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ウィルがお腹に向かって一生懸命話しかけていた。
「ぼくがおにいちゃまでしゅよ、いっしょにあそぼうね。かわいがってあげるからげんきでうまれてきてね」
お腹の中でぽこんぽこんと蹴っている。まるで返事をしているようだった。
「かあしゃま、へんじしたよ。きっとかわいいあかちゃんだね。いもうとかなおとうとかな、たのしみだな」
「お兄ちゃまが大好きよって言ってるのよ。話しかけてくれてありがとう」
「うん、うまれたらたくさんあそんであげるの。まちどおしいな」
「楽しそうだね。父様も入れておくれ。良い子で産まれてくるんだよ、母様も父様も兄様も待っているからね」
「きっと皆の声が聞こえてますね。よくお腹を蹴るんです」
「元気な子だね、楽しみだ」
と言いながら心配そうに髪を撫でる手が優しい。きっとお産を心配しているに違いない夫を安心させるように
「大丈夫ですよ、ウィルの時も安産だって言われましたし、この幸せを手放すわけには行きませんから。ノア様を誰にも渡したくありませんもの。そのために散歩もしてますし体力は自信がありますもの」
「そうだね、私の隣はフィーヌだけだ。愛してるよ」
「ぼくもかあさまあいしてましゅ。おおきくなったらおよめさんになってください」
「ウィル母様とは結婚できないわ。お父様と結婚しているから。
でも息子がこんなことを言ってくれるなんて幸せですね。私も大きくなっても父にそんなことを言ってました。遺伝かもしれませんね」
「フィーヌはファザコンだったのか」
ノアが微妙な顔で見つめて来た。
「呆れましたか?ノア様に会ってからは流石に言いませんでしたわ」
「お腹の子が女の子だったらそう言ってもらえるよう頑張るよ」
何かを決意するようにノアが言った。
それから一月程で生まれてきたのは金色の髪に黒い瞳の女の子だった。ノアによってシルビアと名付けられた。
ミルフィーヌに良く似ていて、みんなのアイドルになったのは当然のことだった。
ノアとウィルが甘やかすので、ミルフィーヌは我儘にならないように気を付けて育てることにした。
ウィルはシルビアの所にしょっちゅう行っていて
「かわいい」を連発していた。
シルビアの首が据わるようになると膝に抱っこをして、赤ちゃんの絵本を読んでやっていた。
「ウィルはシルビアのいいお兄ちゃまだわ。可愛がってくれて母様助かるわ」
褒められて胸を張る息子が可愛くてミルフィーヌはきゅんきゅんした。
うちの子達天使なのかしら、そうに違いないわ。
心配のあまり離宮全体に防御魔法を張れるようになった。
悪意のあるものは弾くようになっていた。
魔力を使うと疲れるので子供たちと一緒に昼寝をするのだが、子供達より先に眠ってしまうこともあるらしい。
ウィルが布団を掛けてくれトントンしていたと聞いた時は、嬉しくて涙が零れそうだった。
三人が昼寝していると聞き、用事で帰ってきたノアが子供部屋を覗いてみると、天使が並んで眠っていた。
乳母が直ぐに気を利かせて部屋から出て行った。三人の髪を撫で一人ずつ額にキスをした。
幸せな気持ちが胸いっぱいに込み上げた。この大切な宝物を守らなくてはと今一度決心した。
今日はミルフィーヌにとって久しぶりの夜会の日だ。シルビアを産んだ後、体調も体形も戻ってきたので、王太子様主催の夜会に招待された。きっとミルフィーヌを出かけさせようとするマリア様のおねだりなのだろう。
朝早くからリラクゼーションサロンのスタッフが来てくれ手入れに余念がない。
「お肌のきめが細やかで白くて吸いつくようですわ。お手入れの遣り甲斐があるというものです」
「貴方達の技術が素晴らしいのよ」
「益々やる気が出ます。この調子で社交界の華でいてくださいませね。サロンの広告にもなりますし。公爵様を更に虜にいたしましょう」
「華って、マリア様がいらっしゃるのに烏滸がましいわ。でもサロンの広告が目的ならそうなれるように頑張るわ」
すっかり手入れが終わり、今日のために纏った黒いレースのマーメイドドレスは言うまでもなくノアが贈ったものだ。
スカート部分に散りばめられた小さなダイヤが煌めいていた。髪は纏め上げられダイヤモンドの髪飾りで留めてある。イヤリングは縦に連なるダイヤモンドだ。
これだけダイヤモンドを使っても、上品なのはミルフィーヌの魅力だろう。
「とてもお綺麗です」
「本当にスタイルがよろしくて良くお似合いです」
皆が口々に褒めてくれる。そこへ待ちきれないように扉を開けて入ってきたのは黒の正装姿のノアだった。胸に金糸でハミルトン公爵家の家紋の火の鳥が刺繍されている。
前髪を上げ眼鏡のない顔は、見る者を魅了するような色気のある整いすぎた美貌だった。
「なんて美しいんだ。女神のようだ。ドレスも良く似合っている。エスコートできるなんて光栄だよ」
「ノア様こそ素敵です。御婦人方が倒れる姿が想像がつきますわ」
「フィーヌ以外は目に入れないし映さないよ。私はミルフィーヌのものだ」
相変わらず自分たちの世界に入った二人を、執事になったビルが玄関に誘導した。ウィルとシルビアはリリとララに抱かれてお見送りに来ていた。
「かあしゃま、めがみしゃまみたい。きれいね」
「あ〜あ」
「お利口にしててね、二人とも行ってくるわね。早く寝るのよ」
「はい、いってらっしゃい」
「あ~あ」
お利口な子供達を抱きしめたい思いをぐっと我慢して二人は馬車に乗り込んだ。
予想通りハミルトン公爵夫妻は注目の的だった。久しぶりの参加で蕩けるような微笑みを夫人にだけ見せている公爵と、十代の少女のような儚さと人妻の色気の混じった美しい夫人は目立つカップルだった。
久しぶりに王太子夫妻に公の場で会ったミルフィーヌは、お互いの幸せを確認して微笑みあったのだった。
「こうして目にすると貴女の幸せが確認できて嬉しいわ」
「マリア様も殿下と仲がよろしくて何よりですわ」
親友は長年の胸のつかえが漸く取れたように心から笑った。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。これで完結になります。
女装王子キースの番外編を明日一話投稿します。
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またお会い出来ますように。




