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裏切りはいらない  作者: もも


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読んでいただきありがとうございます

 ハロルドは最近ミルフィーヌ嬢と会うことが無くなったなと思っていた。

最後に会ったのは外交関係のパーティーだった。バルコニーでお話ししましょうと約束していたのに彼女の都合が悪くなって急に帰ったのだったか。


うちの国の宰相に捕まっているのを見たが大丈夫だったのだろうか。確か令息がいたはずだが頭の出来と女癖が悪い男だった。


あれから会っていない。まさかあいつと婚約させられそうになっているのか?

いやあの大使がそんな男と結婚させるはずはないな。けれど付き纏われたりしていたとか。



それが嫌で国に帰ったのだろうか、大使にお会いすることがあれば聞いてみよう。

まさか自分と友人の話を聞いて怒らせたと思っていないハロルドは呑気にそんなことを考えていた。



そういえばどうして俺は大人になったのに、子供の頃のお姫様を探さなかったのだろう、もう自分にはそれぐらいのお金はある。彼女を探して今でも待っていてくれているのか確かめなくてはいけないと、ハロルドは突然に思い立った。




彼女はアイリス・ノルマンと言った。男爵令嬢で母は侯爵家に勤めていたそうだ。母親に婿入りした商人に連れられ屋敷に来ていた。


「義父が吝嗇家で食べ物も粗末なものしか食べられないのです。洋服だって平民が着るような洋服しか買ってくれなくて。こうして貴族様のところで遊んでもらえばおやつが貰えてとっても嬉しいです」

と丁寧な言葉使いで、目をウルウルさせて言ったのだ。



そんな事があるのかと僕はショックを受けた。商人は上等な服を着ていたのだから。


「大きくなったらきっと僕が君をそんな家から連れ出してあげるよ」


「本当ですか?嬉しいです。昔のような食事が出来るようになると良いかなって思います。昔のような綺麗なお洋服も着たいです。勉強はお母様に教えて貰ったのですが、学校に行ってる人のようにいかなくて」



僕たちにとって当たり前のことが、この子には手の届かない遠いところにあるのだと思った。


「きっと迎えにいくから待っていて」


そう言ったのに実行に移さなかったのは次兄に言われたからだ。


「その子は本当は美味しいものを食べてるさ、洋服だって同情を引くためかもしれないじゃないか。仕入れをするのにもお金がいるんだぞ、騙されるんじゃない。確かに世の中には貧乏で困っている人が沢山いる。でも母親は隣国の侯爵家で働いていたんだろう。貯金もあるだろうし、その気になればいくらでも働けるよ」



小さかった俺はどっちの言葉を信じて良いか分からず、心は彼女に縛り付けられたまま、次兄の言葉ももっともだと思いずっと動けなかった。



初恋を探す決心を固めた俺が彼女の行方を調査するのは簡単だった。

探偵事務所にその名前を伝えると「お家乗っ取り疑惑のある商会ですね」とすぐに言ったのだから。

なんでも娘を連れて貴族の屋敷に行き令嬢や令息と仲良くさせて商売に繋げる方法で商会を大きくしていたようだ。心当たりのある俺は肝を冷やした。


探偵は

「おたくも被害に遭った口ですか」

と興味がなさそうに言った。

「いや、遭う前だった」

と何とか言葉を絞り出した。





その娘が隣国で母親が乳母をしていた侯爵家の令息と良い仲になり婚約を壊したそうだ。


被害に遭った令嬢の名前はミルフィーヌ・バルモア嬢だった。




俺は頭を殴られたような気がした。兄の言ったことが本当だった。初恋は黒い染みになって心に残った。



アイリスは令息が廃嫡され婚約者に慰謝料を払ってお金が無くなると直ぐに姿をくらましたそうだ。

それが噂になりノルマン商会は大きな負債を抱え倒産した。

代表は行方が分からなくなったらしい。



もう大使に御令嬢はどうされていますか?なんて気楽に聞くのはやめようと、頭の中で警鐘が鳴っていた。




このままお気楽な三男坊を貫こう、昔王子様を気取った男はこの時消えた。





ミルフィーヌ嬢を最初に見た時は美術館だった。顔色の悪い美人が倒れそうにしていた。ハンカチを敷いて座ってもらい水を貰ってくるから動かないようにと言って急いで戻ったら、心配そうな護衛君が付いていてほっとした。


その令嬢に国の要人が集まるパーティーで再会し驚いた。こんな事ってあるのだろうか、俺の心は跳ねた。

だが俺には小さな頃に絶望的な場所から救い出すと約束した女の子がいた。


友人にミルフィーヌ嬢のことを揶揄われた俺は、無自覚に誰に聞かれるのか分からない場所で初恋の話をしてしまった。


大人になったアイリスがどんな女性になっているのかも確かめずに。



迂闊だった。




ハロルドやっとアイリスの正体に気づきました。

明日はレイモンドの回になります。

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