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読んでいただきありがとうございます

 大使館は国の代表が住むところなので城を小さくした様な大きさだった。更に大きな塀に囲まれており自治権が発生する。

門を開けると先が見えないように木々が配置されていて、アプローチを抜けて馬車が抜けられる。その先には季節ごとの花が咲き乱れるよう規則的に植えられていた。


外国の高官をもてなしたり、政治の難しいやりとりをする場所にもなる。

勤めるのは秘書官や文官やシェフ等厳しい試験を通った者ばかりのエリート集団だった。


そのトップがお父様なのね、と思うとミルフィーヌは誇らしかった。

三階建ての上の階が家族だけのフロアになっていた。ここに父とミルフィーヌの部屋があり家族が遊びに来ても泊まれるようになっていた。


専属の侍女も二人連れてきた。ララとリリの双子である。ミルフィーヌより二歳下で国の侍女養成学校の優等生だ。戦いも得意で暗器をスカートの下に忍ばせている。レイモンドが別れ話に来た時は二人とも殺しに行きかねない状態だった。


なんとか止めたのが侍従で護衛のビルだった。伯爵家の騎士団長の息子で鍛え上げた肉体と腕を誇っている。

あの時ビルに送らせて良かったと思っているミルフィーヌだ。でなければあのまま行方不明になっていただろう。それは流石にまずい。正式に話を破棄するなら、相手が生きていることが重要だ。それに本人がどれだけのことをしたのか、死ぬまででいいから自覚をして欲しかった。



✠✠✠



 こうしてミルフィーヌの隣国での生活が始まった。母の代わりに料理の采配や大使館員の管理、仕事の進み具合を見ておくことも大切だった。

最初は小娘が口出しするなといわんばかりだった職員の態度も一人一人の名前と顔を覚え挨拶をしていく内に変わり始めた。


父と一緒にパーティに参加することもある。各国の名産や地名を頭に入れその国の言葉で話すのだ。大変だがやりがいがあった。


合い間に父とお茶を飲んだり、大使館の大きな図書館で本を読むのが楽しみになった。

図書館には原書で書かれた書物が沢山あった。地図は勿論、政治や経済、料理の本や推理小説や恋愛小説まであり、街の本屋に行くことはないだろうということは直ぐに分かった。歴代の大使やその家族、大使館員が読んだのだろうと思われる本を手に取れるのはこの上もない喜びだった。



お父様とお茶を飲んでいたある日

「せっかく外国へ来たんだ。街へ遊びに行っておいで。ずっと私の仕事の補佐ばかりではこちらに来た甲斐がないよ。護衛にはリリとララとビルの三人がいれば大丈夫だろう」


「そうですわね、出かけてみようと思います」


翌日ミルフィーヌは町娘の格好をして散策を楽しむことにした。

馬車は実家から乗ってきた黒塗りの家紋の入っていない物である。見かけは地味だが乗り心地には拘っている。今日はちょっと街までだが遠くの観光地まで乗っても疲れない。

女の子三人で乗りビルは馬で並走している。


「お嬢様、私たちまでこの馬車に乗せていただけるなんて思っていませんでした。乗り心地が違いますね」


「揺れないわよね。来る時はお父様と乗ってきたもの。

乗ってあげないとお馬さんも可哀想だから。

大使用の馬車はもっと豪華よ、はったりを噛まさないといけないから」


「お嬢様いささか言葉が下品になっておられます」


「良いじゃないの、三人しかいないんだから。虚勢を張らなくてはいけませんの、なんて伝わりにくいわ」


「お嬢様にはそちらがお似合いです」


「今から町娘になるのよ、これくらいの感じで話さないと」


「お嬢様はどう見ても良いところの娘さんにしか見えませんので話し方はさほど変えなくても良いと思います」


「えー、せっかくこんな格好をしてるのに残念だわ。呼び方をミルにしてみて。友達という設定よ、良いわね」


言い出したら聞かないお嬢様に二人は渋々折れた。それに身分がばれたら面倒事が増えるかもしれない。良からぬことを考えるやつがいないとも限らないのだ。

出来るだけ街中で騒ぎを起こしたくない侍女達は言葉を飲み込んだ。



街並みの違う異国は魅力的だった。街の匂いからして違う。香辛料の匂いだろうか、おいしそうな香りが食欲を誘っていた。建物もカラフルだ。各家が自分の家を好きな色で塗っている。幼い頃に見た絵本の中に迷い込んだような気がした。


一軒の肉屋が揚げ物を袋に入れて街行く人に売っていた。

「ねえあれが食べてみたいわ、ビルには二個でも三個でも買ってあげるから買ってきて」

「わかりました。待っててください」

ビルが手に一杯のコロッケを買って帰ってきた。

「熱いですからね、気を付けてください」


「どうやって食べるのかしら」


「こうパクッと食べるんですよ。熱っ」


「気を付けてって自分で言ったくせに。持っただけで熱いわ、舌を火傷しなかった?ふうふうしながらそこのベンチで食べましょう」

お嬢様可愛い!とビルは勿論リリとララは胸を撃ち抜かれた。



「慣れると歩きながら食べられるようになるそうです」

なんとか心を落ち着けたビルが言った。


「そうなのね、美味しいわ、揚げたてだからかしら」


リリとララも「美味しいです」と言いながらパクッと一個食べていた。ミルフィーヌはひと口が小さくて中々食べられなかった。

「今度は飲み物を私達が買ってきます。果実水で良いですね、林檎とオレンジと桃もあるみたいです。どれにします?」


「俺は甘いのが苦手なので要らないです」


「それじゃあ珍しいから桃にするわ」


「林檎にします」とリリとララが声を揃えて言った。


「そうだわ、この国の文房具屋さんに行ってみたいわ。それからランチにしましょう」


「違う国ではどんな物があるのか楽しみね」


文房具一つでも異国のデザインは変わっていた。今日の記念に四人で色違いのペンを買うことにした。もちろん財布はミルフィーヌである。


ランチには焼いた肉をそぎ切りにして薄くした物に野菜を巻いて食べる珍しい物に挑戦した。ソースが食べたことのないオレンジ味でミルフィーヌは好きになってしまった。


こうして初めての街歩きはお土産に珍しい食べ物をたくさん買って楽しく過ごすことが出来たのだった。





夕方もう一話投稿します。

誤字報告ありがとうございます。

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