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シボラの雪  作者: 新条満留
第三章 戦いの中へ
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フィオナ

フィオナ


 フィオナはCICでデータ解析を行っていた。しかし、彼女の心はシャナスの身体に関する結果報告のことで一杯だった。

 「どうしてなの? 彼は死んでいる。でも、生きている。それって…」

 彼女の頬を止めどなく涙が伝い、肌理きめの細かい白い肌が水に濡れていた。

 彼は救助されてから数日間の集中治療を受けたが、身体的な損傷が酷く心停止してしまった。だが、それにもかかわらず彼の身体は回復し続け、動くことも話すこともできるようになった。彼の母から聞かされた検査の結果、アルフ細胞が100%になり、完全な『人工生命体』になったということだった。心臓以外の身体機能は働き続けているが、心臓だけが停止してしまっている。その原因も分からないという。だが、不思議なことに心臓の働きなしに血液は循環し続けているらしい。それが、脳の働きによるものなのか、アルフ細胞の働きによるものなのかは不明だという。ただ、心臓の細胞に変化が認められ、今後の経過観測が必要だという。

 フィオナは生きているということが何なのかを考えた。それは心があるということなのか、それとも身体が機能しているということなのか。彼はこの一ヶ月の間で身体が回復し、ほぼ日常的な生活が送れるようになった。だが、彼の身体はもう純粋な人間の性質を失ってしまっている。遺伝子研究所では、シャナスのような生命体を『フィーネ』と名づけた。それは『究極の人間』という意味だという。

 今後も彼の身体は検査を繰り返され、シボラ人の将来のために今後も起こり得る同じような事態のため、モルモットとして扱われることになるだろう。

 「私のシャナス。あなたがどんなことになろうと、あなたは私のもの。絶対に他の誰にも渡さない。私が生まれたのは、あなたがいたからなの。あなたのためなら、私は他の全てを滅ぼすこともできるわ」

 フィオナのライトブルーの瞳は光を帯びていた。

 「……今、私は何を言ったの…? …私は…一体誰なの…?」

 フィオナは身震いすると自分の身体を抱きしめた。

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