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魔性達の伝説が新たに

 そしていつものように月曜日の朝が来た。


「フィン、おはよう」

「シズ、おはよう」


 そう唇を重ねるいつもの朝。

 今日もまたフィエンド一緒にいられる、そう思うとシズは幸せな気持ちになった。

 こんな日々がずっと続いていけば良いなと思いながら、ふとシズの中で不安が過ぎる。

 “神殿”は動くだろうか……いや、このまま行けば動く。

 その微かな線が幾つも絡み合い、エルフィンに続いているのを感じて、シズはすっと目を細めた。と、


「シズ? どうしたんだ?」

「ううん、何でもない。ただ、幸せすぎて不安になっちゃって」

「……シズ」

「フィンがいるから満足なはずなのに、こんな夢みたいな事……フィン?」


 そこでフィエンドがシズをぎゅっと抱きしめた。

 それに、シズはフィエンドの腕の中で幸せそうに笑う。

 その可愛らしい様子にフィエンドは愛おしさが増して、絶対にこの腕の中で守って、そして二度と逃さない、逃せないと心の中で思う。

 きっとシズは、“神殿”の事で不安があるのだろうとフィエンドは思い当たる。


 いつも明るくて、初めてであった時も陽だまりのような暖かさがシズにはあった。

 それが翳る事のないように手を放したはずなのに、数奇な運命の果てに今はフィエンドの腕の中にいる。

 そこでフィエンドはシズと目が合う。

 自然と微笑んでしまうフィエンドに、シズは再び唇を重ねる。

 シズの頬が赤く染まって、けれど何処か悪戯っぽく笑っている。だからフィエンドは、


「シズ、よくもやったな」

「わぁ!」


 そのまま額やら頬やらにフィエンドは軽いキスの雨を降らすと、シズはくすぐったいよと笑う。

 本当にもうどうしてこんなに可愛いんだろう、シズは……押し倒したい、そんな感情がふつふつと湧いて来て、いや我慢だとフィエンドは心の中で繰り返す。

 そんな肉食獣なフィエンドに気づかず、シズはフィエンド大好きという気持ちで抱きつく。

 一方、シズとフィエンドが幸せそうなのとは対照的に、エルフィンは怒っており、オルウェルはげっそりしていた。


「……オルウェル、どうして貴方は……」

「そんな事を言ったって、きついものはきついんだ! 昔はこんなにしてこなかったのに……」

「少しでもオルウェルが欲しいと思って何が悪いのですか!」

「だが、これでは私の体力が持たない!」

「なるほど、つまり調教して欲しいと、そういう事ですね? オルウェル?」


 ふふっと笑うエルフィンに、オルウェルは一瞬びくっと震えるも、


「そ、そんなの、怖くなどない」

「……怖いんですか、オルウェル」

「い、いやそんな事はまったくない」

「良いですよオルウェル、僕を怖がっても。そうすれば貴方は怯えて逃げられなくなって、その間僕はたっぷりと貴方が頂けますしね?」


 にたっと笑みを深くしたエルフィンに、オルウェルは更に顔を蒼白にして、


「どうしてそんな事ばかりなんだ。もう少しあのフィエンドとシズみたいにこう……」

「普通のいちゃいちゃがしたいと?」

「そうだ!」

「我侭を言ってはいけませんよオルウェル?」

「いや、これはどう考えても我侭ではなくて……」


 そこでエルフィンがオルウェルを押し倒した。

 ベットの上に倒れたオルウェルの上にエルフィンが乗っかっている状態だが、オルウェルは不安そうにエルフィンを見上げた。


「これから授業があるのでは?」

「一回くらいお休みしてもかまいませんよね? オルウェル」

「そ、そういうわけには……」

「最近オルウェルがいけずな所を見ると、僕、肉欲を感じてしまって」

「……エルフィン、昨日散々やったはず……」

「オルウェルは本当に可愛いですね……」


 そうエルフィンがオルウェルの頬を撫ぜてにっこりと花のように鮮やかに微笑んだ所で、エルフィンは肩を叩かれた。


「何ですか? フィエンド」

「シズと朝食を食べに行くから早くしてくれ」

「……そういえば僕は貴方のものでしたね、まだ」


 ちらりとオルウェルを見やりながらエルフィンは言い、ぎりっと歯軋りするオルウェルから降りた……と見せかけて油断したところでエルフィンはオルウェルの唇を奪う。

 舌を入れられてむーむー唸るオルウェルをたっぷりと味わってからエルフィンは唇を離して、ぐったりしたオルウェルを見下ろすしながら笑う。


「まだまだですね……こちらもたっぷりと、他の男や女の影が見えなくなるまで調教してあげましょう」


 と告げられたオルウェルは、そろそろ本当の事を言った方が良いんじゃないだろうかと悩んだという。まる。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 朝食をとり、フィエンド達とシズは別れる。

 教室にはすでにロイがいたので挨拶をすると、リノが楽しみにしているからお昼休みに会いたいとの伝言をシズ達は受け取った。

 そういえば、フィエンドとオルウェルが女装させられる事になっていたとシズは思いだす。


「あれだけ綺麗で可愛いから、フィンは似合うだろうな」

「……そういえばフィエンドと、オルウェルを女装させられるんでしたね。さぞ可愛いオルウェルが楽しめるでしょうね」

「だよね、楽しみだよね」

「でもシズも着るんでしょう?」

「……でも、フィンとお揃いならそれも良いな」

「お揃い……僕もオルウェルと……でもせっかくですから全員で同じ服も良いですね」

「あ、それも楽しいかも」


 きゃっきゃと楽しそうなシズとエルフィン。

 それほど大きな声ではないのだが静か過ぎる授業中。

 そして話している内容が恐ろしすぎて、みながみな沈黙に徹している。

 聞かなかった事にしているといっても良い。

 そもそもあのフィエンドとオルウェルに女装させると可愛いとか嬉しそうに話せる事、それ自体が脅威なのである。

 混沌とした話の内容を楽しそうに話す可愛らしい美しい少年二人。

 魔性達の伝説が新たにこの時二つほど作られたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 お昼の時間にて。

