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147:女子会

「カイトぉ。カイトのととさまとははさまはどこにいるぉ?」


 それは唐突な質問だった。

 最近はアオイを連れてレベリングする事が少なくなったが、何も置いてきているわけじゃない。たんにアオイが月光の森に頻繁に戻っているだけだ。

 今日も朝飯を食ってから、それぞれ狩り場と森とに別れる事になっていたのだが、その飯の最中にこの質問だ。

 さて、どう答えたものか……。


「いないの?」

「いや、いる。いるけど……うーん、なんつぅうかなぁ」


 どこに――という質問の回答に困ってしまう。

 リアル世界になんて言っても、こいつはイベントNPCだからこの世界こそがこいつにとっての現実リアルだしなぁ。


「アオイちゃん、どうしたの急にそんな質問して」

「エリュのととさまとははさまはどこにいるぉ?」

「はうっ。今度は私に……え、えーっとね……そうねぇ、遠い所、かしら?」


 必死に誤魔化すエリュテイアだが、そう答えるしかねえよなぁ。

 

 もしかしたら今、リアルの俺の傍に両親がいるかもしれない。

 だが、声を掛ける事も触れることもできやしないのだ。そこにいることを確認する術すらないのだから。

 近くて遠い場所。

 それが今の俺たちにとっての現実世界だ。


「カイトのととさまははさまも遠い所?」

「あぁ、そうだな。遠い所だな」

「そっかぁ。アオイと一緒だねぇ。じゃあ、カイトもととさまやははさまに会いたい?」

「んー、会いたいかもなぁ。ずっとお袋の飯を食ってないし。親父とも……親父とは特になんも無ぇか」


 別に共通の趣味がある訳でもなく、よく喋るという訳でもなく、たまに同じテレビ見ながらつっこみ合いしたりとか、そんぐらいか。

 でもそんな他愛もない日常が、今は凄く懐かしく、恋しくもある。


「カイト君って案外マザコンなんだね」

「お袋の味か。羨ましいのである。儂は一人ぐらしじゃから……うっうっ、かーちゃん」

「私も一人暮らしだが、母はどちらかというと料理がヘタだったのでお袋の味とやらはノーサンキューだな」

「私はお母さんのご飯、好きだったなぁ〜」

「私もぉ〜」

「カイトはマザコンっと。メモメモ」

「メモってんじゃねえよっ。なんで女子が親の手料理好きだって言ってもスルーなのに、俺だけマザコン説なんだよっ」

「カイトのお母様は美人デスか!?」

「死ねよ色欲破壊僧」


 さっさと飯食って解散しやがれっ。

 まったく暇人どもめ。

 明後日には五尾討伐を開始するって時によぉ。


 そう、今日のレベリングで俺のレベルも遂に70になる。この家に住む連中のほとんどが70前後だ。

 大手ギルドの連中もほとんどが似たようなレベルで、そろそろ本腰を入れて五尾討伐にという話しが決まったところだった。タウン内でもその話題でもちきりだ。

 このイベントを終わらせれば、ログアウトも可能に――

 いや、簡単にはいかないかもしれない。でもマザーは基本的に俺らプレイヤーを楽しませる事をモットーにしているから、そこを突いて解らせれば説得も可能なんじゃないかと思っている。

 実際、狩りにも行かずずっと引篭もってる連中なんかもいるし、そこだけ見れば楽しいなんて雰囲気じゃない。

 そうまでして俺らをゲームに閉じ込めたって、それが本当の楽しいになるのか? ってことだ。


「よし、飯終わりっと。受付嬢、いいか?」

『はい。ワタクシも食べ終わりました』

「アオイは?」

「むぅ〜、まだぁ」

「そうか。じゃあ秀さんか博子さんあたりにまたタウンから出して貰ってくれ」

「あいぉ〜」


 アオイの返事を聞いてから、俺と受付嬢は席を立ち玄関から出て行く。

 アイテム整理は前日のうちに済ませてある。あとは狩り場に直行するだけだ。






 夜。無事にレベルを70にした俺と受付嬢は、いつもより少し早めに帰宅した。

 玄関の扉を開いて聞こえてきたのは――


「私六月!」

「えーっと、六月はムーンストーンやパール、あとシトリンっていう黄色い透明な水晶ね。でもこのシトリンって宝石メーカーによっては十一月の誕生石になってたりするんだけど」

「へぇ。誕生石って宝石屋さんによって違うんだ」


 誕生日話しか?

