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バルモア大使は諜報を使いハロルド・ミラーについてさらに調べさせた。
ミラー家に出入りしていた商人のことまで事細かく。
商人は何人か出入りしていた。その中で子連れの異国人と再婚したのは一人だった。男爵位を持っていたので婿になったと考えるのが妥当だろう。
平民にとっては貴族籍は大きな足がかりとなるからだ。
最初は子連れで商売に来るなんてと難色を示していた夫人も、妻が病気でしてと言えば品物を見る間、同情をして侍女に命じて子供を令息たちと遊ばせていたらしい。
そこで義娘に令息との繋がりを作らせようとしたのだろう。何軒もの貴族家をそうして訪問していた。
そうして、見事に引っかかったのがハロルドということか。しかし結婚はしていない。侯爵家だぞ、何故だ。何処かで同じ様な話を聞いた気がする。
そうか、ヘインズ侯爵家だ。同じ女にしてやられたとは商人ごとき商会ごと潰してくれる。
変な男に引っからなかったのは良かったが、二度もミルフィーヌを傷つけおってと伯爵は歯ぎしりをした。
ミルフィーヌはマリア様に手紙をしたためた。お元気に過ごされいるのでしょうか?に始まり最後は面白可笑しく自分の鬱憤を書いた。自虐的に。
マリア様は相変わらずお忙しいようだ。けれどミルフィーヌが一日も早く帰国するのを待っているとブレない返事をくださった。
お花畑男のことも笑い飛ばしておしまいなさいと書かれていてスッキリした。
何処の国にも見る目のない男はいるのねと書かれていて嬉しくなった。
マリア・セレンフォードは持てる限りの力を使ってお花畑男のことを調べさせた。顔だけ男と同じ女に引っかかっていた。
自分を弱く見せる演技の上手な女だった、アイリス・ノルマンという女は。
高位貴族ばかり狙っている。金と地位が目的なのだろう。レイモンドが廃嫡され私財で慰謝料を払うと婚約前に姿を消した。
レイモンドは廃嫡され僻地へ飛ばされたと聞いていた。王都に来るなと命令は出してあった。昔は完璧令息などと言われ令嬢の人気を集めていたが一族の面汚しになった。
貴族や親戚で付き合いたいと思っている馬鹿はいない。付き合えば王家を敵に回すことになると皆分かっている。
アレク第一王子はもうすぐ王太子になることが決まっている。セレンフォード公爵家の後ろ盾があるからだ。二人の間には長年培ってきた愛情がある。
生まれたときから決まっていた婚姻に不服など抱く隙も無かった。
兄妹のような愛情に熱がこもったのはいつだったのだろう。アレクが他を向くなんて考えられないがそうなったらぞっとする。アレクに甘さが加わってマリアは翻弄されてばかりだ。髪に触られるだけで身体が熱を持つ。頬が赤くなる。
指先に口付けされればそこが熱を持った。
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女の敵は女なのだろうか。アイリスという女は消さねばならない。
ミルフィーヌを泣かせた罪は償ってもらわないとと、マリアは黒い笑みを浮かべた。
一ヶ月後、王都の貧民街で女が一人死んでいるのを警邏隊が発見した。刃物で胸を何箇所も刺されていた。よくある痴情の縺れとして処理された。
一週間後、離れた場所で腹を刺した男の死体が見つかりこの前の死体の相手だと認識されて無縁墓地に埋められた。
そんな事件はざらにあるので誰も関心は寄せなかった。
公爵家の影がマリアの元へ報告に行った以外。
結婚式は後一年を切っていた。
マリアは一度帰国して顔を見せて欲しいとミルフィーヌに手紙を出した。
明るかった親友は今も笑っているのだろうか、心ならずも原因の一端を担いでしまい心配でならなかった。
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癒やしのマッサージという名称は受け入れられにくいということで
「リラクゼーションサロン」と名付け貴族街に店舗を構えた。元々宝石店だったがオーナーが老齢で店を畳んでいた。
そこを買い取り、外壁を深い緑で塗り直し重厚さのある扉に替えた。内装もクリーム色で統一した。マッサージルームは白を基調にした個室にして清潔感を大切にした。
お風呂も猫足にしてゆったりとした物にした。勿論完全予約制である。
マッサージオイルは薔薇やラベンダー百合など花の香が主流で、いずれ自領で生産できないか考えている。
最初にそういう店を出したいので一度帰国すると連絡したのは、実家とマリア様だった。
マリア様からは最初のお客になりたいと返事を貰った。ありがたいことである。
店舗に入り切らないほどの沢山の花束と熱烈な歓迎を受けた。
花束を従業員たちに預け生けてもらった。香りの強い花が無いところは流石だ。
「会いたかったわ、元気にしていた?」
「はい、マリア様もお元気そうですしお綺麗になられましたわ。恋の効果ですか?」
「もうからかわないで。もっと綺麗になりたくて来たのよ」
「公爵家や王家の侍女なら出来て当然かと思うのですが、隣国でマッサージを受けたら気持ちが良くて皆様に癒やしの時間をと始めることにいたしました」
「言葉が硬いわ。友達でしょう」
「マリア様なら毎日受けているかと思ったのですけど、記念すべき初めてのお客様になってくださいね」
「ええ、なるわ。公爵家御用達と書けば良いわ。そのうち王家御用達になると思うけど」
「お幸せなんですね、良かったです」
二人は顔を見合わせて笑った。
夕方もう一度投稿します