 フィエンド達と合流して、オルウェルがフィエンドに喧嘩を売りかけたところでエルフィンに弄ばれるいち膜があったのは良いとして。

 食堂にて会ったリノもなんだかつやつやしていたが、それは放置しておくシズ。

 そんなシズにリノは何処かわくわくしたように話しかけた。


「それでシズ、フィエンド様とはどうだったの?」

「どうって?」

「だから……体の相性とかその他諸々」

「えっと……結局してないといいますか……」


 その言葉にリノは凍りついたように動かなくなり、周りがざわっとざわめいた。

 そしてリノは真剣な表情でシズの肩をがしっと掴み、


「シズ、流石にそれは酷すぎると思うんだ、僕も」

「エルにも同じ事を言われたけれど、その、フィンのお兄さんに媚薬を飲まされちゃって」

「いいじゃん。一生面倒を見てもらえば。時間の問題だし」

「だ、だからどうしてエルと同じ事をリノも……」


 顔を真っ赤にして言い返すシズに、リノは深々と嘆息する。

 フィエンドがどれだけシズが溺愛しているのかという点と、そしてもう一つ。


「……シズは、フィエンド様以外に恋人を作るつもりなの?」


 リノが特大の爆弾を落とした。

 それ周りがざわっとざわめき、オルウェルは今ここで聞かなくても良いだろうという顔をして、エルフィンは面白そうに笑いながら状況を見ている。

 そしてフィエンドと言えば、すっと目を細めて近寄るだけで凍りつきそうな雰囲気をかもしながらシズの動向をじっと見つめている。

 ここで選択肢を間違えれば、即、監禁強姦陵辱コースに突入しそうだったが、シズがそちらを選択する可能性は微塵もなかったのでまったく問題なかった。

 それに関しては。


「それは、ないよ。フィンの事ずっと好きだったから、今更別の人を探せって言われても……でも、やっぱりフィンは、どうかなって。僕は貴族じゃないし……」

「そんな事は関係ない、俺はシズだけを愛しているから。それに家を継ぐわけでもないし」

「フィン……大好き」


 ぎゅうと、シズがフィエンドに抱きついた。

 それにいつも以上に柔らかな雰囲気でシズを抱きしめるフィエンド。

 確かに体を繋ぐ事はなかったかもしれないが、前以上に心が繋がっているように見えた。

 その様子に、今日はまだ平穏が保たれていると周りの皆が思って、それはリノも同様で。


「うーん、まあ良いね。今の所は上手くいっているようだし。まさかフィエンド様がそこまで我慢強かったとは……」

「? フィンはもともと凄く忍耐強くて、優しいよ?」

「……そうだね」


 リノは心の中で、シズの中ではね、と付け加えておく事にして、代わりに別の事を問いかける。


「それで女装の件、覚えていらっしゃいますか?」


 オルウェルがひいっと悲鳴を上げるのが聞こえた。

 けれどフィエンドはちらりとシズを見て、


「ああ」

「ではでは、何かリクエストみたいなものがありますか?」

「俺は特には。シズがするならそれでいい」


 フィエンドはシズと一緒なら良いと、シズを中心に世界が回っているとでも言うかのような発言をする。

 実際にそうなのと、それで少しでもシズの不安が和らげば良いという思いもあったのだが、それよりもシズと一緒にという欲望の割合がフィエンドの中では強かった。

 そこでシズは先ほどのエルとの会話を思い出して、


「あ、さっきエルと話していたのだけれど四人お揃いでどうかなって」

「素敵! それはなんという素晴らしい案! 分りました、用意しておきますね!」


 そうリノが喜んでいるのを見てオルウェルが冗談じゃないと声を上げた。


「私はあのフィエンドとお揃いなんて嫌だ!」

