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124:あなたが落としたのは?

『あなたが落としたおっぱいは金のおっぱいですか? 銀のおっぱいですか?』

「うーん、どっちかなぁ」


 池の上に、右手には金色に輝くおっぱい|(片方だけ)を持ち、左手には銀色に輝くおっぱい|(もちろん片方だけ)を持って立つ綺麗な女の人がいた。

 どうやら俺はおっぱいを落としたらしい。

 金色だったり銀色だったりと、一見すると硬そうな印象があるんだが、其の実二つのおっぱいはぷるるんと揺れていた。まるでゼリーかプリンだな。

 だが俺が落としたおっぱいは、たぶん肌色なんだっ!

 現物を見た訳じゃないから解らないが、肌色だ。


 ん?

 現物?

 現物ってなんだ? あれは俺のおっぱいじゃないのか?

 俺の――胸元を弄ると、ちゃんと俺のはあった。寧ろ女の人が持ってるおっぱいが俺のだったら拙い気がする。

 俺はいつからネカマになったのか、と。


『さぁ、あなたが落としたおっぱいはどちらでしょう?』

「うーん……これは夢だな。うん」

『ピンポンピンポーン。正解で〜す』


 おっぱいがクラッカーになってカラフルな紐が飛び出してきた瞬間――

 目が覚めた。


「……なんつぅうシュールな夢だよ」


 冷静になって考えればかなりシュールな光景だったな。

 右か左か知らない片方だけのおっぱいを、左右色違いで持ってる綺麗な女の子だぜ。

 泉の精とかのオチだってのは解るけど、なんでおっぱいなんだよ。


 あれ?

 そういや俺、なんぜベッドで寝てるんだ?

 自室のロフトにおいてあるベッドで目覚めた俺だが、自分でここまで上がってきた記憶が無い。あるのは、上がろうとしてNPCのあの女が来た記憶か。

 確かMPKに仕返ししたってことで、処罰対応されたんだよな。


「あー、八時間は経験値無しだったよな。残り何時間だ?」


 タブレットを開くと、画面の右下に赤い文字でカウントダウンの数字が書かれていた。

『3:08』とあるから、残り三時間と八分ってことかな?

 飯食って狩りの準備して――でもまだ少し余るな。


 顔を洗って部屋を出ると、ちょうと隣の部屋から受付嬢も出てきたところだ。


「おう」

『あ、カイト様……お、おはよう、ございま、す……』

「お、おぅ? なんかあったのか?」


 いつも以上に控え目な態度で、何故か顔を背けたりしている。


『あの、何かというか……その』


 身を捩って胸元を隠す仕草なんかしている。

 あ……


 昨日、というか今日か?

 受付嬢が俺の手を鷲掴みして、自分のおっぱいを……触らせてたんだっけか!

 おお、お、俺の意思じゃねえかならっ。俺が触りたくて触ったんじゃないからなっ。こいつが触らせてたんだからなっ。

 そう、金のおっぱいに!


 金のおっぱい?


 ……ふ。さっきまでの興奮はなんだったのかな。

 もうね、なんていうかね、一気に醒めましたよ。


「受付嬢。Cなんちゃらのやったことは気にするな」

『C-11111SAです。今度あったときに、またそのように呼ばれていたら、怒られますよ?』

「ふ、気にするな。些細な事だ。さ、飯食おうぜ。飯の後狩りの準備して、それから……何して暇つぶしするかなぁ」

『そうですね。残り時間が三時間と一分十五秒…・・・十四秒……』

「カウントダウンしなくていいから」


 相変らず細かい奴だ。

 階段を降り一階の食堂へと向う。

 既に飯を食い終えた同居人たちは、狩場の算段なんかを始めていた。

 クィントともっすんも起きてたか。飯は――今からみたいだな。


「ぉっす。ぉ、はよう」


 ふぅー。最近やっと、自分から朝の挨拶ができるようになった。成長したもんだ。


「おはようっす」

「おはようゴザいマース。今日もピラミッドダンジョンに行きまスかー?」

「いやぁ、その事なんだけど……」


 どうやらこの二人にはペナルティが与えられなかったみたいだな。とすれば、美樹もだろうな。

 二人にかくかくしかじかで夜中の出来事を説明する。もちろん、感情がどうのとかおっぱいもみもみの話は無しで。

 そんな話したら、変態エロ破壊僧が発狂することだろう。


「ありゃ〜、MPK認定されたっすかぁ」

「oh……カイトと受付嬢さんだけとは。オレも受付嬢さんと一緒に、罰を受けたかったデス」


 こいつが言うと、なーんか下心があるようにしか聞こえないから不思議だよなぁ。

 

