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マリア様と第一王子殿下の婚約が卒業まで後二年というところで発表された。今までも登城して妃教育はされていたが、これからはもっと本格的になるそうだ。
「ミルフィーヌ、今度婚約発表の舞踏会が宮殿で行われるの。絶対来てね」
「マリア様、パートナーがいません。弟でも良いですか?」
「もちろんよ、あんな馬鹿だとは思わなかったわ。ごめんなさいね、お茶会の後で貴女の名前を出したばかりに、一生の黒歴史だわ。悔やんでも悔やみきれない。好きな子がいるなら貫けって話よね。あれには来るなと言っておくから、お願いだから来てね」
「廃嫡されたようですから来ることはないと思いたいですが、マリア様から念を押していただくと安心です。弟様が跡を継がれるそうですね」
「ケリーはまともだと思いたいわ。あれも昔はまともだったのに、貴女がいながら裏切っていたなんて許せないわ。人って分からないものね。殿下の側近にという話もあったのよ。気持ちが悪いから止めてもらったけど。
相手の女も含めて登城はさせないわ。侯爵にも表立った登城は避けて貰うように通達は出したわ。
制裁はきっちり受けてもらわないと示しがつかないわ。侯爵家は評判がガタ落ちだそうよ。乳母の娘だからって甘い顔をするから」
「マリア様が怒ってくださるので冷静になれます。舞踏会ではマリア様の素敵なお姿を楽しみにしております」
舞踏会には弟のクリスがエスコートをしてくれた。ミルフィーヌは紫を基調にした淡い色のプリンセスラインのサテンのドレスにダイヤモンドのネックレスとイヤリングを、クリスは黒い正装に姉の髪色の金を袖口に刺繍した物を纏っていた。前髪を上げて大人ぶっているところが可愛い。身長ももう少しで追い抜かれそうだ。両親は先に馬車で宮殿に来ていた。
貴族がホールに入り終わると王族がゆっくりと入って来られた。壇上の陛下が
「皆、今宵はよく集まってくれた。第一王子アレクの婚約者が決まった。公爵令嬢マリア・セレンフォードだ。よろしく頼む」
会場から温かく盛大な拍手が起きた。
「今日の主役達に踊ってもらおう」
楽団が静かに調べを奏で始めると会場の真ん中に手を取り合った出てきた二人が踊り始めた。絵画のように美しい光景だった。
ほうっとため息をついて見惚れているとクリスが
「姉さま、僕たちも踊ろう」
「そうね踊りましょう」
クリスは思ったよりもダンスが上手だった。
「いつの間にこんなに上手になったの?」
「日々練習をしているからね、姉さまはずっと家にいて。僕が守ってあげるから」
「小姑がいるところにきてくれる令嬢なんていないわよ」
「ずっと独身でいいよ。後継は親戚から貰えば良い。考えておいて。僕は姉さまが泣くのを見たくないんだ」
いつの間にか弟がしっかりしてきている。
「いつかクリスにも好きな人ができるわ。楽しみね。さあマリア様達にご挨拶をして帰りましょう」
「本気なのに」
自分を心配してくれる弟が可愛くて紫の眦に涙が溢れそうになったのを必死で我慢した。
順番がやってきて陛下や王妃様、第一王子殿下とマリア様にご挨拶をした。
キラキラした王子様のアレク殿下が
「バルモア伯爵令嬢、マリアの友達でいてくれてありがとう。これからも良い付き合いを頼む。令息もな」
「本日はおめでとうございます。お二人の幸せを心より祈っております」
マリア様が微笑んでくれたので王族の前にいるという緊張がほぐれた。
✠✠✠
十六歳になりデビュタントの日が近づいた。パートナーはお父様がすると張り切っている。ドレスはプリンセスラインで真っ白なシフォンが何枚も重なったスカートに真珠が縫い付けてあった。上半身はボートネック、ウエストは紫色のサッシュで結ぶようになっている。大粒の真珠のネックレスとイヤリングを着けることになっていた。
「ミルフィーヌ、当日は私から離れてはいけないよ」
「わかりましたわ、マリア様もデビュタントなのでお会いするのが楽しみですけど、うっかり一人にならないように気をつけます」
人生一度のデビュタントは様々な白いドレスの乙女たちで花が咲いたように華やかだった。
ヘインズ侯爵家からは貴族女性として一生働かなくても食べていけるくらいの慰謝料を貰った。義両親になるはずだったお二人とは良い関係だったのであの方たちと縁が切れることの方が寂しかった。
領地で初恋の人と暮らしているのだろう。それとも婿入りして商人になっているのか、ミルフィーヌはもう興味が無かったので知ろうとも思わなかった。
しかしレイモンドに懸想しミルフィーヌに悪意を持っている人間はミルフィーヌが選ばれなかったことが嬉しいらしく「レイモンド様って初恋の方が忘れられなかったそうよ。運命の恋を貫かれたとか」「アイリス様というらしいわ、侯爵令息と男爵令嬢の恋って身分差を越えた恋愛小説みたいね」と聞こえよがしに囁いていた。
今更だわと思うミルフィーヌの頭上を悪意は風のように通り抜けていった。
✠✠✠
ミルフィーヌの父は隣国の大使になり二年間の赴任が決まった。
一緒に住んで外国語を役に立てたいとお願いしたら叶ってしまった。学院は大急ぎで試験を受け飛び級で卒業した。傷心のミルフィーヌを守るためだと思い嬉しくなった。父の手伝いが出来るということがミルフィーヌの心を上向きにした。
マリア様には学院でお別れをした。
「絶対帰ってきてね、私付きの王宮侍女になって欲しいの。ミルフィーヌ以上に信頼できる人はいないわ」
と散々言われたがよく考えるつもりだ。
母と弟は国に残ることになった。屋敷と領地を守るためだ。申し訳なく思いながら父に付いて隣国へ出発した。
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