132:カジャール
「じゃあ全員で手分けしてそれらしいのを探そう。いきなり町中にポンと出てくるとも思えないし」
「林業組合ってのが一番妖しいんじゃね?」
「そうよね。あの辺だけ町を囲ってる柵が無いもの。外から自由に出入りできそうな所だもんね」
「だが意表をついて……ということもある。満遍なく探そう」
こんな感じでカジャール中を探索する事になった。
俺は受付嬢と一緒にある場所へと向う。
林業組合から比較的近い位置にある――
「ソルト! 大丈夫かっ」
そう叫びながら、奴の――というかおっさんの店を尋ねた。
戸を勢いよく開け放ち、そこで見たものは……
「いぃ〜ら〜っしゃぁ〜い」
「うぼぁっ! ば、ばーさん!?」
だからなんで店内の明かりを最小限にして、オバケ屋敷みたいな演出すんだよっ!
怖ぇーから、マジ怖ぇからっ。
「んあ? どうしたんだ、カイト。血相変えて」
「おいソルト。ばーさんを店番に立たせるなって。客が逃げるぞっ」
ひっひっひとか言いながら、ばーさんはカウンターから降りて店の奥へと引っ込む。
「あぁ。実は忙しすぎて、わざとばーちゃんに店番頼んでんだ」
「……どんだけ人気店になってんだよ」
『おめでとうございます』
「おう。ありがとうよ。それもこれもお前らのお陰だ。ただ少し忙しすぎて、困ってたりもするんだけどな」
だからってばーさんを客避けに使うとは……。
まぁ効果は絶大なようだが。
っと、そんなことはどうでもいいんだった。
「ソルト。町でコボルトの姿は見てないか?」
「コボルト? いや、見てな――」
《きゃあぁあぁぁぁぁぁぁっ》
ソルトが口を開いて喋りだした途端、遠くで悲鳴があがった。
慌てて俺たちが店を出ると、工房付近から煙が上がっているのが見えた。
「まさか……」
コボルトキングの襲撃か?
そう考える俺の隣では、
「あっちゃあ。誰か窯を爆発させたのか。あの煙じゃあ、暫く工房は使えそうにねえな。ちょっと見てくるぜ」
「え? 窯? お、おい、ソルト」
「用があるなら、また後で来てくれっ」
そう言ってさっさと走っていきやがった。
工房の窯が、爆発……か。なんだ、コボルトキングの襲撃じゃなかったのか。
ほっと胸を撫で下ろしたところで、今度は――
「げっ。なんだこいつら! なんでコボルトどもが町の中にいるんだよ!?」
という、少し離れた所で叫ぶソルトの声が聞こえた。
「大丈夫だったか、ソルト?」
「あ、ああ。くそっ。なんでコボルトが?」
受付嬢と二人で駆けつけ、その場に居たコボルト四匹をすぐさま撃退。
周囲に他のコボルトは居ないようだ。
「お前、さっきコボルトがどうとか言ってたよな」
「あぁ。実は――」
砦でのコボルトキング戦や、リリカの母ちゃんから聞いた話をソルトに伝えた。
カジャール住人というのもあってか、以前はここにコボルトキングが住んでいたことをソルトも知っていた。
「俺を追ってなのか、それともカジャールという言葉で故郷を思い出したのか……どっちにしろ奴はここに来るんじゃないかと思っているんだ」
「マジかよ……お前、奴を倒すつもりなのか?」
「いや、つもりっていうか、倒さなきゃまずいだろ?」
「そりゃそうだ。責任もって倒してくれよな」
責任……あぁ、コボルトキングをここに呼んだのは、確かに俺の責任だよな。
「解ってる。絶対、絶対に奴は俺が倒すっ」
「よし! よく言った。俺もかげながら応援するぜ」
「お、おう」
なにをどう応援するのかは解らないが、なんとなく、俺の心に高揚感が沸く。
その時、町の東側から煙が上がっているのは見えた。
「まさか意表をつかれたか?」
『こちらのパーティーチャットで、東の住宅街に多くのコボルトが現れたと報告が』
「糞っ。こっちは囮か!?」
少数のコボルトで騒ぎを起こし、プレイヤーや住人の目をこっちに向けてたのか。
実際、この周辺にはさっきの煙を見て集まってきたプレイヤーがかなり居る。
コボルトキングの事など知らずとも、モンスターを見つけて「襲撃イベントか?」とざわついている。
そして、東の住宅街といえばプレイヤーにとって何もない地域だ。うろついてる連中がそもそも少ない。
初動が遅れたっ。
糞……
「受付嬢、走るぞ!」
『はいっ』
彼女の手を取り、『電光石火』で通りを走り抜ける。
俺たちが東の住宅街に到着したとき、まだコボルトキングの姿は無かった。
だがその代わり、数百に近い数のコボルドがわさわさいやがった。