 貴重な時間だからこそ、俺と受付嬢に付き合ったりしねえで、レベル上げを優先させて欲しい。

 今日は二人との狩りも断念しよう。


「さて、残り時間をどう過ごすかなぁ……」


 飯を食いながら呟いていると、


「じゃあさ、ポーション作ってくれないかな?」


 とナツメがやってくる。


「じゃが経験値が入らぬのじゃろ? 製薬ポイントも増えんのではないか?」


 と鋼のおっさんが言う。

 そうだろうな。一切の経験値が――だから、生産行動での経験値も入らないだろう。

 けど、別にそっちのレベルは上げたいって程でもないんだよな。

 実際今作れるポーションの使用可能レベルと、俺たちのレベルが合致してるし。製薬レベル上げ次のレベルのポーションが作れても、こっちが飲めないレベルだと意味が無い。


「ナツメの手持ちが少なくなってきたのか?」

「うーん、それもあるんだけどさ。レイド戦だと馬鹿みたいにガブ飲みするだろうからね。今の内にレイド用のポーションを作っておいて欲しいかなーって。でも経験値入らないんじゃ悪いよね」

「あぁ、なるほど。解った。経験値はいらないんだよ。だって製薬レベル上げたって、ポーションが飲めるレベルにこっちがなってないし」

「そっか。そういやそうだね。じゃあ採取を少し手伝うよ」

「いやいや、そっちはそれこそ受付嬢に頼むから」

『はい。ワタクシもペナルティを頂いていますし、お手伝いいたします』

「アオイもお手伝いするお〜」


 元気良くアオイが手を上げる。が、俺の頭上ではなく、少し離れた席からだ。

 ぉ、隣にはリリカが座ってんな。あの二人、年齢も近そうだし――外見年齢の事だが――いつの間にか仲良くなってんだな。


「あ、私もお手伝いします。昨日採取した分もありますし」

「お、じゃあ俺は製薬するかな」


 そういやリリカには栽培と採取を頼んでたんだっけな。

 飯を食い終え四人で移動する。

 じゃあ俺は製薬に、受付嬢とアオイ、それにリリカの三人が採取に――と言おうとしたが、その前に受付嬢が


『ワタクシも製薬を覚えようかと』

「え? またなんで?」

『はい。他の皆様が採取しておりますし、製薬のほうが追いつかなくなっている気がしまして』

「気がしてるんじゃなく、まさにその通りだな」

『はい。ですので、薬草の加工まではお手伝いしようかと。加工まででしたらどの種族が行っても、レベルやステータス以外での効果は変わりませんし。ポーション作成からがケモミ族男性の特殊効果となりますから』

「あ、そうなのか」

『はい、そうなので――あっ』


 あ、こいつまたうっかり喋ったな。

 にやり。

 サポートAIつっても、要はGMゲームマスターみたいなもんだからな。そっち側の人間、いやこの場合人工知能? キャラ? まぁなんでもいいや。

 裏事情を知るこいつが「そうだ」と言っているのだから、素材加工の時点まではケモミ族男の効果は無駄ってことだな。

 まぁ確かに今まで、素材加工してて星マークなんて付いた事なかったし。

 まぁそういう事なら素材の加工は受付嬢に頼もう。






「カイトぉ〜。持ってきたぉ〜」


 地下の工房に大きな籠を持ってアオイとリリカがやってきた。籠の中は草だらけ。


「おぉ、草の種類ごとに仕切りをして持ってきてくれたのか」

「は、はいっ。お花を摘むときも、種類や色別にして籠に入れてましたから」

「へぇ、しっかりしてるんだなぁ。いやぁ助かるぜ」


 きっとアオイだけに任せたらこうはいくまい。

 いやぁ、良い子を拾ったなぁ。


 大きな籠とは別に、リリカが小さな籠に入った草をおずおずと差し出してくる。

 お、そういや母ちゃん用の薬も作ってやらなきゃな。


「そっちが母ちゃんの薬用のか?」

「はいっ。あの、それともう一つ」

「ん? 他にも必要な薬でもあるのか?」


 籠を受け取りながら尋ねると、どうやらそうではないらしい。


「昨日、お昼にお店のお手伝いをしていたんですけど、『リカバリーポーション』を買いに来る方が多かったんです。でも在庫がほとんどなくって……」

「あぁ、最近は店に出すポーションの製薬もあんまやってなかったしな。そんなに多かったのか?」


 こくりと頷くリリカ。

 『リカバリーポーション』は状態異常を回復させるポーションだが、客の話しだと砂漠や南の海底ダンジョンに状態異常攻撃をしてくるモンスターが多く、そこを狩り場にしているとどうしても必要になるんだとか。

 なるほどねぇ。


「そういや、『リカバリーレジスト・ポーション』も作れるんだったよな。耐性がどのくらい効果あるか解らないが、あれば便利かもな。よぉし、リリカ、ウゴン草も大量に栽培してくれ」

「はいっ、解りました」

「アオイも頑張るぉ〜」






 その日の夕方。

 狩りから戻ってくると、リリカと、留守番をしていたアオイがほくほく顔で大量のウゴン草を持って待っていた。

 俺と受付嬢は夜遅くまで地下の工房に引き篭もる事になるだろう……。

超久々の更新です。

スローペースですが、ちまちまと更新を再開させていきます。


ブクマや評価が増えると喜ぶやもしれません。

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