「……色調が似ているだけですよ。流石に僕も同じ服を四着は持っていませんから。精々二つです」


 その返しにオルウェルは安堵したようだが、事前にエルフィンにミニスカートにするようリノは指定を受けていたので、そっちの方が気の毒だなと思っていた。

 だがこんな面白い出来事にはめったにお目にかかれない……ではなく、リノはあらかじめエルフィンに言われていただけであってオルウェルからはミニスカートが嫌だといわれていなかったからと言い訳した。

 そして放課後にリノの部屋に集まる事になり、リノの恋人のロイも頷いた。

 先週あった出来事に関してはこの時、リノは一切触れる事はなかったのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 そして授業が開始され、いつものようにシズとエルフィン達がいなくなった後。

 今回は課外授業であったフィエンドとオルウェルはいつものように(一方的にオルウェルが突っかかっているだけであったが)競い合ってから、待ち時間にて。


「それで、様子がおかしいとお前は気づいたか?」

「三人か?」

「いや、五人だ。木の影に二人」


 そう指摘されて、オルウェルは舌打ちした。

 言われてみれば、その嫌な気配がして、こちらを監視している。

 けれどそれを見ながら、オルウェルは、


「……それでシズの周りにいるつけている人数を増やしたのか?」

「ここに戻ってきた時から、妙だったからな。お前は気づかなかったのか?」

「……昨日は一日中、エルフィンに襲われてあの部屋から出れなかった」

「虚弱だな」

「この……ふん、それだけ私はエルフィンに愛されているという事だ、フィエンド」

「物は言いようだが、それで……エルフィンに何か変わった所はなかったか?」


 その問いかけに、オルウェルはフィエンドを見る。


「何か知っているのか?」

「いや、エルフィン自体にも何らかの指令が来ていたなら、注視する必要があると思っただけだが……彼らは今回は何をするつもりなのか」

「案外お前の暗殺だったりするかもしれないな」

「そうだな」


 あっさりと同意したフィエンドをオルウェルが、深刻そうに目を細める。


「……そんな話が出ているのか?」

「いや、ただ彼らは俺の動向を監視しているから気になっただけだ。そして彼らは……シズをも見ている。もちろんエルフィンも」

「お前のほうに話は来ていないのか?」

「こちらには来ていない、そちらは?」

「こちらにも来ていない。……それにエルフィンには手を出さないといった神殿の取引相手も、変わった様子はない」

「どこかで話が止められているのか、その可能性も含めて探る必要はあるか」


 深刻そうに呟いたフィエンド。

 当たり前だ。

 フィエンドにとって大切なシズが、危険に曝されているのだから。

 けれど彼らが突発的な行動は取れないだろうとフィエンドは踏んでいた。

 フィエンドを陥れるならば、以前手痛い目に合っているのだから策を弄するだろうと。

 だがシズ自身も特別な力を持っている。

 そのために狙われている可能性は否定できない。

 最悪シズだけでも何かをされてしまう……。


「……極力シズからは離れないようにしよう。だからお前も一緒にいろ」

「……不本意だがエルフィンに何かあっては困るから、協力してやる」


 オルウェルのその言葉にフィエンドは頷き、そしてそれまでと同じようにオルウェルがフィエンドに突っかかる課外授業が始まったのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 そして待ちに待った放課後(シズ達のみ)。

