第5話 影法師の残滓、街へ
翌日の夜勤。
コンビニに入ると、空気がどこかざわついていた。
表通りを歩く人影が、妙に足取り重く、視線が空ろなのだ。
「……感じるか?」
俺は小声で問う。
美咲が頷き、スマホを握りしめた。
「うん。昨日の“影”と同じ気配。街に広がってる」
佐久間さんは苦笑した。
「俺は霊感とかねーけど、客の目が虚ろなのは分かるな。……新人、これってヤバいんだろ」
「ええ。影法師の残滓に操られている。放置すれば街ごと呑まれる」
胸ポケットの魔王の角が、警告するように熱を帯びていた。
深夜一時。
自動ドアが開き、数人の客が同時に入ってきた。
学生、サラリーマン、主婦――だが全員の瞳が虚ろに濁り、まるで操り人形のように商品棚を歩く。
「どうぞ……どうぞ……」
同じ言葉を繰り返しながら、手当たり次第に商品を籠に放り込んでいく。
俺は奥歯を噛み締めた。
本来は守るべき言葉が、操りの呪文に歪められている。
「影法師の残滓が……“どうぞ”を逆手に取ってるのか」
影は商品棚の下に広がり、黒い鎖を伸ばしていく。
美咲がスマホをかざし、必死に撮影を続ける。
「……パターンがある! 鎖は人の“躊躇”に反応してる!」
「躊躇?」
「列に並ぶか迷った時とか、支払いをためらった時とか! そういう“迷い”に鎖が絡みついてる!」
佐久間さんが舌打ちした。
「なら答えは簡単だろ。迷わせねぇで順番を回す。コンビニ式“どうぞ”だ」
俺は頷き、レジ奥から札の束を取り出した。
「――どうぞ、順番に!」
札を配り、声を張る。
影に操られた客たちが札を受け取った瞬間、鎖が揺らぎ、緩んだ。
一人、また一人と虚ろな瞳に光が戻る。
「ありがとう……」
小さな声が漏れた瞬間、鎖が霧散した。
――“どうぞ”は影に対抗できる。
だが、全員を救うには数が足りない。
そのとき、通りの向こうから叫び声が響いた。
「助けてくれ! 子どもが、影に……!」
俺たちは一斉に顔を見合わせた。
コンビニの外、街全体に影が広がり始めている。
美咲が震える声で言う。
「勇者……いや、悠真。私たちも行くよ」
佐久間さんはポケットから懐中電灯を抜き、笑った。
「夜勤仲間の出番だな。影相手に“レジ打ち魂”見せてやろうぜ」
俺は深く息を吸い、胸ポケットの破片を押さえた。
――戦場はもう、店内だけじゃない。
「行こう。勇者バイトチームで、街を守る」
(※次回:第6話「影との市街戦――勇者バイトチーム、始動!」へ続く)




