131:家出の行方。
砦内にコボルトキングの姿は無かった。
奴はおろか、雑魚のチワワ軍団の姿もない。寧ろ砦外、通常フィールド上にもギョロ目チワワどもがいない。
マジ、どうなってんの?
コボルトキングは買い物にでも出かけたのだろうか。
なんて冗談を言ったら、フルボッコされた。
戻ってくるのを待ってても仕方が無い。もしかしたら何かしらのイベントなのかもしれない。
とりあえず全員でマイホームへと帰宅した。
「とりあえずさ、掲示板とかで情報収集かな?」
ナツメの提案で各自、情報収集を始める。コミュ力のある連中は、フレに尋ねてみるらしい。
俺のフレって、登録してある数少ないメンバーは全員ここにいるわ……。
掲示板でも見てみるかな。
「あ、カイト君はさ、ポーションの量産しててよ」
「え、あ、はい」
何故か丁寧な返事を返してしまう俺だが、ポーションは大事なアイテムだ。
蘇生ポーションとか作れたらいいんだけどなぁ。今度オタルさんに聞いてみるかな。
リリカとアオイに草を集める手伝いをして貰う。受付嬢は素材加工までの工程をやってくれた。
ガンガン製薬しまくる。リカバリーポーションの注文が相変らずらしいので、ついでに作っておくか。
「そういや、『リカバリーレジスト・ポーション』って需要あるかな?」
『『リカバリーポーション』の需要があるようですし、そちらも売れるのでは?』
「まだ現物を試した事ないもんな。一定時間、状態異常攻撃に対して耐性が付くってなってるけど、実際どうなんだろうな?」
『どう、とは?』
「どの程度の耐性が付くのかってことだよ。確率なのか、確実なのか」
『後者でございますよ?』
「へ?」
『……いえ、なんでもございません』
言った。こいつはっきり言いやがったぞ!
確実に耐性が付く!!
状態異常食らわないってんなら……あ、そうだ!
『ベナムクラッシャー』が使えるかもしれん。あれ、範囲内の全てのものを毒状態にするってあったし、皆には事前にポーション飲ませて耐性つけて貰えば……。
上手くやれば全エリートを一網打尽にできるかも?
ただ、一網打尽にしたところで、再召喚されると意味ないけどな。
リベンジ戦があるなら、一番最初に試してみよう。そうすりゃ被害は最小限だ。
せっせせっせとポーションを量産していると、リリカの母ちゃんがやって来た。
「お帰りなさいカイトさん。帰宅早々、お忙しいみたいですね。コボルトキングはお倒しになられたんですか?」
「ど、どうも。いやぁ、コボルトキングがその、砦から消えちまって」
「消えた?」
最初に会ったときよりだいぶ顔色が良くなった母ちゃん。薬の効果か。まぁ定期的に飲んでないと、すぐにゲホゲホ言う設定なんだろうな。なんてプレイヤーの良心を試すようなキャラなんだ。
そんなリリカの母ちゃんは暫く考え込むような仕草で固まっていると、ふいにまた動き出した。
「カイトさん……。実はコボルトキングは元々、カジャールの北西にある森に住んでいたのです」
「……はい?」
突然の母ちゃんの話に、俺は目を丸くした。
私の曽祖父はカジャール出身なのですが、当時はまだ北西の森にコボルトキングが住んでおりました。
工房エリアの奥に林業組合というのがありまして。そこで曽祖父の更にその父が働いていたそうです。
林業組合は森の直ぐ脇にあった為、コボルトによる被害も何度かあったとか。
何十年、何百年とコボルトとの睨みあいは続いていたのですが、曽祖父がまだ幼い頃に通りすがりの騎士様が、コボルトキングを懲らしめてくれたそうなのです。
コボルトキングは北の森、つまり月光の森の更に西にある山間に逃げた――と。
「山間? 森じゃなく?」
「はい。しかし山間には彼らの餌となる獣も少なく、森に下りる機会を伺っていたのだと思いますよ」
それでか。アオイの母ちゃんが村を守るのを止めたから山から降りてきて、ちゃっかり森の隅っこにでも居ついたんだろう。
村を襲った時、俺らとの戦闘でアオイの母ちゃんが登場。
こてんぱんにやられて東に逃走して――じゃあ今度はどこに?
そもそも誰かにやられたのか?
俺らが退散したあと、それほど間を空けずにリベンジしに行った筈。
その間に誰かが倒したってのか?
それに関しては直ぐに答えが出た。
「倒された形跡は、無し?」
住民食堂に戻ってくると、頭を抱えたナツメに話を聞いた。
「うん。さっき砦前に居たレイドパーティーに、野良で組んだ事あった人いたから聞いたんだ。ボクらが撤退したあと、直ぐに別のパーティーが突撃したって。で、そのパーティーの時から既にコボルトキングは居なくなっていたと」
「マジか……俺ら倒してないよな?」
「せいぜいHPの三割を削った程度だったよ」
「うふふ。もしかして、カイトさんの事をす〜っごく怨んでて、追いかけてきてたりしてぇ」
「ははは。ココットちゃん。それ、ちょっとしたホラーだよ」
ホラーどころじゃねえよ。しかも楽しそうに話してんじゃねえよ。
どこまで執拗なんだ。
「じゃがコボルトキングはカイトの住んでいる場所は知らぬのである」
「鋼のおっさん、ココットの戯言なんか間に受けるなよ」
「んむ」
「ふぇ〜ん、酷いですぅ」
だいたいプレイヤータウンには入れないだろ?
もし追いかけてきてたとしても、ここなら安全だ。いや、別に逃げたい訳じゃない。寧ろ倒したいのだからな。
『あの……よろしいですか?』
「はい、受付嬢クン、どうぞ」
『ありがとうございます、カイト先生様』
そこで様はいらねえっつーの。
こいつもノリが良くなってきたなぁ。俺の教育の賜物か。
『カイト先生様がお死にになられている時、一時撤退をワタクシがお伝えしたのですが』
「あぁ。ひとまず撤退してカジャールで……カジャール!?」
『はい。カジャールでございます』
思い出した。
デスリターンの際に聞こえた、奴の言葉を。
受付嬢も聞いたのだろう。だから神妙な顔で俺を見つめている。
あの時の奴の言葉……
《ガ、ジャー、ル゛》
お読みくださりありがとうございます。
コボルトキング、実は雌なんじゃ……とか脳内設定考えてみたけど、やっぱ無理ですわ。
新作VRは本日同時刻に投下いたします。
明日からにしようと思ったのですが、ちょっと多めに書けたので今日からに。
まだ予約投稿なのでページ確認も出来ず、いろいろ心配ではありますが……。
とりあえずURLはたぶんこれ
http://ncode.syosetu.com/n0171dy/
『イケメン(?)な変態が現れた。友達になりますか?はい・いいえ』
よろしければこちらもご覧頂けると嬉しいです。




