荒廃した街
がれきの積もった都市を俺は歩いていた。新たな一歩を踏み出すたびに、辺りのがれきが音を立てて砕け砂埃が舞った。風が吹くたび、辺りに刺さっている錆びた鉄骨が低く唸った。それはビルであったものの残骸だった。今ではビルがあったころの都市を想像することは難しいくらいに荒廃しきっていた。辺りの風景からは当時のような文明の光は一筋も感じられない。今、目の前にあるそれは、かつての文明の死骸以外の何物でもなかった。
「XXXX年X月X日…付近の気圧や風向から今日は一日中霧が滞留しそうです。視界の不明瞭さは一日中続きそうですね」
後方から、無機質だが妙に落ち着いた声が響く。自立型AIドローン、Alpha312-A。現在、飛行ユニットを稼働させるだけの電力は賄えず、今はリュックの上に括り付けられていた。
「これくらいの霧だったら歩くための障壁にはならない。付近の建築物の残骸が見えるだけ、まだましだ。もっと濃霧だったらほんとに先が見えなくなる」
俺は古びた地図端末を確認する。そこには目的地までの距離と想定到着時間が書かれていたがそれは今では参考程度にしかならない。端末には目的地、
――セストレアまで、残り約一二四二キロ。
そう映し出されていた。
「到達予測が算出できました。現在の移動速度では、最短で約百五十六日ほどの旅になりそうです。途中の居住区での物資補給が前提となります」
「分かっている。そんなに急いでいく必要もない。別にMRLが逃げることは無いだろう」
その言葉に、Alpha312-Aは一瞬だけ沈黙した。
「……壮士。あなたは本当に、Moon Ling Lineのシステム再起動が可能だと考えているのですか。もうシステムが停止してから数十年も経過しています。今稼働する可能性も100%ではありません」
俺はその場で立ち止まり、空を見上げた。
空は雲と霧によって隠されていて今は月を見ることは叶わない。それでも、この空の先にあるにリング状に連なる太陽光パネルの姿を、俺は正確に思い描くことができた。
「俺は『可能だった』側の人間の一人なんだ。あの月面太陽光パネルのプロジェクトを研究していた研究チームの一人。リング自体もその送受信システムも…」
「しかし…唯一電力を受信できる都市であるセストレアはここからはとてつもなく離れています。文明が崩壊してしまった今ではそう簡単に到達できる距離ではありません」
「こうやって一歩ずつ歩き続けていたらいつかは着くんだ。その時まで歩みを止めなければいいだけの話だ」
そう言いまた目的地へと歩みを始めた。
「それに今では誰もあのシステムを再起動できない。だからこそ私が起動させないといけないんだ。一度潰えた文明の灯りが、勝手に戻ることは無い」
Alpha312-Aに付属されている小さな太陽パネルが、かすかな光を反射した。
「了解しました。進路をセストレアへ再設定し再度経路を確認します。」
「…」
「……」
「経路を再確定しました。旅路の記録を開始します…」
荒廃した世界に、二つの影が伸びていく。その影は月へと繋がる
――ただ一本の道を目指して。




