141:今更?
要望を出そう!
という事になった。
何故かというと――
「ここでいくらグダグダ言っても聞いちゃくれないだろう。けど、ここの運営――じゃなくってシステム管理のマザー・テラは、要望にはそれなりに応えてくれてるからな」
「記憶を書き換えられる可能性もあるがな」
「ぐっ……そ、そうだけどよ。何もしないままじゃいつまで経っても俺たちはログアウト出来ないままなんだぜ」
「ん〜。どうせならさ、マザーが好きそうな展開に持っていくのはどう?」
というナツメの提案もあって、俺たちはこんな要望を出す事にした。
「プレイヤー総出で戦えるような、そんなラスボスを作って欲しい。ボクたちプレイヤーを満足させられる、最強のラスボスを」
そのラスボスを倒す事が出来たなら、ボクたちプレイヤーの願いを叶えてくれ――と。
俺たちプレイヤーが今後も【Let's Fantasy Online】を楽しむために必要な、大事なイベントにしてくれとも付け加える。
もちろん願いとは『ログアウトを出来るようにする』事だ。
共同住宅に住むメンバーで一斉に要望を送信。
その後、俺たちの記憶が改ざんされるか否か。
あれから数日。幸いな事に俺たちの記憶は残ったままだ。
その間、知り合ったプレイヤーにある言葉を伝えて回る。
ログイン祭りしようぜ!
そもそもログインした状態で、ログイン祭りとはなんぞやって話しになるんだが、これがきっかけで自分がログアウト不可状態である事を思い出す連中も多い。
当然、その事を無駄に口に出したり、騒いだりといった言動は慎むよう促す。でないと、記憶を改ざんされる恐れがあるからな。
そんな訳で、じわりじわりと俺たちは勢力図を拡大していった。
もちろんたまにやらかした奴が、次の日会うとすっかり忘れていた――なんてこともあったが。
まぁ幸いなのは、マザーテラがやってんのは記憶をすぱっと書き換えてるだけで、他のプレイヤーとの繋がりまでは調べずにいることかな。
俺たちは毎日、今日は己の番かもしれないという事を念頭に入れながら、もし記憶が改ざんされたらお互いに思い出させようという約束し、来る日に向けて備えた。
もちろん、ラスボス登場に備えて――だ。
「うーん、自分達で要望したラスボス案だけど、いざそいつの為に必死レベリングとなると――」
『ご面倒になりましたか?』
面倒?
今俺と受付嬢は二人で北東の樹海に来ていた。
対ボス戦という確固とした目標に向けて、レベリングをしまくっているのだ。
面倒?
んな訳ねーよ。
元々ネトゲでは黙々とレベリングばっかやってた俺だ。その目的もダンジョンソロ攻略のため。
あーしてこーして、ダメなら一つレベルを上げて再チャレンジ。
攻略できたときの達成感は、そりゃあいいもんだ。
その達成感を味わう為のレベリングなら、まったく苦にならねえよ。
例えぼっちでもな。
今は受付嬢というパートナーもいるし、ボス攻略という目的もある。
面倒だなんて、微塵も思わないぜっ。
この辺りに生息するモンスターはレベルが55。
ちょっとレベル差があるが、動物タイプ、植物タイプと、土属性のモンスターが多く、今手にしている火属性の短剣とは相性が抜群だ。
そのうえ、この森には毒攻撃をしかけてくるモンスターが多く、これを嫌って狩り場に選ばないプレイヤーも多い。ってことで、モンスター狩り放題な訳だ。
「ヒャッハー! 『リカバリーレジスト・ポーション』様サマだぜぇ」
『はいっ。ヒャッハーでございますね』
「いや……お前はヒャッハーなんて言葉、使わなくていいから」
『そんなっ。……ションボリでございます』
ションボリって、どこで覚えてきたんだよ。ったく。
丁寧な口調と砕けた口調がミックスされて、なんか変な事になっちまってるなぁ。
しゅんっとした顔で唇を尖らし、もじもじと身を捩って拗ねてみせる彼女。
あぁぁ、くそうっ。
可愛いじゃねえかっ。
「――ぐほっ」
『カイト様っ! どうなさったのですか、急に余所見などしてっ』
お前だっ。お前を見ていたからモンスターに殴られたんだっ!
なんて言える訳ねえだろうっ!
ぐぅー。最近妙にこいつの事が気になって仕方が無い。
ログアウト出来るようになっても、またちゃんと遊びに来るから。――そう告げたとき、こいつは本当に嬉しそうな顔をしやがった。
それからだ。意識しはじめたのは。
いや……もっと前か?
いつからだ。こいつの事を意識しはじめたのは。
い、いや。待てよおい。こいつはNPCなんだぞ。意識するって、なんなんだよ。
お、俺……
NPCに恋しちゃってんのかぁーっ!?




