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MRL  作者: 化琉壮一
第四章:XX45年5月

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XX45年5月21日『カステル都市群総合原子研究所』:第二実験:転送路A-01セクター2

転送路A-01セクター2内部

 モニター内で二つの軌跡が重なる直前、トンネル内は未だに静寂を貫いていた。数十キロにも及ぶ真空トンネルの転送路。その中心動くものは一つもない。ただ超伝導磁石だけが、磁場を展開し、粒子ビームを待ち続けていた。しかしその静寂は一瞬にして破られる。左右の加速路から、二本の粒子ビームが転送路へ突入したのだ。ビームは空間そのものを切り裂くかのような勢いで真空トンネルを駆け抜けていく。

超伝導磁石が形成する磁場さえも、揺らぐかのようなエネルギーと速度を持っていた。そして粒子ビーム同士は機械の導き出した地点に寸分も狂わず到達した。

 通常の原子加速器では、静止した標的、あるいは低速の粒子へ高速粒子を衝突させることで融合やエネルギー実験を行う。だが、この実験は従来の実験とは一線を画していた。双方の粒子ビームは、どちらも光速に限りなく近い速度へと加速されると同時に、人類がこれまで扱ったことのないエネルギーをその内部に込めていた。

 互いに真正面からぶつかる対向速度は、理論上の想定値すら大きく超えていた。そして転送路中央部で、二本の粒子ビームが完全に重なった。ただ、音は響かなかった。それは内部が真空だからではない。衝突の、核融合の生み出すあまりにも莫大なエネルギーが、わずか一点へ圧縮されているからだった。

 刹那、衝突点から白を超越した蒼白い閃光が放たれる。それは光というより、エネルギーそのものがそこから溢れ出したせいだった。圧縮されていたエネルギーは一瞬で解放され、球状のエネルギー波となって転送路、そして加速路全域へ広がっていく。

 その波は超伝導磁石、真空容器、重コンクリート製の隔壁を容赦なく貫通しながら加速路全域へ伝播していく。臨界を超えたエネルギーは地下構造そのものを崩壊させ、地表に一本の巨大な断裂を刻み込んでいく。

 衝突を示す警告が表示されてから、一秒も経たずに地下深くで発生した衝撃は、研究所全体を襲った。

 轟音とともに床が激しく崩壊を始め、制御室全体が大きく揺れる。壁や天井にも無数の亀裂が走り、照明は明滅を繰り返した。そしてガラス越しに見える加速器トンネルの奥からは、目を焼くほどの蒼白い閃光が溢れ出していた。その光はただの光では無かった。地下深くで解き放たれた莫大なエネルギーが太陽のような光量を持ちながら、加速路を通して地上へ漏れ出しているのだった。

 次の瞬間、さらに激しい衝撃が研究所全体を襲う。制御卓は軋みを上げ、モニターが次々と倒れる。天井からは配管や照明器具が落下し、壁面を覆っていた重コンクリートにも崩落が広がり始めた。

「衝突エネルギー総量……計測できません」

 研究員の震える声が制御室に響く。しかし、その報告に応える者はいなかった。誰もが巨大モニターを見つめていた。そこに映っていたのは、単なる爆発では説明できない異常な現象だった。衝突地点を覆う蒼白い光は、消えるどころか刻一刻と輝きを増している。

 まるで衝突が終わってもなお、莫大なエネルギーを生み出し続けているかのようだった。

 その時、施設内放送が突然割り込み、耳をつんざく警報音とともに機械的な音声が流れ始める。

『全職員に告ぐ。直ちに研究所より退避してください』

『これは最終退避命令です』

 無機質な音声は、激しく軋む研究所の中で何度も繰り返された。そんなアナウンスと共に、モニターは光を落とした。それは役目を終えたからのように思えた…

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