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第10話 偽勇者VS本物、拡散戦争

 深夜二時。

 コンビニの外に設置された大型ビジョンが、不気味に点滅していた。

 映し出されたのは――俺の姿。

 だが、その顔には白い仮面が貼り付いていた。


「勇者を見よ。

 彼は嘘をつき、影を隠している」


 声は街全体に響き渡り、スマホ画面にも同じ映像が同期していく。

 人々が立ち止まり、虚ろな目で画面を見上げ始めた。


「……出やがったな。偽勇者」

 俺は胸ポケットの破片を握りしめた。

 脈打つ熱が、影の発信源がすぐ近くにあることを告げている。


 美咲がタブレットを睨み、素早くキーを叩いた。

「データを追ってる……! 発信源は、この街の公園の地下! 旧ケーブル室からだ!」


 佐久間さんがコーヒー缶を握り潰す勢いで言った。

「よし、勇者バイトチーム、出張だな」


 公園の地下に降り立つと、そこは朽ちた配電室だった。

 壁一面に貼り付けられたスマホやタブレットが、不気味な光を放ち、同じ映像を流している。

 そして中央に――仮面をつけた“俺”が立っていた。


「勇者。

 本物を名乗るなら、証明してみせろ」


 偽勇者の声は、画面を通じて街全体に拡散されている。


「証明……か」

 俺は一歩踏み出し、札を握りしめた。

「なら見せてやる。勇者は仮面じゃなく――声と行動で証明する」


 影の仮面が嗤い、黒い鎖を四方へ伸ばす。

 スマホ画面からも鎖が溢れ、街中の人々の目を縛ろうとする。


「どうぞ……どうぞ……」

 囁きが合唱のように広がり、都市そのものが影に呑まれかけていた。


 その瞬間、美咲が叫んだ。

「悠真! “ありがとう”を重ねて! ポストの声を上書きできる!」


「了解!」

 俺は札を広げ、全力で声を張り上げた。


「――どうぞ!」

「ありがとう!」


 美咲と佐久間さんも続け、三人の声が地下室に響き渡る。

 札が光を放ち、黒い鎖を切り裂いていく。


 偽勇者が顔を歪め、最後の力で仮面を剥ぎ取ろうと迫ってくる。

 俺は一歩踏み込み、札をその胸に叩きつけた。


「どうぞ、帰れ!」


 白い光が爆ぜ、偽勇者の姿が霧のように崩れていった。

 画面の中の映像も途切れ、街に静寂が戻る。


 地上に戻ると、人々が目を瞬かせていた。

「今のは……夢?」

「いや、本当に勇者が……」


 ざわめきはすぐに広がり、スマホのタイムラインには「ありがとう勇者」「深夜に救われた」という書き込みが溢れた。


 佐久間さんは煙草を取り出しかけ、思い直して胸ポケットに戻した。

「新人……いや、勇者。これで少しは証明できたな」


 美咲は満面の笑みでタブレットを掲げた。

「トレンド一位、“偽勇者撃退”。あなたの勝ちだよ」


 だが胸ポケットの破片は、まだ赤黒く脈打っていた。

 偽勇者は倒れた。だが、それはほんの前触れにすぎない。


 魔王の影は、この世界に確実に根を張っている。

 そして――俺たち勇者バイトチームの戦いは、これからが本番だった。


(※次回:第11話「魔王の残響、街に忍び寄る」へ続く)

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