 シズの顔を見た途端フィエンドがふっと優しげに微笑んだとか、そしてすぐにシズに抱き付かれて更に愛しげに頭を撫ぜていたとか、フィエンドが普通の人間のように見えて天変地異の前触れじゃないかという噂が広まるそんな一時。

 そして現在四人はリノの部屋にいた。

 ベットの上には見本のように、服が四着転がっている。

 全体の色調は黒と白。それに金や銀糸で刺繍が施されて、宝石やらなにやら飾りがあしらわれて部屋の明かりの中できらきらと光を零している。

 その色に合わせるように靴やニーソ、頭の飾りやネックレスが揃えられている。

 それもがフリルをこれでもかというように大量にあしらった作りは、リノの気合の入り方を物語っていた。

 のは良いのだが。


「待て、何で私にミニスカートを渡してくる……」

「エルフィン様にそう注文を受けましたが?」


 ギギギと、顔を蒼白にして振り返るオルウェルに、エルフィンは自愛に満ちた表情で微笑みながら、


「オルウェルの恥ずかしがる様が見たかったものですから」

「……私は、エルフィンが一度でもいいから恥ずかしがっている所が見たい」

「僕に恥ずかしい事をする気なのですか? オルウェルは」

「! そういうわけではないが……」

「恥ずかしがるオルウェルは本当に可愛いですからね。着てくれますよね?」

「何故!」

「……僕のお願いなんて、オルウェルは聞いてくれないんですね」


 悲しげにうっと瞳を涙で潤ませるエルフィン。

 その表情に強く言えなくなるオルウェル。

 これのエルフィンの計算の内だし、オルウェルもそれは分っているのだが、惚れた弱みもあってオルウェルは深々と嘆息し、


「……今回だけだ」

「ふふ、オルウェルは僕に甘いですね」

「……今回は着るから、夜のあれはもう少し手加減してくれ」

「そうですね、考えておきましょう」


 と、嬉しそうにエルフィンが答える様子に、オルウェルは一抹の不安を覚えながらも頷いた。

 ここの所、エルフィンは張り付いたような不安を感じる微笑を浮かべる事が多かったので、この程度で心から笑ってくれるなら良いだろうとオルウェルは思っていた。

 ちなみにエルフィンは女装したオルウェルは美味しそうでしょうねと楽しみにしており、手加減出来るかわからないんですよねと心の中で思っていた。

 そんな二人の様子を見ていたシズだが、そこでフィエンドに後ろから抱きつかれた。


「ちょっ……フィン、ふぁあ」


 そのままシズはフィエンドに耳を口で含まれて、歯で軽く噛まれる。

 やめてぇ、とか細い声で振るえるシズの声は、嬌声が混じっていて、フィエンドの情欲を煽る。

 なのでもう少しと、耳を弄んでから首筋にキスを降らせて、軽く舌で舐めてやるとシズという獲物はフィエンドの腕の中で小さく震えている。

 本当にシズは可愛いなと、更に先に進もうとしたフィエンドは、じっと見ているリノに気づいた。


「……何か用か」

「いえ……さすがにここで始められてしまうのも僕としては困るかなと思うわけです」

「シズが可愛いから仕方がない」


 きっぱりと言い切るフィエンドに、こんな人だったかなトリノは思いつつ、そういえばまたお預けを喰らったんだったと思い出して、それで欲求不満が溜まっているのだなー、と気づいたリノは……フィエンドに同情した。

