレア家と和解せよとおっしゃったの。お父様もそれはわかっているはず。でも、複雑なんでしょうね。今すぐには無理でも、少し待ってみるしかないわね」

 少し考えて、また、姉は言った。


「前に一緒に遠征に出た時にゼゼアが言ったんだけど、ゼゼアは珍しい体質なんだって」

「?」

「それが特に貴方達二人の障害にはならないと思うから言うわ……ゼゼアは最初、母親のお腹の中では双子だったんですって」

「俺もそうだったらしいですよ。弟は死産だったと」

「うん。二人とも、竜神の分け御霊を入れるには体が一つでは器が足りなかったのかも知れないわね。生まれる時には、一人の体で御霊が入るようになったから、片方が消えたのかも知れない。ゼゼアの方はお母様のお腹の中で、最初二つの心音がしていたものが、一つ聞こえなくなって、生まれた時にはゼゼア一人だったそうよ」

 姉は、なんと表現したらいいかと少し考えて、

「生まれる前に双子の片方が死んで、残った片方に吸収される事が稀にあるらしいの。……そのせいで性分化が混ざっちゃってるって」

「姉上、全然わかりません」

「ゼゼアは男女両方の性を持っているらしいの」

「……全く問題ありません。ゼゼアの魂であれば」

「そうね。まぁ、それでゼゼアは離れに隔離されて育てられて、大きくなってから治癒魔法と薬師の才能で王宮に勤め出したそうよ。ナハトクレア家の邸宅は王都の貴族のタウンハウスでも、王宮から一番近く。そこの離れで今も暮らしているって」

「姉上……」

「貴方達、それぞれ片方を無くして生まれて、()()()()()()みたいね。私ももうすぐ結婚するから、ずっと見てはいられないけど、うまく行くように祈ってるわ」

「姉上は嫁に行かれるのですか?」

「聖女が長かったから、ちょっと行き遅れなんだけど、騎士団の第三隊隊長マティアス・ローゼンタールが貰ってくれるそうよ」

「は? 我が騎士団のですか?」

「私が七歳で聖女候補として教会へ行く前に約束したの。待っていてくれるって。十八年、待たせたわね。長いこと」

「それは姉上……純愛ですね」

「だから貴方も少しくらい待ちなさいよ」


 馬車は石畳の道を進んで行った。夜空に数え切れない星が瞬いていた。

 

 

 

 


 

 


 


 


 

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