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140:ご結婚おめでごふっ。

 いつの間にか全員集合しての食堂会議が始まった。


「リアルに帰りたい者はいるか?」


 という教授の言葉に、即座に反応して手を上げる連中もいる。主に女子と、リアルで大事な用を残したままゲームを始めた連中だ。

 俺はちょっと考えてから……やっぱり手を上げた。

 なんていうか、四六時中ゲームが出来る引篭もりニート様は羨ましいよなぁとか思っていたけど、本当の意味で四六時中ずっとプレイしっぱなしってのは、なんか違う気がする。

 ゲームとリアル。それを行き来しながらどうやってプレイ時間を確保するか。限られた時間でどう攻略するか。

 それも楽しみの一つだったんだなと、気づかされたよ。

 何より俺は――


「お袋の飯だっ。あれがなきゃやばいんだっ!」


 ガタっと椅子から立ち上がり思わず声を上げてしまった。

 当然、周囲からは冷たい視線が……。


「お母さんの手料理って、マザコン」

「カイトは、マザコン。っぷぷ」

「意外だったな。まさかお前みたいな奴がマザコンだったとは」

「マザコンで廃ゲーマー……お友達にはなりたくないなぁ」


 もうやめて差し上げろ。俺のライフは1しか残ってないんだからっ。


『カイト様……』

「やめろっ。お前までそんな目で俺を見るなっ。違げぇし、マザコンじゃねえしっ!」


 同情するかのような目で俺を見つめる受付嬢。ライフは……残っていない。


「違うんだよぉ。こっちで美味いもんばっか食ってるから、体脂肪率がやばいんじゃないかって心配なだけなんだよぉ」

「体脂肪率とお母さんの手料理と、どう関係があるの?」


 あるある。

 なんせお袋は栄養士だ。

 じいさんに強要されていた空手に柔道に剣道にと、続ける必要が無くなって止めた途端、体重が一気に増えたもんだ。その体重を戻す為にお袋が栄養のバランスを考えた、それでいて美味い飯を毎日作ってくれた。体重は戻り、体脂肪率も11%をキープし続けている。

 いや、していたというべきだろうなぁ。絶対デブってるよ。


「体脂肪率…・・・11%ですって」

「羨ましい。いえ、憎い。何の努力もしないでお母さんの美味しいご飯食べて痩せれるあんたが、憎いっ!」

「ちょ、努力はしてるさ。毎晩腹筋とかスクワットとか――」

「男のくせに体重だの体脂肪率だの気にしてるカイトくんが憎いぃ〜」


 ちょ、酷い。

 なんで体重の事でこんなに憎まれなきゃならないんだ。女子って怖い。


「カイトさんのお母さんに、ダイエットレシピ紹介して貰いたいよぉ〜」

「寧ろ我が家でご飯作ってください」

「カイトっ。あんたのお母さん、紹介してよっ」

「私もぉ〜」

「私も私も」


 お袋喜べ。あんたの知らないところで大人気になってんぞ。どうせならダイエットレシピ本でも売り出せばいいんじゃね? あ、もちろん俺のこの引き締まった肉体を宣伝に使ってくれてもいいんだぜ。


