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業を煮やしたノアは王太子妃のところへ行った。
「ミルフィーヌの具合が悪いというから何度も会いに行っているのに、会わせてもらえないんだ。どうしてなのかわからないだろうか?」
「公爵様が胸に手を当ててお考えになればよろしいのではないでしょうか?」
「私が原因なのか?」
「お心あたりがないと言われますの?」
「ない」
「では結婚は取りやめなさいませ。浮気者はミルフィーヌに相応しくありません。どれだけ彼女の傷が深いか貴方様には分からないのでしょう?」
「浮気などしていない」
「彼女が裏切りだと思ったらそれが浮気なのです。そのせいでパニックを起こして人間不信になっておりますの、人が怖いと言っているようですわ」
「あっ、隣国の女装王子が遊びに来たことがあるんだ。一週間ほど前だ。性癖は普通なのだが、女装が趣味でふざけて庭に連れ出されたことがある」
「それですわね、運悪く見てしまったのでしょう。綺麗なのでしょうね。ミルフィーヌがショックを覚えるくらいですから」
王太子妃は残念な者を見るような顔をした。
「見た目は女性だと誤解しても仕方のないくらいの出来栄えだった。いつものように自慢したかったようで遊びに来ただけだったのだが。
趣味はそれぞれなので文句を言ったことがないが、このままだとミルフィーヌを失ってしまう。もう付き合うのは止めるよ」
ノアは過ちに気づきしょんぼりと肩を落とした。
「頑張ってくださいませ。大切な友人を壊したら一生許しませんわよ」
ノアは危機感を持ち急いで手紙を伯爵に送った。ミルフィーヌが見たと思っているのは隣国の女装王子だと書き、誤解を解きたいから屋敷に入れて欲しいとしたためた。
返事はすぐ来た。泣いてばかりで食事も摂らず窶れていっているそうで、それが本当なら誤解を解いてやってほしいと書いてあった。
ノアは念の為隣国の女装王子キースに連絡を取り自分の無実を証明するように要請した。
漸くミルフィーヌの部屋の前に案内されたノアはできるだけ刺激しないように
「フィーヌ、ノアだよ。扉は開けなくていいから話を聞いてくれないか。君が見たのは、隣国の女装が趣味の王子だよ。性癖は至って普通で恋愛対象は女性だ。
あの日突然遊びに来て、強引に庭園に引っ張り出されたんだ。
信じられないかもしれないが本当なんだ。こちらに来て貰って実物を見てもらっても良い。
フィーヌが嫌ならもう会うのは止めるよ。
山奥に屋敷を建てて若い女性がいないところで暮らしてもいい。
僕が愛してるのはフィーヌだけなんだ。どろどろに甘やかして、可愛いがって、大切にしたいと思っていたのに傷つけてしまった。ごめんね。
直ぐには信じられないよね。
君がそんなに傷ついていたことに気がついてあげられなくて、私は自分が嫌になるよ。
これからクズを殺しに行ってくるから。
しっかりしてるように見えていたから気が緩んだんだ。裏切ったら死ぬと言ってたのに傷の深さに気づかなかった。誤解させるような行動をとってしまった私を許して欲しい。どうか私から離れないで」
部屋の中で泣いている声が聞こえた。
「殺さないでくださいと仰っています」
「本当にいいの?君のためなら手を汚すことも厭わないよ。
果物を持ってきたから少しでも食べて。また顔を見てやってもいいと思う時が来るまで毎日来るから。馬鹿な私にチャンスをくれないか」
こうして再び伯爵邸に入れてもらえるようになったノアは花や果物、焼き菓子やプリンやチョコレートを持って毎日訪れ、想いを語り続けた。
中々ミルフィーヌの情緒は安定せずリリとララが交代で面倒を見ているようだ。
最初の婚約破棄が心に深く傷を与えていたんだなと思うとやり切れなかった。
やっぱり手を下そう、事故に見せかけるのがいいかもしれない。王家にはそういう部署があるのだ。
伯爵家の家族とも最初はギクシャクしていた関係が徐々に普通に戻ってきた。
3ヶ月が過ぎた頃、結婚を辞退したいと伯爵家から申し出があったがノアは、頑として受け付けなかった。
ノアは根気よく扉の外から話しかけ扉が少しずつ開くようになった。
久しく見ていなかった愛しい人は一回り痩せていた。それでも嬉しくて泣き笑いをしてしまった。
「会えて嬉しいよフィーヌ」
微笑んだミルフィーヌは恥ずかしさと嬉しさの入り混じったぎこちない顔をしていた。
ミルフィーヌは少しずつ部屋から出られるようになり、散歩が出来るまでに回復した。会話もぽつぽつ出来るようになった。ノアが手を繋ぎリリとララが後ろを歩くという形だ。見えないところにビル達護衛が控えていた。
ミルフィーヌの仕事はもっと体調が戻ってからということになった。いつまでも待っているとマリア様からの言葉があったのだ。
話し相手くらいの立場になるだろう。
マリア様が懐妊され王子様をお産みになり、国中が喜びに沸いていた。
乳母には公爵家から付いてきた侍女が任命された。
王子様誕生の報せはミルフィーヌの心を明るくした。もし私に子供が生まれたらリリかララのどちらかに乳母になって欲しいなと思い、一人で勝手に恥ずかしくなった。
「私の可愛いフィーヌは何を考えて笑っているの?」
大きな手で頬を撫でられ、真っ赤になってしまった。
「ノア様のことです」
「嬉しいな、早く私のものにならないかな」
「ノア様のものです」
後ろから抱きすくめられた。
「可愛いフィーヌ、愛してるよ」
「こんな私でもいいのでしょうか?」
「もちろんだ、フィーヌしかいらない。ゆっくりで良いよ、決して裏切らないし愛しているのはフィーヌだけだよ」
身体の向きを変えられ顔中にキスが降ってきた
ノア様とあの日の女性の様子が頭から離れない。いくら男性だと言われても受け入れるのは難しかった。
そんな時キース王子殿下から手紙をいただいた。
大変な迷惑をかけてしまった、許して欲しいと。
趣味は尊重するがノア様の側にあのお姿で現れるのはもう止めていただきたい。
フラッシュバックするのだ。いつになったら忘れられるのだろうとミルフィーヌは思った。
これからは薬とノア様の献身とお医者様のカウンセリングが大切だと言われた。
時間がかかっても一緒に治そうと言って、抱きしめられた腕の中はとても安心できた。
まさかこんなにトラウマになっていたなんて、自分でも思わなかった。弱いな私。足を掬われないようにしなくては。
ノアはミルフィーヌを愛せるようになった自分を褒めたかった。
一人の女性をこれだけ想えるようになった。女性が苦手だった昔の自分に言ってやりたい。
君の未来は悪くないよと。
心の傷が回復しそうで良かったです




