143:告知
「えー、つまりはですね。ミゼットの町から北東の森に出現した、巨大狐の正体は――」
住民食堂に集まった面々に説明する。
中には眠そうに目を擦っている奴等もいた。
が、巨大狐のビックなサイズを聞くと、さすがに目を丸くして眠気も吹き飛んだようだ。
で、その狐の正体ってのが。
「アオイのととさまだよぉ」
泣き止みはしたが、まだどこかテンションの低いアオイがぼそりと呟く。
ざわつく食堂内。
まぁそうだよなぁ。まさか新しいレイドモンスターがアオイの親父さんだなんて。
いや、もしかすると――
俺が一つの予感を打ち立てたとき、遂に待ちに待った音が鳴り響いた。
運営――この場合人工知能マザーテラだが――からのお知らせメッセージだ。
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日頃より『Let's Fantasy Online』をご愛好くださいましてまことにありがとうございます。
新たなコンテンツ実装のお知らせをいたします。
これまでに無い強敵の出現。
世界を揺るがすその存在を倒したとき、全ての願いは叶えられん。
全プレイヤー参加型の巨大モンスター討伐クエストの実装。
レイドモンスターを遥かに凌ぐその力に勝利したとき、上位プレイヤーの願いをそれぞれ一つずつ叶えます。
さぁ、今こそ全プレイヤーが力を合わせる時!
第一弾のモンスターは既にどこかのフィールドにて君臨。
その名を――
『忘却と悲壮の聖獣・狐影』
勝者はプレイヤーか。
それとも聖獣か――。
今度とも『Let's Fantasy Online』をよろしくお願いいたします。
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メッセージを見て直ぐに思ったのは「しめしめやったぜ」という気持ち。
次に思ったのは――
「聖獣って……」
全員の視線がアオイに向けられる。
アオイ自身はシステムメッセージなんて見えないから、俺たちの会話をまったく理解していない。
ただ一つ。反応した言葉は――
「狐影って、名前からして狐モンスターってことですか?」
というココットの言葉。
やっぱそうだよな。そうくるんだよな。
「とと、さま……ととさまがどうしたの!?」
あぁ、これ……どう説明すればいいんだよ。
俺たちの願いを叶える為に、アオイの親父さんを倒さなきゃならないなんて。
どうやって話せばいいんだよっ。
で、誰も説明できないままその場は解散となった。
アオイには、親父さんがミゼットの町の近くにいるとだけ伝えてある。
会いに行きたいといいつつ、直ぐに「ははさまに叱られる……」と言ってしゅんとなっていた。
つまり、かあちゃんの方は事情を知ってそうだな。
明日、月光の森にいってかあちゃんに話を聞くか。