「おい、カイトの奴、なんかにやけてるぞ」

「不埒な事でも妄想しているのであーるな」

「わぁ、マザコンで変態だ〜」


 きっと男どもを睨み付ける。

 直ぐに視線を逸らして鳴らない口笛なんかを吹きやがって。


「家庭料理じゃないけど、週二は通ってた近所のラーメン屋……行きたいなぁ」

「そういえば、今度うちの近所に新しいスイーツ店がオープンするんだけど、オープン記念に食べ放題ビュッフェが開催されるんだった!」

「うわっ。何それ行きた〜い」

「あれ? そのお店ボク知ってるかも」

「えぇ〜。ナツメ君知ってるの? え、つまりご近所?」

「えぇ〜。やだぁ」

「なんでナツメのほうがヤダとか言ってんだよ」

「はぁぁ〜……気楽でいいよなぁ。俺なんてリアルに戻ったら、大急ぎで大学のレポートを作成しなきゃならないのに」

「おい、思い出させるな。会議の資料作成……うあぁー流行戻りたくない気もしてきたぁ」


 なんだろうな。さっきまでこの世の終わりみたいな雰囲気だったのに。

 もう皆、笑ってらぁ。


 ふと、隣に座る受付嬢と視線が合う。こいつは……うん、この世の終わりみたいだな。

 眉を顰め、険しい表情のままだ。


『カイト様……お帰りに、なりたいですか?』

「そりゃあ……あ……」


 そうだった。こいつは、NPCなんだよ。

 このゲームをサポートする役目を持った、サポートAIじゃないか。

 つまり、受付嬢の帰る場所はここであり、現実世界に帰るなんてことも……ない。


『皆様、お帰りになりたいのですね』


 ぼそりと呟く受付嬢は、どこか寂しげに見える。


『カイト様も、そうなのでしょう? ゲームを止めて、あちらの世界に帰りたいのですよね』

「お前……皆が帰っちまったら、一人残されて寂しいとか、思ってるのか?」


 小さな声で尋ねると、同じく小さな声で『はい』と答える彼女。

 まぁNPCはログアウト出来ないもんなぁ。そりゃあ、寂しいか?

 けど、ログアウトしちまえば皆条件は同じだろ。どこの誰かも解らない、もしかしてナツメやエリュテイアみたいに実はご近所かも、元々友達同士で参加なんてこともあるだろうが、大半は見ず知らずの赤の他人でしかない。

 ログアウトしている間、一部のプレイヤー同士以外は誰とも会えないんだ。


「ログインすりゃあまた遊べるだろ? それともお前、ログアウトしたらしっぱなしだとでも思ってるのか?」

『え? し、しかし、あの。だって、帰りたいと――』

「んー……だってこれはゲームだろ? ログアウトするのは当たり前なんだよ。えーっとな、ゲームは楽しむためにプレイするもんだろ。中にはストレス発散の為ってのもいるだろう」


 俺は前者だな。まぁ後者も少し混ざってることはあるが。寧ろ安心してゲームで課金できるように、フリーターやってるようなもんだしな。


「楽しい事が長く続くのは嬉しいけど、それが毎日続いたらそれが当たり前になって『楽しい』じゃなくなるんだよ。しかも二十四時間ずっとだぜ。寝ている時ですら楽しい世界の中だったら……それはもう日常だろ?」


 めりはりってのが大事なんだよ。


「だからさ、接続時間制御ありの、普通のVRMMOでいいんだよ。その方がずっと楽しめる――気がする」

『普通の……ログインして、ログアウトして、それからまたログイン……してくださいますか?』


 真っ直ぐ見つめる蒼い瞳。

 どっきゅんっ。

 な、なんでそんな潤んだ目でこっち見んだよ。


「お、おぅ。お、お前とは、友達、だからな。ゲームん中でしか会えないんだったら、毎日欠かさず、その……遊びに来るさ」

『本当に本当ですかっ』


 立ち上がってがしっと腕を掴む彼女。その顔は真剣そのものだ。


「ほ、本当だって」

『本当、ですね……嬉しい』


 ぼそりと呟いた最後の言葉……嬉しい、だと?

 おい、そんな……そんな事言われたら俺――俺――


「あー、はいはい。なんか見せ付けてくれちゃってますよ」

「毎日欠かさず君の家に遊びに行くよ、だってさ」

「っぷ。やぁ〜ら、しぃ」

「前々から思ってたけど、やっぱり二人は付き合ってるんでしょ!」

「ふわぁ〜、ご結婚おめでとうございます〜」


 ちょ、おい、何言ってやがるんだっ。

 つうかココットは何故そこまで飛躍させてんだっ。


 おい、聞けよ。無視すんな。


 あ、喋ってなかっただけか。

 ははは。


「って、お前ら勝手に解散するなよっ。おい!」


サブタイトルですが、間違っても「結婚おめでとうごぶ」ではありません。

殴られて最後まで言えなかった……というのをもう少し上手く書ければなぁ。

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