 どう考えてもシズは分っていない。なので、


「……シズ、さっさと犯されてしまえ」

「ちょ、なんでそんな……いや、でも、フィンは好きで、だから、えっと……」

「はいはい、じゃあシズはこのミニスカートの方だね」

「なんで! そっちの長いの……」

「そっちはフィエンド様用。で、シズは多分こっちの方が可愛いよー、そうですね、フィエンド様」

「ああ」


 フィエンドは目を泳がせながら即答した。

 ミニスカートの方がシズの生足……と心の中で思ってしまったから。

 そしてそれがリノは分っているのかにまにましており、一方、シズといえば、


「うう、フィンのミニスカートが見たかったのに」


 他の人間が聞けば真っ青になりそうな言葉を吐くシズ。

 現にリノは顔を少し青ざめさせながら、


「流石にフィエンド様には似合わないと思う」

「だってフィンはこんなに可愛いのに! 絶対似合うと思う……ひあぁあ」


 そこで再びフィエンドがシズの耳を軽く舐める。

 頬を染めてふるふると震える敏感なシズに、フィエンドはとてもとても優しい声で囁いた。


「シズ、俺はそんなに可愛いか?」

「うん! こんなにきらきらして可愛くて見ているだけでいい気持ちにさせられる綺麗な人そうはいな……フィン?」

「……今すぐベットに引きずり込んで、俺という存在がシズにとってどういう存在なのかを分らせてやる」

「やめてぇええ、待って、なんで!」

「全部シズが可愛いのが悪い。……今回ばかりは酷くしてしまうかもしれないが、憎らしいくらい可愛いシズが全部悪いから仕方がないな」


 と、暴れだすシズを捕まえて、抱き上げてからこの場を去ろうとするフィエンド。

 だが、救いの手は意外な場所からやって来た。


「フィエンド、貴様だけ逃げられると思うなよ」

「邪魔をすると、容赦をしないぞ」

「ふん、まだシズは私の同室者のままだという事を忘れるなよ」

「……そうだな、一度ここでけりをつけるのも良いかもしれないな」

「ほう、珍しく私の挑発の乗るんだなフィエンド」

「シズに関して俺は心が狭いんだ。……言った事を後悔するが良い」


 そんな一触即発の雰囲気の中、その空気を読まずにエルフィンはオルウェルの服に手をかけた。

 エルフィンのその迷いのない、そして手早い服の脱がせ方にオルウェルは冷や汗をたらしながら、


「エルフィン、私はこれから……」

「駄目ですよオルウェル。そんな事を言って逃げようとしても」

「い、いや、だから……」

「さあ脱ぎ脱ぎですよー。シズもフィエンドの服を脱がすお手伝いをしてあげてはどうですか? 色々役に立ちますよ?」


 顔を赤と青の両方にくるくると変えながら焦るオルウェルをエルフィンは楽しみながら、シズにどんな意味で役に立つのかはあえて言わないエルフィン。

 けれどシズは頬を赤くして、


「あう……フィンその、お手伝い、した方が良いかな?」

「してくれるなら俺も嬉しいな、シズ」

「……分った」


 これで許してもらえるならと思い、シズはフィエンドに降ろしてもらい、フィエンドの服にシズは手をかける。

 一つづつボタンをはずしていくシズなのだが、気づくとシズの指は小刻みに震える。

 何となく凄く恥ずかしい事をしている気がして、けれどただ服を脱がすのを手伝っているだけで、だから……そうシズは自分を誤魔化していたのだが、フィエンドの肌が露になっていくその様に、シズは顔が沸騰しそうになる。


「どうしたんだ、シズ」


 甘く低い声で囁かれてシズは声でフィエンドに犯されている気がする。

 しかも上半身の肌を露にしたフィエンドは妙に男っぽくて、男性的な色香とかそういったものをシズは感じてしまう。

 そんなシズの瞳に微かな劣情を読み取って、フィエンドはシズを抱き寄せ、キスをする。

 重なった唇から感じる体温もまた、シズをどきどきさせる。

 唇を離したフィエンドが見たのは、とろんと陶酔したようなシズ。

 何処か物欲しげな様子に、再びベットに引きづりこもうかどうか迷う……までもなく連れて行こう、とフィエンドが思考を放棄した所でエルフィンが、


「シズ、このままベットに連れて行かれてしみますよー」

「うわあああ」


 焦ったように、シズがフィエンドから体を放したのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 フィエンドがいじけたようにロングスカートの服を着て、シズはミニスカートの服を着る。

