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「大人ですね、お嬢様のお相手に良いと思います」
「うーん、慎重になるわ。一度目も最初は良かったのよ。無理をするつもりはないわ。今のままで充分楽しいもの」
「そうですね、妃殿下が離すわけないですものね」
「そこは何とも複雑、話の分かる方だから良いのだけど。顔だけ男のことを今でも悪いと思ってらっしゃるみたいなの。もう気にされなくて良いのに」
「お嬢様が幸せな結婚をされたら、罪悪感が無くなると思ってらっしゃるかもしれないですね」
「そうなのよね、充分幸せなんだけど」
王太子宮では昨日のミルフィーヌと図書館の司書のデートがもう噂になって皆に知られていた。
「昨日のデートは楽しかった?」
「たかが侍女の噂が知れ渡るのが早くないですか?それにデートではありません。お茶を飲みに行っただけです」
「それを人はデートと呼ぶのよ。それに正面玄関から出ておいて何を言ってるの?」
「疚しいことが何もなかったからですわ」
「まあいいわ。ミルフィーヌが楽しかったなら。この頃疲れた顔をしていたから元気そうになってよかったわ。働かせすぎたと反省してるのよ」
「店にも久しぶりに行ってマッサージを受けてきたので、そのせいもあるかと思います。サービスの品質が落ちていないか抜き打ちチェックを入れないといけませんから」
「お忍びで行こうかしら」
「王宮の侍女のマッサージは素晴らしいものです。そんなことを言われると皆泣きますよ」
「どこにも行けないのだもの、息抜きがしたいわ」
「殿下におねだりして離宮で羽を伸ばせばよろしいのです」
「そうね、一週間くらい出かけたいわ。ところで図書館の君ってどんな方なの?」
「殿下方が小さな時にお会いしたと言っておられましたが、殿下の牽制が可愛かったとも言われていたので、妃殿下は直接話されてはいなかったかもしれませんね」
「えー、昔から牽制してたの?」
「お顔が緩んでますわ。普通の方だと思いますが」
「真面目が一番よね。プレゼントとか貰った?」
「ご自分のカフスボタンを見てほしいと言われ、ついでにネックレスと花束をいただきました」
「いいわね、大人だわ。私もしっかり調査をして良い?大事な侍女のお相手なのよ」
「構いません。むしろありがたいです。男運がないと思うので」
「顔だけ男は私の黒歴史だもの。ミルフィーヌは悪くないわ。今日もメカード王国の本を借りてきてね。だいぶ読めるようになったでしょう。ミルフィーヌのお陰で会話もいい感じだし」
「妃殿下は呑み込みが早いですもの」
「外交に直結だものねえ。殿下にも教えて差し上げているのよ。寝る前の少しの時間だけど」
「毎日コツコツが大切ですわ」
この夜王太子に図書館の君のことを話したマリアは、王家の秘密をまた一つ知ることになり頭を悩ませることになったのだった。
ミルフィーヌはメカード王国の本を借りに図書館に来ていた。ノア様に会ったら昨日のお礼を改めて言うつもりだった。
なのにカウンターに彼の姿はなかった。席を外されているのかしら、それとも今日もお休みかな。仕方がないわ、これを借りたら帰りましょう。
この日カウンターにいたのは女性の司書だった。
「君、王太子妃様付きの侍女さんだよね、重たそうな本だね持ってあげようか。送るよ」
見たことのないちゃらそうなイケメンの騎士が声をかけてきた。
「これくらい自分で持てますので大丈夫です。どちらの所属ですか?」
「第三騎士団だよ、たまたま用事があって来たら重たそうな本を持っている君がいたから声をかけたんだ。貸しなよ、持ってあげる」
ミルフィーヌは防御魔法を久しぶりに張った。親切で声をかけてくれたのかもしれないが用心は大事だ。
「せっかくのお申し出ですが、本当に結構です」
「じゃあまた今度会ったら手伝わせてよね」
「ごめん遅くなった、送っていくよ」
よく知っている声が後ろからした。ノアだった。
「君、さっき団長が探してたよ、第三騎士団だろう」
「団長が?怖い。急いで帰らないと殺される」
ナンパ男は顔色を変え急いで出て行った。
「ミルフィーヌ、本当に送っていこう、防御魔法は消していいよ。良く声をかけられるの?王太子妃様付きだものね」
「妃殿下付きという立場が目当ての人が多くて困ってるんです。少しでも王太子妃様にお近づきになれば出世に繋がると思う人が結構いて。王太子様は実力主義なのでそんなことで出世は出来ないのに、分かってないんです」
「防御魔法をもう一度張ってくれる?本は持つよ。これ精度がすごいね、王宮魔術師くらいの実力だ」
「気が付かれたのですね。分からない人が多いのに。
昔婚約をしていた時に精神的ストレスと物理的な虐めが凄くて一生懸命練習したんです。結局浮気されて破棄になりましたけど」
「頑張ったんだね。婚約者が自分のせいで虐められてるのに浮気なんてクズだねそいつ」
「そうなんです、クズでした。でも心の整理がつかなくて隣国へ仕事で行く父に付いて行ってたんですけど、一時帰国したらマリア様に帰ってきてほしいってお願いされて今この状態です」
「また行きたい?君のお父上は外交官だったよね」
「そうですね、父の仕事を手伝うのは楽しかったですし隣国もいいところでしたが、今は行きたいとは思いません。仕事に語学が活かせて楽しいですし満足してます」
「そうか良かった。でもさっきみたいな男はまた出てくるよね」
「そうですね。防御魔法で接近は防げるんですけど、相手の魔力が上だと破られますし、格上の方が正攻法から来られると困ります」
「僕では駄目かな?嫌だったら契約結婚でも良いよ。裏切らないし泣かせない。一生君だけだと誓うよ」
「そんな急に・・・怖いんです。仲が良いと思っていた婚約者が実は裏切っていたと知った時の衝撃が忘れられなくて」
「君が誰かに取られるなんて嫌なんだ。さっき迫られているのを見たら誰にも渡したくなくなった。今度ちゃんとプロポーズするから話をする時間をくれないか」
「わかりました。話は聞きます」
「ありがとう、着いたよ早かった。もっと一緒にいたかった」
急に熱のある目で見つめられミルフィーヌはどきどきした。
この気持ちが何なのかまだミルフィーヌには分からなかった。
急なプロポーズになってしまいました。作者自身も驚いてます。頑張れノア様。
ミスと誤字のご指摘ありがとうございます!訂正しました。顔だけ男のふりがなですが私の使っている端末では、あれが限界です。ご了承ください。




