136:レイド攻略の光と闇
「どうだった?」
とはナツメの言葉だ。で、それが意味する内容は――
「あったっ!」
「きゃ〜っ。何これ何これっ。すっごい性能の剣が出たぁ〜」
「マジで? エリュちゃん見せて見せてっ」
「むぅ〜。儂は盾が欲しかったのであーる。なのにガントレットとは……」
「あはは。取引可能だったらこっちの盾と交換するんだけどなぁ」
「レジェーンド!」
「何ぃー。こっちはミドルだったんだぞ。マジかぁ」
「レジェンド出たけど、アクセっす。弓が欲しかったっす」
「うーん、素材かぁ。これで武器作って貰って――でも失敗したら泣ける」
「レジェンド素材? ボクに依頼してこないでよっ。それで失敗するのヤだからねっ」
ドロップアイテムが誰の手に渡ったのかという事だが、どうやら俺たちの『レイドパーティー』にだけ報酬が渡ったようだ。
他のプレイヤーからドロップを喜ぶ声は一切聞こえない。
ラスト、怒涛のダメージラッシュをしていたサンダーボルトの連中に至っても――
「いやぁ、やっぱり外野にはドロップが来なかったようだね。こっちのメンバーも誰一人アイテムを拾ってないよ」
とわざわざ報告にまで来てくれた。
律儀で濃い奴だ。
ドロップアイテムに有り付けなくて凹んでる奴もいるが、それ以上にレイドモンスターを倒したという達成感で浮かれている方が多い。
しかも、こんな大人数だってのもあって、ちょっとしたお祭りムードだ。
公式イベントなんかにある、巨大モンスターを打ち破れ! みたいな、途中からはそんな感じだったもんな。
俺もひさびさにワクワクしたぜ。
「おつ〜」
「レイドおめ〜」
「あぁ、俺ももうちょっと早くきてたらなぁ〜」
「いやぁ〜、死んだ死んだ。っと、デスペナないじゃん!」
「おぉ、マジだっ」
「町中だったからじゃね?」
「ありがたや〜」
もとより経験値バーがゼロだった俺としては、あまり関係ないな。
コボルトキングの屍は既に塵と化し、四散してその欠片さえもどこにも見えない。
集まったプレイヤーが皆して談笑する中、NPCらしき服装の若い男が駆けて来た。
「親父!? お、親父を誰か知らないか? ここの林業組合で働いていた親父をっ」
勝利の余韻に浸る中、熱気に包まれていた空気が一変する。
「親父ぃ、親父ぃー!」
林業組合所――というより、元跡地と言うべきか。
コボルトキングに踏み荒らされ、プレイヤーによる魔法で焼かれ原型すら留めない建物。それが林業組合所の建物だった。
周辺――といっても林業組合所自体が森に隣接するように作られた建物で、少し離れた距離に工房や住宅がある。付近の住民たちがどこからともなく戻ってきて、この惨状を目の当たりにしていた。
「なんてこった……家が……」
「あぁぁぁぁぁ。俺の、俺たちの家があぁぁっ」
「母さんを見なかったか? 忘れ物があるからって……母さん!?」
「うわーんうわーん。おとうさーん」
悲壮感しか漂っていない雰囲気に、さっきまで有頂天だったプレイヤーも全員静まり返る。
俺たち……レイドボスの攻略をしてたんだよな?
いや、もう攻略っていうレベルじゃなかったけど。
そう、祭りだ。イベントだ。
巨大モンスターを皆で協力して倒す。
そういうお祭りだったんだ。そのはずだったんだ。
なのになんだ、この胸糞の悪い展開は。
楽しかったはずの雰囲気が一変して、重苦しい空気に包まれてるじゃねえか。
え……なんだよこれ。なんで……なんでゲームなのにっ。
「カイト!」
俺を呼ぶ声に振り向くと、蒼白い顔をしたソルトが駆けつけて来た。
「ソルト! 無事だったか? 怪我はねえか?」
顔見知りの奴が生きていることに、俺はほっと胸を撫で下ろす。
こいつはNPCだ。なのに……生きて俺の前にいてくれる事が嬉しいと感じる。
こいつはNPCなのに……。
「俺は……大丈夫だ。けど――っ」
言葉を詰まらせるソルト。その表情は暗く、もう嫌な予感しかしない。
「ばーちゃんが……ばーちゃんがコボルトどもにっ」
そこまで言うと、ソルトは声を荒げて泣き崩れた。
これは……ゲーム、なんだよな?
それとも実はゲームそっくりな異世界に集団転移してますなんてオチなのか?
なんで……
なんでゲームやってて、こんなに苦しくなるんだよっ!
こんなのゲームじゃねえっ。
ぜんっぜん楽しくなんかねえよっ!
お昼12時と13時に予約投稿します。
ちょっと暗い内容になりますが、明日の更新でまた復活しますので生温かい目でご覧ください。