 そしてエルフィンは嫌がるオルウェルに無理やり服を着せた挙句飾り立てながら、ミニスカートを必死で引っ張るオルウェルを堪能していた。

 その顔は、うっとりとしており、


「本当にオルウェルは可愛いですね」

「……エルフィン、時々思うのだがエルフィンの私に対する感性はおかしいと思う」

「そんな事を言うオルウェルも可愛いですね。もっと苛めたくなってしまう」


 オルウェルが顔を蒼白にして黙った。

 とはいえ、オルウェル自身は確かに普通の格好では男らしいが、目鼻立ちが整って、このような服を着て飾り立てると確かに綺麗な姿になっていた。

 それを認めたくない面もあるのだろう、オルウェルはエルフィンに必死になって抵抗していた。

 そんなオルウェルに、更にエルフィンが欲望を感じていたりするのもまたいつもの事。

 その一方でシズはフィエンドの女装姿に目を奪われていた。


「フィン、綺麗……」

「シズの方がずっと可愛いし綺麗だよ」

「そんな事ないよ。だって昔からフィンは僕にとって、とても綺麗で可愛い大好きな人だもの」


 その言い回しは嬉しい反面、綺麗で可愛いという下りにフィエンドは不安や苛立ちを覚えてしまう。

 もう少しシズは俺の事を男として意識してくれないんだろうかと、そんな気持ちに一瞬させられるも、シズが楽しそうに目を輝かせているのでどうこう言えない。

 確かにこの服は趣味が良いといわざる終えない。

 見かけでは綺麗な雰囲気にフィエンドはさせられている。と、


「ふん、何だその格好は。本当に女みたいだな、良く似合っているぞ」


 そう、同じく綺麗にまとめられたオルウェルが、自分の事を棚にあげてフィエンドを指差して不敵に笑う。

 だがオルウェルのその姿はオルウェル自身が言っていたそのものだったので、とりあえずフィエンドは相手にしないことに決めた。


「それでシズ、この髪飾りが可愛いな」

「こら、無視するなフィエンド!」

「うん、僕に似合うって……リノが。でもこんなレースやリボンが一杯付いた物なんて……」

「だから私の話を聞け! 無視するな!」

「そんな事はない。シズは何をつけていても可愛いよ。シズ自身が可愛いんだから」

「おい! いいかげんにし……エルフィン? ……ふぎゃああ」

「そんな事ないよ……でも、ありがとう」


 シズはフィエンドにそう微笑む。

 シズとフィエンドはこの世界にお互いしかいないように、相手だけを見つめていた。

 ちなみにオルウェルは、エルフィンに襲い掛かられてキスされていた。


「ああ、もうこんな駄目な所まで可愛いなんて、オルウェルは一体何処まで僕の心を捉えて惑わせば気がすむのですか?」

「いや、そんなつもりは……」

「このまま全部僕のものにしてしまえたなら良かったのに」

「……エルフィン?」


 そこで寂しげな表情をしたエルフィンに、オルウェルが疑問を呈するとすぐに微笑み……鬼畜な表情になり、


「こんな貴方から……くすっ、どうなるでしょうね? 可愛い……」


 両手でオルウェルの顔を包み込むように掴みながら、エルフィンはうっとりと微笑んだ。

 これ以上、激しい事は止めて欲しいと言うべきだろうか迷った所で、リノが声を上げた。


「はーい、それじゃあ記念撮影しましょう!」

「……この恥ずかしい格好を残す気か?」

「どうしたんですかオルウェル様、スカートを手で押さえながら恥ずかしがって。こういうときはピースですよ?」

「ふざけるな! 元はと言えば……エルフィン?」


 リノに突っかかろうとしたオルウェルはエルフィンに腕を組まれた。

 それがあまりにも嬉しそうだったのでそれ以上いう事も出来なくなり、結果として真ん中にエルフィンとシズ、両端にフィエンドとオルウェルが並ぶ事となった。

 そして写真が撮られてから、エルフィンが思いついたように、


「ついでですから、他の女装が見たいですね、オルウェルの」

「ま、待て、流石に……」

「……いいですよ、オルウェルにとっては僕なんて、どうでも良い存在なのですね?」

「分った、着る。だが……フィエンド、貴様も道連れだ!」


