第4話 勇者バイト、仲間バレから始まる夜
沈黙が重く降りていた。
深夜のコンビニ。蛍光灯の白い光の下で、佐久間さんと美咲が俺を見つめている。
胸ポケットの中で、魔王の角の破片が脈打つ音が妙に大きく響いた。
「勇者……なんでしょ?」
美咲の言葉は、疑いではなく確信に近かった。
俺は一度だけ深呼吸し、観念したように口を開いた。
「……五年間、異世界で戦っていた。魔王を討伐して戻ってきたんだ」
二人は目を見開き、顔を見合わせた。
佐久間さんが乾いた笑いを漏らす。
「……夜勤の疲れで幻聴聞いてんのかと思ったけど、今の“客”を見たら信じるしかねぇな」
美咲は腕を組み、じっと俺を観察していた。
「じゃあ、昨日の影みたいな男も……」
「ああ、魔王軍の残党。こっちの世界まで追ってきたらしい」
その瞬間、彼女の表情が決意に変わった。
「なら私も手伝う。心理学ゼミの知識くらいは役に立つでしょ」
「いや、危険だ」
「夜勤ってそもそも危険じゃん。万引きとか酔っ払いとか。それに比べれば魔族でも一緒だよ」
論理が無茶苦茶だが、妙に説得力があった。
佐久間さんが頭を掻きながら言った。
「お前ら、まじめにやる気か……。まあ俺も、夜勤十年やってりゃ多少の修羅場は慣れてる。勇者のサポートくらいならしてやるさ」
思わず言葉を失った。
――勇者の仲間。もう二度と得られないと思っていた存在が、今また目の前にいた。
「……ありがとう」
そのとき、倉庫の裏口から冷気が吹き込んだ。
佐久間さんが顔をしかめる。
「おい、誰か裏口開けっ放しにしたか?」
次の瞬間、影が床を這い、冷たい声が響いた。
「勇者……仲間を得たか」
倉庫の奥から、昨日の影法師が姿を現した。
だが今度は一体ではない。三つの影が重なり合い、人の形を作っている。
「ッ……!」
俺は反射的に【身体強化】を発動し、前に出た。
「美咲、佐久間さん、下がって――!」
影法師が腕を振り上げると、黒い鎖が床を走った。
俺はトングを逆手に構え、鎖を蹴り飛ばす。
火花のような霧が散り、広がろうとする影を一瞬だけ止める。
「すげぇ……!」
佐久間さんが目を見開く。
「勇者ってこういうことなんだ……」
美咲は呟きながらも、ポケットからスマホを取り出し、鎖の動きを記録し始めた。
「データに残せば、弱点が分かるかもしれない!」
俺は鎖を払いながら、叫んだ。
「二人とも、危険を冒すな!」
「いや、もう冒してる!」
美咲の返事は妙に明るくて、恐怖を打ち消すようだった。
影法師が咆哮し、倉庫全体を覆おうとする。
俺は胸ポケットから“どうぞ札”を一枚取り出し、全力で魔力を込めて投げた。
白い紙片が宙を舞い、影の中心に突き刺さる。
「どうぞ、消えてくれ!」
札が光り、影が一瞬だけ霧散した。
静寂。
倉庫に残ったのは冷気と、札の焦げ跡だけだった。
佐久間さんは呆然とした顔で笑った。
「勇者と一緒に夜勤……すげぇバイト先に当たったな」
美咲は俺に視線を向け、にやりと笑った。
「これで秘密は共有。勇者チーム、結成ね」
俺は深く息を吐き、頷いた。
――勇者バイト。
新しい戦場に、仲間ができた。
(※次回:第5話「影法師の残滓、街へ」へ続く)




