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その場で大きな薔薇の花束を渡され、跪かれると大きなブラックダイヤモンドの指環を左手の薬指に嵌められ、指先に口づけを落とされた。
指先が熱を持って大変なことになっていた。
「黒って地味だなと思ったんだけどね仕方ないよね。せめて瞳だけでもブルーなら良かったんだけど」
「とても落ち着く色ですわ。大好きです、ノア様の色ですもの」
「そんなに嬉しがらせないでよ、空まで飛んで行けそうだ」
「しっかり捕まえてさしあげます」
「僕の婚約者が可愛すぎるんだけど。これからレストランで食事にしよう。それで今後の打ち合わせをしよう」
ふわっと抱きしめられ額にキスをされた。初めてなのに安心するのはどうしてだろう。とても嬉しい。
ノア様は先触れを出し私の休日に我が伯爵家を訪れてくださることになった。
父様にも連絡をし急遽帰国してもらうことになった。
ノア様が正装をし薔薇の花束を抱えて現れると理想の王子様そのものだった。王太子様とは五歳しか年が離れていないので兄弟と言っても納得する人が多いと思う。
そんなに心を射抜いてどうするつもりですか、殿下。もうミルフィーヌは心を鷲掴みされました。責任を取ってくださいませねと心のなかで呟いた。
朝から念入りに磨き上げられたミルフィーヌは、艶のある髪をハーフアップにして貰い、肌も透き通るように美しい。オフホワイトのAラインのドレスのスカートの裾部分にノア様の色である黒のリボンが縫い付けられて動く度にふわりふわりと揺れていた。
ネックレスとイヤリングはダイヤモンドだ。
それなのに何もしていないはずのノア様の美しさは何なのだろう。
罪だわ、罪でしかないわと思ったミルフィーヌは、ノア様の辛い過去を思い出し直ぐに反省した。
「本日はわざわざ帰国をさせてしまってすまない」
「娘のためですから、何をおいても帰ります。さあどうぞ応接室へ」
ノア様に先に座っていただくと、侍女がお茶のワゴンを押して入ってきて紅茶を淹れるとさっと部屋から出ていった。
「伯爵、ミルフィーヌ嬢との結婚を許していただきたい」
「一度婚約が破棄された娘です。それでも陛下は良いと言われたのでしょうか?」
「当然です。あれは馬鹿すぎて話になりません。ミルフィーヌ嬢の魅力はそんなことでは語れません。真面目で明るくて可愛らしくて努力家で頭も良くて・・・」
「ノア様もうその辺で止めていただいてもいいでしょうか、娘が真っ赤になって倒れそうです」
「そうですね、もっと言えるのですが倒れてはいけないので止めておきます。ミルフィーヌ嬢今日はまた一段と美しいね。そこだけ光が舞っているようだ」
「ノア様こそ美人すぎて気後れしそうです。絵本から出てきた王子様ですわ。魂が抜けそうです」
「こほん。二人の世界に入るのは後にしておくれ。で、婚約式と結婚式はいつにしましょうか」
「婚約式は一ヶ月後、結婚式は一年後でいかがでしょうか。花嫁は準備が大変でしょう」
「婚約式が一ヶ月後というのは早すぎませんか?」
「実はですねえ」
と両親とノア様が悪い顔でミルフィーヌに寄ってくる虫の話をし始めた。
「婚約者だと公式に発表するのは明日でも構いません。陛下には許可をいただいています」
「虫よけの為ですね、賛成です」
何やら同盟を結んだノア様と両親は満足そうにお茶を飲んでいた。
「ミルフィーヌ、婚約式に着るドレスを大急ぎで作らないといけないわ。ウエディングドレスも発注しなくてはね。ノア様はご希望がございますか」
「何を着ても似合うと思うのですが、今日のように黒を何処かに入れて貰えると嬉しいです。ウエディングドレスはおまかせします。きっと雪のように美しい花嫁になるはずですから」
「まあ、そんなに想っていただいて幸せね、ミルフィーヌ」
「はい、そうですわね、お母様」
「婚約式は急なのでお互いの親族だけにして、結婚式は盛大にしましょうか」
「ノア様、婚約式は賛成ですが、結婚式が派手なのはやめませんか。地味でいいです」
「そうか、綺麗な花嫁を見せてやるのも勿体ないか。ではそれなりの規模にしよう。でも王族は来るし、伯爵家の親族も来るだろう?」
「陛下や王妃様、王太子ご夫妻に公爵様御一家、うちの親族ですね。お父様の仕事関係の方を入れると、まあ三百人くらいになりますね。明日から婚約式と結婚式の招待状を書かないと間に合いません」
「僕も書くよ、君より時間がある。夫人、婚約式のドレスは王家御用達のデザイナーに頼むと良い。一ヶ月で間に合わせてくれるよう言っておこう。宝石は贈るから心配しないで欲しい」
流石王族、権力の使い方をよくご存知でいらっしゃる。明日登城したらマリア様に思い切りからかわれるなと遠い目になったミルフィーヌだった。
それにしてもあれほど怖くて先に進めないと思っていたノア様との関係が前進している。
ノア様のペースに乗せられた?それともちょろすぎるのかな私。裏切ったら死にますなんて言ったんだわ、恥ずかしい。
マリア様は
「殿下に聞いたのだけどノア様は叔父様にあたる方だったわ。小さい時しかお会いしてないみたい。少年の頃からずっと図書館に籠もっておられたみたいで、ミルフィーヌに会ったのは奇跡だねって言われてたわ。良い方のようで良かった。おめでとうミルフィーヌ」
「ありがとうございます、マリア様。婚約式に来ていただけますか?」
「勿論よ、友人代表として行くわ、絶対にね。スケジュールの調整は任せたわよ。親戚になるのね、ミルフィーヌおばさま」
「意地悪言わないでください。マリア様はずっとマリア様なんですから」
「からかいすぎたわ、ごめんなさい。子どもの時からの大事な親友よ」
「はい、かけがえのない方です」
二人は顔を見合わせて笑い合った。
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