 とオルウェルは叫ぶが、フィエンドは鼻で笑い、


「付き合う義理はないな」

「この……」


 そこでシズがフィエンドをじっと見上げた。

 その瞳が何を物語っているのかが分り、けれど口に出してお願いしてもらおうと思って、


「シズ、俺にどうして欲しいんだ?」

「……フィンにも別の服を着たのを見せて欲しいかなって。だめ、かな?」

「いいぞ、シズの願いなら。但し、俺も後で……シズに着て貰うからな?」


 そこでシズは、以前フィエンドの屋敷にあった服の数々を思い出して、どうしようかと思って、そして下手をするとそれを着て……。

 けれどフィエンドが今度は逆にシズに期待するような眼差しを送り、シズは顔を赤くして焦って……でも、こんな機会はなかなか無いとシズは思って、


「う……あう……分りました」


 そう頷いた。そこでシズがエルフィンに手を引かれる。


「じゃあ外でお待ちしましょう。それから見るのも楽しいでしょうから」

「ぜひ、そうしてくれ!」


 オルウェルが即座に反応した。

 これ以上恥ずかしい思いは嫌だったからなのだが、エルフィンは楽しみにしていますよとシズを連れて部屋を出て行く。

 そんな二人が部屋を出て、少ししてから即座にフィエンドも外に出て、そこにいた取り巻き達に命令をする。


「シズ達をつけろ。出来る限りの人数で、もし何かあったらそれで対応しろ」

「フィエンド? だが……」

「エルフィンが妙にはしゃぎすぎだと思わなかったか? お前に対して」

「いや、二人っきりの時は、いつもあんなだったから……気にしすぎでは?」

「俺が見ている前ではしていなかったという事だろう、どの道、何も無いに越した事ない。それに……この状況を作り出したのはエルフィンだ」

「だったら私達も行くべきか?」

「この格好を、シズ達以外に見られたくない」


 きっぱりと言い切るフィエンドに、オルウェルは少し黙ってから、


「……まさか恥ずかしいのか? お前が」

「お前はその格好で、道を歩いて平気か?」

「……そうだな、それに関しては同感と言わざる終えない。では、とりあえず一度服を着替えて、二人を追いかける、それでいいな?」


 それにフィエンドは頷く。

 そんな様子を見ながらリノは、なんだか大変な事になってしまったと思ったのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



「エルフィン、何処へ行くの?」

「着替えには時間がかかりますから、散歩をしましょう?」

「……エルフィン」

「なんですか、シズ」

「……なんでもない」


 おかしなシズと笑うエルフィンに、シズは心の中で、駄目だよと思う。

 そちらに行くのは、駄目なのだ。

 なのに、ここで断ち切らなければ何時断ち切るのだろうという、黒々とした糸がエルフィンに絡み付いている。

 それはシズにも触手を伸ばすが、この程度は細すぎてシズを縛り付けるには敵わない。

 だから、シズはついて行く事にした。

 エルフィンは友達だから。

 けれど同時にそれはシズを危険に曝す事になり……。


――フィンにまた心配かけちゃうな。


 と思う。現にシズ達を追ってくるフィエンドの取り巻きらしい気配を感じた。

 ここの所、シズの感覚は鋭敏になっていて、もう少し下げないとなとシズは思う。

 フィエンドと想いが通じ合ってそれが強く結びついてしまったから、たがが外れて来ているのかもしれない。

 シズは平凡で目立たない普通の存在なのだから。


 そこでエルフィンが立ち止まる。

 なのでシズも立ち止まると、エルフィンはシズに振り返る。

 その顔は笑っているが、泣いているように見えた。

 そんなエルフィンはシズに一言。


「……シズ、貴方を“神殿”に連れて行きます」


 その言葉と同時に、見知らぬ、けれど気持ちの悪さを感じる人物達が現れたのだった。





 そしてフィエンドの取り巻きが駆けつけた頃にはエルフィンとシズの姿は、何処にもなかったのだった。




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