第四話 交差
俺たちはまず北東へ向かった。
崩れた外壁、割れた窓ガラスを乗り越えて固まったまま進む。
前に颯真
中央に俺
左に澪
右を警戒する湊。
後方で凛が端末を確認する。
「東の端末まで後百二十メートル。」
凛が報告する。
「蒼陵は?」
「三班ともにその場に維持。ただ――」
一瞬、凛の指が止まった。
「一班だけ進路変更。」
湊が端末のマップから視線を上げ確認すると
「……こっちだな。」
南西へ向かっていたはずの一団。それがまっすぐこちらへ来ていた。
偶然にしては、正確すぎる動き。
確認をするため端末のカメラ機能を使いその一団をズームした。
その中心を見ると、指示を出していた黒髪の生徒と思われる一団がこちらに向かってきていた。先程の振る舞いを見るに彼女が旗手である可能性が高い。
そのグループの後方、先程の白髪の小柄な生徒がその仲間に囲まれていた。
そして不思議なことに歩幅は小さいが周りに遅れていない。いや足速すぎんだろ。
そして彼女の視線が、こちらを測っているように見える。ずっと見ていると一瞬彼女と目が合った気がした。見ていたのがバレたのか?
「避けるか?」
颯真が聞いてきた。
数秒考える。逃げれば相手の意図通りになるかもしれない。だけどここで距離を測るのも一手。
少し考え、答えを出した。
「避けない。」
俺の言葉を凛がすぐに補足する。
「だけど衝突は避ける。観察を優先ってことね。」
「了解。」
だんだんと距離が縮まっていく。
廃ビルの角で足音が重なる。そして角を曲がった瞬間対面する。
互いに十メートルくらい空けてその場で止まる。
先に口を開いたのは、黒髪の生徒だった。
「北東の端末を狙ってるのか?」
声音は落ち着いている。どうやら敵意はないみたいだ。
だが、譲る気もない様子。
颯真が笑う。
「そっちもだろ?」
黒髪の生徒は否定しない。
そして視線が自分に向く。その視線は値踏みするような目をしていた。
「無駄な衝突は避けたい。」
そう言いながら、一歩だけ前へ出る。その動きに連動して後ろの隊列が、わずかに広がる。
目では見えない自然な圧。
凛が小さく呟いた。
「彼女はこの場の主導権を取ろうとしている。」
それを聞いた上で動く気は俺にはなかった。
「残念ながら、譲る気はない。」
黒髪の生徒の目が細くなる。
「私たちから端末を奪う事が可能だと思うか?」
空気が張り詰めるその時だった。
後方の白髪の生徒が、わずかに顔を上げる。
彼女は何も言わない。
だが、黒髪の生徒の視線がほんの一瞬だけ後ろへ流れる。
次の瞬間黒髪の生徒は一歩引いた。
「……今回は譲ってやる。」
颯真が眉を上げる。
「随分あっさりなんだな。」
「端末の確保数は並んでいる。まだ焦る段階じゃない。」
その言葉は冷静。だがその決断は少し早すぎないか?
まるで最初から、衝突する気がなかったかのような言い草にとれるような。
そして蒼陵は隊列を保ったまま、横へ逸れた。
すれ違いざま白髪の生徒が、俺を見た。
何も映していないような目をしているのにそれでも確かに観察されているような感覚。彼女は何者なのか。
蒼陵が去ると湊が息を吐いた。
「なんだったんだ今の。」
凛がそれに対し淡々と言う。
「試された可能性が高いと思う。」
俺は振り返らず答える。
「……ああ。」
カウントは【02:38:41】
北東の端末はすぐそこだ。
だがこれはただの端末奪取戦ではない。盤面の裏側で誰かが動いているような、そんな気配だけがはっきりと残っていた。
第四話、いかがでしたか。
今回は“ぶつからない衝突”を書きました。
あの場で本当に動いていたのは、前に立っていた人物だけではありません。
見えているものだけで判断しないこと。
この言葉の意味が、これから少しずつ形になります。
次回、端末奪取戦が本格化します。
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