 コスプレオタクの楓を中心に、主に女子が集まって楽しそうに会話をしている。


「誕生日かぁ。俺はもうとっくに終わっちまったな」

『カイト様の誕生日はいつなのですか?』

「あぁ、俺は八月三十日。夏休みが終わる直前で、宿題に追われる時期だったな……」


 お陰で誕生日をあまり喜べなかった。

 誕生日が来るイコール夏休みがもうすぐ終わるだったからな。


『問題は早期に解決されるほうがよろしいかと』

「……もう学生じゃないし。だいたい宿題を先に終わらせる奴なんて、都市伝説だっての」

『ふふふ』


 糞。笑われちまった。

 そういやこいつにも誕生日なんてのがあるんだろうか?


「なぁ、受付嬢。お前が誕生したのって……誕生日ってあるのか?」

『ワタクシ……ですか?』


 暫く考え込んだ後、


『カイト様から名前を頂いたあの時あの瞬間が誕生日だと思います』


 ……。


『カイト様、尻尾が――』

「言うなっ! それ以上言うなっ」


 ぶわっとなった尻尾を抱え込み、これ以上悟られないよう皆の輪の中へと逃げ込んだ。

 が――


「あらカイト。最近めっきり見かけなくなったけど、尻尾は健在だったのね」

「どうしたんですか? 今日のはまたいつも以上にぶわーですよ、ぶわー」

「静電気だよっ」


 未実装です、本当にありがとうございました。


「ねっねっ。受付嬢さんは何月生まれ?」


 乙女心はうつろぎやすいっていうが、もう俺の尻尾はどうでもいいようだ。

 それはそれでちょっと寂しく思うわけで。


『ワタクシは十二月生まれです。オープンベータテスト初日が誕生日でした』

「へぇ。じゃあ十二月二十四日だったのね。十二月の誕生石って?」


 とエリュテイアが楓に向って尋ねている。

 誕生石ってなんだ?


「えーっと、十二月はタンザナイトやターコイズ、ラピスラズリなんてものがありますね」

「やっぱり複数あるんだぁ」

「タンザナイトを誕生石として紹介していることが一番多いですね」


 タンザナイト……なんか強そうだな。ラピスなんとかってのはなんとなく聞いた事ある名前だが。

 楓のうんちくは続く。


 タンザナイトはタンザニアで取れる鉱石らしい。濃い青紫っぽく見えるっていうが、当てる光の種類で見え方も違ってくると。

 美的感覚を磨くとか、持ち主の魅力を引き出すとか、ネガティブからの〜ポジティブチェンジだとか、そういう意味を持った石だとか。

 石を持ってるだけでポジティブになれるんだったら、誰も苦労はしねぇっての。


 次、ターコイズ。

 スカイブルーの不透明な石で、勇気と行動力をもたらすとか、人と人との絆をパワーアップさせるのだとかなんとか。

 本当かよ?


 最後にラピスラズリ。

 澄んだ夜空のような青い石。夜空ってんなら黒か、いいとこ紺だろ?

 幸運をもたらす石、内外の邪気を払いのけ危険を回避して進むべき道を照らしてくれる? 俺の進むべき道もよろしく頼むよ。

 ただ幸運を運ぶだけでなく、持ち主にとって本当の意味で成長できるよう、試練を与える石でもある――と。

 あとコミュ力アップ効果もあるとかで、まじ俺にくださいっ。


 実際に楓がそれらの石を女子たちに披露している。

 採掘で取れるらしく、コレクションにしているんだとか。

 へぇ、タンザナイトってのとラピスラズリはまぁ綺麗なもんだな。

 ナイトのほうは半透明で宝石らしく、ラピスのほうは数珠のようだ。

 

 なんとなく、タンザナイトの色は受付嬢の目の色に似ているな。ラピスラズリのほうもあいつの髪の色に似ている気が……。

 そういうのを狙ってデザインされてんのか?

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